迫真備忘録 メタモルフォシスの裏技
皆さんご無沙汰しております。 ネアンデルターレンシスです。
2022年の12月、「冬の恋バナ淫ク☆リレー22’」企画に参加し、5日目の「メタモルフォシス」を担当しました。前回と同様に、この作品を作った背景、解説、技術、その他モロモロを語っていきたいと思いマッスル
冬の恋バナ淫ク☆リレー22’ってなんだよ(哲学)という方に説明しますと、「12月中に『恋愛』を題材にしたBB劇場を毎日投稿しよう(提案)」という企画っス。
詳しくはこちらのリンクをどうぞ。
⚠️視聴し終わっている前提で話します!ネタバレ注意!⚠️
さて今回もこのくらいにして、この作品の制作経緯および使った技術、エトセトラを語り、語りたいと思いますっ!(じゅんぺい)
参加の経緯
9月8日のこと。淫ク☆リレー企画より参加のお誘いDMが来ました。実は夏のホラー企画にも誘われていたんですが、その時は本業(UDKは方舟のなかでシリーズ)の優先を理由に断わっていたんですが、9月当時、本業のほうが行き詰まり始めたので今回の冬リレーは参加してみたいな…と思い、参加…しました…(OGMM)スランプのまま本業の作業をズコズコズルズル引きずるより企画に参加して色々刺激を受けたほうがいいと思ったからね。しょうがないね。(自己弁護)さらにいえば夏企画が非常に盛り上がっていたのを見て、リレー企画に参加したい意欲が湧いたのも理由の一つです。
前回と同じように大まかな脚本を決めてから参加を決めました。参加だけしてやっぱできませんでしたとかチョー失礼だからね。案は三つ考えました。
色々考えましたが、①は性癖詰め込みすぎて激エロになってしまい、削除される恐れがあったのとなんかいい感じにオチなかったのでボツ。②と③の二択になりましたが、前作のインム・コングとは違って、今回はオリジナルの脚本で勝負したいのがあり、原作ありきの②は没にし③に決定。大まかな筋書きをまとめ、13日参加の意を伝え、企画に参加しました。 ちなみに上記ふたつの案は今後作るつもりはありません。誰か作って❤
脚本について
今回の作品のテーマは「恋人が変わってしまっても、愛することができるか?」です。自分の恋人が豚に…ということはあり得ないにしても、大なり小なり、愛した人が変わってしまったという経験は誰にでもあると思います。
そこで、ホモの発見した真実とも呼ばれるRUDKに、RUさんを豚になるという不幸を与えたら、果たして乗り越えられるのか。というのが今回の動画です。(この問いに対する答えは、動画を見て各々考えてみよう。)
変身について
教養深い視聴者兄貴なら分かると思いますが、フランツ・カフカの「変身」に強い影響を受けています。何の説明もなく冒頭から唐突に変身する点、味に対する嗜好が一切変わってしまう下り、解決方法も無くバッドエンドに向かうしかない不条理さは、「変身」のオマージュです。
左手と耳のみだった変身が、徐々に進行していき、最終的に豚になるという変身の仕方は、「変身」のコミカライズ作品の一つにそのような変身(最初は体と足だけだった変身が、時間経過とともに進み、最終的に物言わぬ毒虫になる)を描いているものがありまして、それからインスピレーションを得ました。
この変身はRU自身が人ならざる者に変身していく恐れと、ゆっくりと崩壊していく既存の関係を描くことが目的です。
UDKの優しさ
さらに、この物語のもう一つのポイントはUDKの優しさです。豚になってしまったRUさんに嫌悪感を示すこともなく、冒頭では見捨てないとさえ約束します。恋人である彼女は、豚になる落ち度がRUさんにないことをよく知っていますし、自分が支えてあげなくちゃ、RUさんは生きていけないということを彼女は重々承知していました。
しかし、優しさは何も解決してくれません。愛情を以てしてもどんどん異形になっていく恋人と暮らす生活は、彼女にとって相当のストレスになるはずです。
例えば、このシーン。落ち込んでいくRUのために、大好きなグラタンを作ってあげるのですが、RUは味覚がすでに人の物ではなくなっているので吐き出してしまいます。ほとんど最悪と言っていいほどの仕打ちですが、彼女は恨み言一つ言わず、続けて献身的な愛を与えます。
さらに彼女にとって不幸な点は、自分自身が苦しんでいるということを認めたがらなかった点です。だからHNSと会ったときに、助けを求めるどころかRUの現状を一切教えなかったし、RUのことを詮索し続けたら、逃げ出してしまったのです。(共通の旧友であるHNSの関係を変えてしまうのではないかという恐れもあったのでしょう。)かくして、UDKとRUは(図らずとも)周りを囲む人間関係を遮断してしまい、問題が深刻化していきます。
かくして、強いストレスに曝され続けながら発散することも出来ず、孤立し、明るさが取り柄だった彼女がどんどん荒み始めます。
もう蟻地獄の中の蟻同然。豚になったRUさんを戻す方法も、共存する方法も、今までの人間関係を取り戻す方法も見つけられません。ただ憂鬱のまま破滅へと向かうのみ。悲しいなぁ…(諸行無常)
一本の救い
あまりにも可哀想なので私は一本の蜘蛛の糸を垂らします。
そう皆さんご存じ、野獣です。ここではRUの兄という設定で、音信不通になったRUの安否を尋ねるために、UDKの家へ訪れました。さぁ、UDKはどうするのでしょうか?
