カナリア②

実家は少し小高い山肌に面した場所に建ててあり、目の前に田んぼが広がっている。その先には山が立ちはだかる、春になると山桜が咲き、天気の良い昼下がりには陽の当たる縁側で祖父と祖母は木々や花を眺めてお茶を嗜んでいた。
兄貴の学園祭ステージが終わりBELOVED、GLAYBEST、PureSoulとGLAYのミリオンセラーが続いたCD全盛期の90年代最期、僕は念願のエレキギターを手にしていた。
 お茶を嗜む2人を横目に僕は居間でGLAYのツアーVHSを画像が粗くなる程観てはステージングを真似しながらギターを弾き、通販で買ったギター初心者セットについてきたアンプからはクリーントーンしか出ない事に疑問を感じていたがギターが上達すれば歪んでくるのだろうと思っていたし、曲も20歳になれば勝手に良い曲が作れる様になると思っていた。
 エフェクターの知識やバンドスコアの情報源、新しいバンドの発掘などは街のショッピングセンターの中の書店に並ぶBANDやろうぜとGIGSの2冊だった。YOUNGGUITARはなんだか難しく感じていたのと外タレばかりでなんか魅力的には思わなかったから敬遠していた。
 今でこそYouTubeやネットですぐ調べればすぐにギター入門動画が溢れてくるが、僕の世代はそういうものだった。
相変わらずビジュアル系のバンド収集に勤しむ毎日だったけれど(因みにXJAPANは後追いである)当時、東京で起こっている事は全てTVからの情報であり、音楽番組やバラエティはフィクションなのかノンフィクションなのか、芸能人やミュージシャンなど実在するかどうかさえ曖昧な感覚で、東京なんて遠い国の話に思えていた。
まぁ進路も考えてない島根県の山間の過疎地に住む毎日学ランヘルメットチャリ通30分中学生の感受性とはそれくらいのものだった。そして成績も普通より下だった。

いつかは僕も唇にシルバーのリップを塗り、胸元をザックリと開け、黒い革パンを穿き、アリーナクラスの大舞台を駆け回り音楽に塗れた生活を送るのだと夢見ては、学校でそこそこに授業を受け、休み時間には机の端に彫刻刀でギターを彫り、放課後は軽音楽部の部室でGainツマミのあるMarshallの20wのアンプでギターを弾くか、Liveビデオを観ながらジャージ姿でギターを弾くかの2択、もはや1択である。
 そんな毎日の中、学校ではパンクブームが到来し同級生達はHi-StandardをはじめBRAHMAN,backdropbom,Thumb,Reach,HUSKINGBEE,所謂AIRJAM世代とされる音楽が流行った。僕にとってそれは大きな衝撃で、音楽ジャンルなんてものは存在しなかった脳内に、カッコイイものとして君臨していたビジュアル系のJ-POP音楽がダルマ落としのように順位が入れ替わった瞬間でもある。なんだこの音楽は?そしてTシャツ短パンでLiveだと?髪の毛も短いしなんかツンツンしてるし、唇銀リップなんて塗ってないし革パンも穿いてない、すんごいジャンプしてんじゃないの。と驚きを隠せずにいると、間髪を入れずまたもや兄貴が仕入れたGreenday,oasis,blur,NOFXなどの90年代を代表するレジェンド達の歴史的名盤を聴かされる事となり、国外の音楽がイケてるという風潮が瞬く間に広がった。それは脳内で大きなパニックを呼び起こし、同時に迷いを感じさせる事となった。

"僕は将来、唇銀リップ革パンか、半袖短パン短髪ツンツンジャンプか、どっちをすれば良いんだ…"

その痛快かつ超刺激なカッコイイの暴力である曲達はteenagerの夢を決めるには容易い程の情報量だったし、お陰で現在は髭モジャ頭柄シャツカーディガンデニムヘドバン男なので上手い事間を取った結果と言えるだろう。(上手くはないし、間も取れてはいない)



僕はまるで渇いた水田に水が這っていく様に、使い出して洗い物は2度目のスポンジの様に、当時のいろんな音楽を買って友達と貸し借りしてはMDに録音したりCDウォークマンを持ち歩いて聴き漁り、J-POPとインディーズシーンと洋楽Rockと思春期のフラストレーションをごった煮にしたようなミクスチャー少年になった。そして今年は僕らがバンドでステージに立つのだと文化祭に向けて練習に励むのであった。

 兄貴はというと、高校に進学し、新しく出来た友だち達とバンドを組んでいた。例に漏れず不良達には人気があり、いつも面倒臭そうに付き合っていたが、それはそれで楽しそうでもあった。
またしても先に行く兄貴、なぜそんなにも人たらしになれるのだろうか。。

続く

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Lavida inesperada
2020.夏
La vida inesperada(ラ・ヴィダ・インエスペラダ)結成
2021.5
ライブ活動開始
5月よりライブ活動開始
Rockを基盤とし、ska、latin、alternative、広い音楽性を1つにした楽曲がラインナップ

サブスクリプション

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5/22(月)吉祥寺NEPO
ツッキー(Lvi)弾き語り
"BY THE PARK #4"
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