夏風
5月になった。
木を揺らすほどの強い風と共に、夏が始まる匂いがする。
今、娘は保育園に通っている。
やっと慣らし保育が終わり、15時30分まで預かってもらえることになった。
園では最年少なので、他の先輩園児がガラス越しに見にくるらしい。
少し前まで自分が赤ちゃんだった人達が、そんなに歳も違わない赤ちゃんに興味を持つ光景は、想像しただけで可愛いし面白い。
娘がいる0歳児クラスは6人いて、名前がお便りに書いてあったのでみんなの名前を覚えた。
ママ友同士が呼び合う「◯◯ちゃんのママ」っていうのは、こういうとこから発生するんだなぁ…と謎の感動をする。
同じクラスのママと仲良くなりたい気持ちもあるが、私は他のママ達みたいに仕事で預けていないので園に対しても他のママに対しても、後ろめたさがずっとある。
「疾病で預ける方もわりとみえますよ」
と言っていただけても、自分の中では「自分では面倒を見切れないという甘えなんだ…本来は0歳児は母親と一緒にいたほうがいいのに…」とネガティブになってしまう。私らしくない。
育児に対しては常に自信がなく、ネガティブになってしまう。
きっと経験と正解がないからだと思う。
毎日が初めての経験で、放っておいたら簡単に死んでしまう小さい命。何をするにも「これで合ってる…?」の連続だ。
きっと子供が30歳とかになっても、相変わらず自信はない気がする。それが親なのかもなあ。
娘を園に送った帰りに住宅街を通るので、家々を観察している。
私がずっと気に入っていた、人が住んでいるのかよく分からない洋館のようなお家は一旦平地に崩されて、よく見るタイプのスマートなお家になっていた。
最近気に入っているのは、色とりどりの様々なお花が道まで溢れた絵本のようなお家と、大きなコンクリートの塊が浮いているようなお家。後者は多分、建築関係のお仕事をされているのではなかろうか。
この家は2階部分のここを建て増したんだろうなぁ
この芸術的な門はオーダーなのかな
この外装は好みだ、私も建てるならこうしたい
こういう2世帯同居なら棲み分けできていいなぁ
とか、妄想を挟みながらキョロキョロしている。
我が家に一軒家を建てる話は全く出ていないし、もちろん親と同居する話も出ていない。
一軒家は住んでいる人の個性が出て楽しいし、アパートやコーポはちょっと懐かしいエントランスの雰囲気やベランダの柵が好きだ。マンションなら規則正しい形が気持ちいいし、立地や周辺の環境で住んでいる人を想像したりするのが楽しい。
Netflixとかで連続ドラマ見るより、色んな物件や間取りを見てるほうが楽しくて幸せかもしれない。
娘が生まれてからずっと頭の中が娘のこと、育児のことでパンパンだった。
それが夫の協力と保育園のおかげで、少しずつ自分の好きなことを考える隙間が出てきたかもしれない。
自分が全く消えてしまう前でよかった。
この、夏の始まりがきっかけをくれた気もする。
お菓子を作りたい
料理のリハビリをしたい
新しい服を買いたい
ラジオをまた聴きたい
髪を伸ばしたい
友達に会いたい
海へ行きたい
もっともっといっぱいやりたいことがある。
これからの毎日を楽しんで過ごしていきたい。