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カナリア①

1998年の秋
中学制服のシャツも長袖に変わり始めた頃、僕は学校の体育館前にいて、文化祭の目玉である軽音学部の演奏を心待ちにしていた。
 一つ年上の兄貴はミディアム程の髪の毛をこれでもかと言わんばかりにGATSBYのジェルで跳ねさせ、前髪で隠れた目線はどこを見ているかわからない。唇にシルバーのリップを塗りたくり、白いカッターシャツは出しっぱなし、胸元を第二ボタンまで開け、気だるそうな風貌で黒のレスポールを低めに担ぎステージに立った。
確かBurnyだったか、Epiphoneだったか、メーカーは曖昧ではある。


メンバーは皆同級生、おそらく運動部であろう出立ちは兄貴に比べ髪の毛は短髪でセットなどしていない。
首にタオルを巻き、腕まくりをして少々やや野暮ったい。当時の体育館は冷房など無い、蒸し暑い館内のステージ上に全体的にまだ少し照れ臭そうな立ち振る舞いのメンバーの中で、斜に構え前髪の隙間からどこか遠くを見つめて、凛としている様が一際目立つ兄貴を、僕はよくわからないがおそらくカッコいいと誇らしく思っていた。
観客のざわめきの中、ドラムのカウントが鳴り、兄貴とメンバーは彼女のmodernを弾き始めると、客席からは一斉に黄色い声援が飛び交っていた。
今思えば演奏レベルは高くはないし、8ビートやストロークの粒立ちももちろん合ってるなんてもんじゃないのだが、カッコいいという感情が先行し、理由などなく、大勢でとにかく騒げる状況かつ爆音の中、なにもわからない学生達にとってはその空間にいるだけで非日常であり、刺激的であり、少し大人になった瞬間だった事は察するに容易である。
 不良でもなく、でも大人しい訳でもない、勉強なんてやってる素振りはないのにテストでは良い点を取る。そのくせ不良の友達からは慕われ、携帯電話が普及し始めたその頃、頻繁に遊びに誘われ、めんどくせーと言いながら渋々出掛けてゆく兄貴を、やはり僕は憧れ、嫉妬にも似た感覚を味わっていた。

 僕はというと、癖っ毛モコモコセンター分けガリ勉メガネを脱したばかり、休日のゲームなんて時間の搾取だと早々に飽きてしまい、水の飲めないバスケ部などスポーツではないと偏った解釈(後にスポーツ中に水分摂取は大事と世間的になるのだが)で2年の初めに早々にやめてしまった。
なにもする事がない日常で、唯一やってみたいと思った事は、兄貴が弾いていたギターだった。でも唇にシルバーのリップは嫌だった。髪の毛外ハネは良いけど、僕は短髪だしJIROが好きだった。(兄弟でGLAYからコピーを始めているのでGLAYファン)
エレキギターを買いたかったのだがお前はアコギを弾けと兄貴に言いくるめられ、祖父に買ってもらったアコギはいつの間にか兄貴の部屋にスタンバイされ、日曜日の昼にはその部屋で弦を爪弾く音とその運指を食い入るように横で見ていた。

「お前も弾くか?」と兄貴が言う。
「うん。」と僕が頷く。
暫く弾いて見せた。こっそりと兄貴が帰ってくる前に教則本でコードを練習していたのだ。

「わりと出来そうだな、この曲出来るようにしとけよ。俺リード弾きたいし」
「うん。」

おぼつかない指で一生懸命弾こうとする僕を兄貴はどう見ていたのだろう。
まさかここまで続けるなんて思っていた訳ではないだろう。
数ヶ月後、兄貴は僕にギターの技術は追い越されたと言い、ベースに転身していくのだが。
 ただ、その時、思春期の兄弟の言葉少ない会話の中で、音楽で会話するという初歩の初歩がほんの少しだけ出来ていたのではないのか。
何かを始めるキッカケなんて、ほんの些細な事から始まるものであり、僕にとってその会話が今に至るまでのスタートだったと思っている。

続く
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Lavida inesperada
2020.夏
La vida inesperada(ラ・ヴィダ・インエスペラダ)結成
2021.5
ライブ活動開始
5月よりライブ活動開始
Rockを基盤とし、ska、latin、alternative、広い音楽性を1つにした楽曲がラインナップ

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HP

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