…UDKは、この蜘蛛の糸を掴みました。RUのことをすべて、包み隠さず話したのです。
旧友にも話さなかった秘密を野獣に話したのは、彼女は限界で助けが欲しい状況を自覚し始めたのと、実兄である野獣が何も知らないままでいるのは残酷であると感じ、このまま隠すのは忍びないことと感じたからです。(野獣とはあまり関係が深くなかったので、旧友のHNSと違って関係が変わってしまう恐れというものもありませんですしね。逆説的ですが、深刻な問題はよく知らない人間のほうが相談しやすいのです。)
知るのも知るで残酷かと思うけど…安否がわからない状態にしておくくらいよりは…ネ…?
そんな心配はよそに野獣は豚がRUであることを分かると、野獣はRUを助けたいと思って、UDKの世話に協力します。(UDKがうまく行っていないのは一目瞭然ですし…多少はね?)
豚に対する豊富な知識と、兄としての愛情もあって、豚との生活は見違えるように上手くいきます。野獣がとても頼りになるのもあって、憂鬱で満ちていたRUとUDKの関係は瞬く間に健全な物へと回復します。苦労を分かち合うってだけでも精神状態だいぶ違うからね。
クライマックス
これでめでたしめでたしならよかったんですけどね。物語はついに危険な領域へと突入する…
楽しい楽しいクリスマスパーティの夜。RUも参加して和気藹々と楽しむ三人(二人と一匹?)…しかし酒が入って酔いが回り、その勢いで野獣とUDKはセックスしてしまいます。
さらにそれを知ったRUは、怒り狂って野獣を殺害してしまいます。
なぜ野獣とUDKはセックスしてしまったのか。視聴者の兄貴方には気になることでしょうが、この動画ではあえてその理由をぼかしています。
この悲劇の責任をこの二人に背負わせたくなかったからです。UDKが野獣に惹かれて誘う描写を入れたら、「UDKは淫乱だ。」と言われるでしょうし、逆に野獣が迫る描写を入れたら「野獣は人間の屑だ。」ともいわれるでしょう。私はそのようには見てほしくありませんでした。私はこの二人の犯した罪より、RUとUDKの関係性は変わってしまって、もう元には戻れない悲しさに目を向けてほしかったのです。
RUとUDKとの関係は、先ほど健全な物に生まれ変わったと言いましたが、野獣という存在に大いに依存していました。野獣亡き後、もう立て直すことは今度こそ不可能です。
UDKは、「あなたはもうRUじゃない、ただの豚なんだ」と言い放ちます。視聴者の兄貴方は、UDKの優しさ、献身さ、人間だった頃のRUをどれほど愛していたかを考えれば、この言葉を言うのにどれほど苦しかったか想像できるでしょう。ここでは単純に「何があってもあなたを見捨てない」という約束を反故にしたという事実以上の感情があるのです。悲しいかな、話の軸の一つであったUDKの優しさは、ここで終わります。
ここまで酷いことを言われたRUですが、豚化してしまった彼女は言葉を発することができないので一切の弁明が出来ません。出ていけと言われたら去ることしかできないのです。畜生の身分ってのは怖えぇなぁ。
見捨てられたものの末路は悲惨です。人間社会にも隔絶されて、いるべき場所もなくさまようRU、やんぬるかな。彼女たちは十分に苦しみ、悲しみました。終わらして差し上げましょう。
救いはないんですか!(レ)…救いはないね(諦観)
なぜこんなに救いようのない最後にしたんだという兄貴方もいますでしょうが(事実かなり傷ついている人を見てお労しく感じた次第、ごめんね。)悲劇以外のラストを思いつかなかった。本当に。救えるのならば救いたかった。なぜ彼女らは不幸になったらのか、ならなければならなかったのか、もはや自分でも分かりません。
しいて言うなら「RUDKの愛を試す」ために試練を与えたら試練が過酷すぎて潰れてしまったって感じがします。神様なら乗り越えられる試練を与えなさるんだろう(被造物である私は)未熟です…
作品に対する個人的見解
最初の「恋人が変わってしまっても、愛することができるか?」というのがテーマですが、これに対する個人的な答えは「愛し続けるには、以前の関係に執着してはならない」であると考えました。(事実、野獣が世話に参加してからの関係になってから彼女らはそれなりに幸せだった筈です。多分。)…まぁ、簡単に言いますけど、関係性が変わってしまうのは辛いですよね。昨日まで対等な人間だったのに、相手が障碍者になってしまったら、なんの躊躇いなしに障碍者として接することができるような人間はまずいないと思いますしね…難しいねんな…。(でも実際問題健常者として扱えない)
だからこそ、RUさんが豚になるとかいう一見ふざけたアイデアから、恋人が変わってしまった悲哀に焦点を絞ると、大きな物語になる、と思い立ったのです。
