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球面調和関数を超ざっくり理解

本Noteの目的

主目的は「球面調和関数が"どんな感じ"のものか」を理解することです。
関数の表式や、数学的な関係性など、厳密な話はたくさんわかりやすく正確な資料があるので、ここでは数式の理解というより、どういう意味合いを持つものなのか、と言うイメージを深めることを目的としてまとめました。
独学での理解によるものなので、不正確な部分を多分に含むと思います。

球面調和関数とは?

大雑把に言えば、球面調和関数は「球面上の波を表す関数」と言えるようです。
具体例として有名なものは、単原子に束縛された1電子軌道(s軌道、p軌道…)があり、これは(球面調和関数) × (動径方向の波動関数)と言うように、θ,φについての分布とrについての分布の積で表されます。

平面上の波

球面上の波である球面調和関数を考える前に、まずは平面上での波を見てみます。両者には類似の性質がいくつかあり、理解の助けになります。

(1)波の式と重ね合わせ、定在波

いきなりですが、1次元複素平面上の波を考えます。
$${f(x) = e^{ikx - \omega t}}$$


これはx軸上を+方向に進行する複素数の波になります。波と言っても実際には複素平面上の位相がらせんを描いて進んでいくイメージです。



実部だけを見れば三角関数になります。
逆向きの波と合わせると、定在波ができます。
$${e^{ikx - \omega t} +e^{-ikx - \omega t} = 2\cos(kx)e^{-\omega t}}$$
実部を考えると波の概形は移動せず、振幅のみがtの項によって振動することがわかります。また、定在波になると、複素関数だった時には存在しなかった節が発生するようになります。
これは3次元空間にも拡張可能で、$${x,y,z}$$それぞれについて$${k_x ,k_y , k_z}$$を考えれば良いです。

(2)波による分解(フーリエ級数展開)

平面上の周期的な関数は、波の重ね合わせとして展開できます。
$${f(x) = \sum_{n=-\infty}^{\infty} c_n e^{i k_n x}}$$
ここで波数$${k_n = 2\pi n /L}$$です。振動の数nの異なる波の重ね合わせに分解できると言うことです。
これも3次元に容易に拡張できて、$${x,y,z}$$それぞれについて$${k_{n_x} ,k_{n_y} , k_{n_z}}$$の波数の波の重ね合わせに分解できます。

球面の波

平面ではx,y,z方向の波を別々に扱うことができて、それらを掛け合わせれば3次元の好きな方向への波を表現できました。
球面上での波では、x,y,z方向を別々に取り扱うことはできなくなります。
x,y,z平面の波は3方向それぞれの振動の細かさを表す整数$${n_x ,n_y , n_z}$$で表せましたが、球面の波では2次元の自由度を反映して、$${l,m}$$と言う二つの整数の量が出てきます。
$${l}$$というのは1次元の波における$${n}$$と同じように、波の振動の細かさ(次数)を表しています。
一方で、$${m}$$というのは、ある軸(普通はz軸)の周りを回る波の次数を表すものです。
つまり、
・球面全体での波の振動の細かさ
・そのうちz軸周りの成分
の2つで波が分解できることになります。z軸の選び方は自由に選べます。これは空間の波を分解するときに、x,y,z軸の向きを好きに選べるのと同様です。
これを踏まえて実際の球面調和関数のグラフを見てみます。
各方向の値の大きさを長さで、複素平面での位相を色で表しています。
$${Y_l^m}$$という表記で下についているのが振動の次数$${l}$$で、上についているのがz軸周りの波の次数に対応する$${m}$$になります。


gifで$${e^{i\omega t}}$$の位相変化をアニメーションでみると、mの値によって波の進行方向が違うことがわかりやすいと思います。

例えば$${Y_3^3}$$に注目すると、これは赤道付近に強い振幅を持ち、z軸周りに回転する波になっています。波はm=3であることに対応して、赤道周りに3波長分の振動があり、赤色で同位相な部分が3箇所あるのがわかります。
複素関数の波なので、三角関数と違って変位は一定で位相だけが回転していることに注意が必要です
$${m=2,1,0}$$とmの小さい方へ移動すると、z軸周りの同位相の赤線が2,1,0と減っていくのがわかります。z軸をまわる波の波数(~振動の数)が減っていることを示しており、この減った分はx,y軸をまわる波になっています。
$${Y_3^0}$$ではz軸周りに回転しても位相が変わらない(波が振動していない)ようになります。一方で、北極から南極まで移動する間に振幅が0になる節が3つあり、節をまたぐ度に位相(符号)が逆転しています。これは定在波が生じていることを示しており、北極〜南極〜北極というように、x軸やy軸周りに1周する間に3波長分、6回の節をまたぐことを示しています。
x,y軸周りの回転が定在波になっているのは、z軸周りの回転で波を分類(分解)したからです。

ここで、z軸周りに回転する波も定在波になるようにしてみます。
m=±1の波を重ねれば、右回り、左回りの波が重なり、平面波の場合と同様にz軸周りにも定在波ができます。
そうすると、z軸方向にも節ができて、波形は変動しなくなります。
また、位相が0(水色)かπ(赤色)だけになり、複素成分が消えて実関数になります。

これがよく見る原子軌道(p軌道やd軌道)ですね。
$${l=3}$$の波は$${2l+1=5}$$個あり、直交する基底関数の選び方は1つにはなりません。

  • z軸周りを回転する波に分解する

  • 定在波になるように波を重ね合わせる

という選び方をした組み合わせが、原子軌道でよく見る形状だということです。

球面調和関数への分解

平面の周期関数をフーリエ級数展開によって平面波に分けられたように、球面上の関数$${f(\theta,\phi)}$$は、球面調和関数の重ね合わせとして分解できます。
$${f(\theta, \phi) = \sum_{\ell=0}^{\infty} \sum_{m=-\ell}^{\ell} a_{\ell m} Y_{\ell}^{m}(\theta, \phi)}$$
このようにすれば、球対称なものや、あるいは極座標系で書かれているものについても直交座標系で扱ったように波数の異なる波に分解して取り扱うことができるようになります。



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