野獣とUDKのセックスは、NTRものにつうずるっものがありますが、UDKとRUの恋人関係は、少なくとも倫理上の姦通だとは考えません。RUが豚化してしまってからは、もう恋人関係ではなく豚と人間の関係になっているのだから。
動画制作について
制作期間
前作、インムコングを提出したのは11月6日、かなり急いで編集して、提出期限よりも12日も前に提出しました。40分近い動画を2か月の期間でも意外と作れるもんだなと思い、今回はそこまで急がず焦らずのんびり編集していたら完成したのは11月27日。(第一締め切りは20日、その後企画のご温情で27日まで伸ばしてもらいました。)ギリギリじゃないか(呆れ)
今回は完全オリジナルの脚本なので辻褄合わせや演出に苦労したのもありますが、前の経験にかまけてのんびりとやってたら時間が以外にも時間を予想外に僕がさっき…たべちゃいました…(いなり男)何事にも急いでやるくらいがちょうどいいと、今回のリレーでよくわかりました。反省反省。
素材作成
さて、動画制作でまず最初に着手したのは、UDKとRUの共用の家づくりです。
blenderで制作しました。いろいろMMDの素材引っ張ってきてね、組み合わせたり自作したり…(キッチン周りのとかは自作)出来上がりました…RUとUDKの話は家の中を中心とした話になるので、統一された間取りが欲しいのと、背景に困らないためです。
部屋の作り方はこ↑こ↓で学びました。知りたければどうぞ。
ぐりぐり動かしたりするわけじゃないので、出来上がったら一枚絵を切りとって背景にします。
自由な視点から切り取ることで豚視点と人間視点を使い分けることができるので、苦労して作った甲斐はありましたね。(結果的に使わない分含めて86枚の背景を出力しました。多い…多くない?)
次に苦労したのは、豚になりつつあるRUさんの素材でした。既存のRUさんの素材に豚要素を入れなきゃならないのは勿論、段階的に変身が進行するので、作った素材が基本的に使いまわせません、新しい絵が欲しいとき、豚の耳と腕などをいちいち加工する必要があったので、非常に大変でした。
だからいっそのこと豚になってしまえば、そういうことに煩わされなくていいので、楽になる…と思いきや、豚は動き以外で感情が表現できないので、アニメーションの手間が増えました。なかなか手を抜くところはないねんな…さらに豚の素材もほぼ自前で切り抜くのでかなりの自作素材に頼らなければならないのも、今作苦労した点です。
UDKも服の差分を作成しました…(作業量がいっぱいいっぱい裕次郎…)
UDKっちの素材は、目が細かく動くようになっていたりと、各々地味ながら改造しています。
演出について
今回力に入れたのは心情描写ですね。
声出せざる豚と、声にならざる不安を表現するにはやっぱり演出の力が大きく左右するので、ここだけは手を抜けないな、と思い可能な限りの演出を詰め込めるだけ詰めッ…詰め込みました。
例えば、HNSとMURと会ったときに「一番問われたくない質問」を問われた時に神経が張り詰める感じの演出はは画面をやや青くし、BGMや環境音をすべて遮断した後に恐怖演出に使われるノイズを配置して表現しました(ノイズはゆっくりと音量を上げると吉。)
RUがUDKと野獣の情交を聞いて内なる憎悪と怒りが沸き上がるシーンは、
目が動くアニメーションを作成→フレームバッファを置く→フレームバッファに色ずれ(反復移動)→フレームバッファに「震える」のアニメーション効果(動かない状態から徐々に振幅のみを増大する)という感じにして、心臓の効果音を置き、音量を徐々に大きくすると完成です。(ヤジュUDックスの喘ぎは徐々に小さく)
こういう心理描写演出をやってみて個人的に思ったのはこれらに共通するテクは、外界の情報を遮断して、内部情報を押し広げる感じが重要だと感じました。こういう点を鑑みると、上記以外の心理描写は色々できそうですね。心理描写演出は奥深い。
夢のシーンもなかなかお気に入りのシーンです。幸せな夢を見ていた時に夢だと思わなくて、目が覚めたら「あぁ…夢だったか…」っていう感じがありますよね、それを何とか表現したいと思って作ったシーンです。
青みがかった画面に、マイクロフォンのノイズ、アスペクト比の調節。(実は比率は適当)ベートーヴェンの「エリーゼのために」を流すなどをして非現実感を演出。ただこのシーンはそれ自体よりもタイミングがかなり重要です。
このシーンはUDKが買い物へ行くシーン(HNSに詮索されてにげちゃった後)の直後に入るのですが、この夢のシーンも留守番したRUから、UDKがどこからか帰ってくるシーンへと始まるので、現実と夢とが、奇妙にリンクしているのです。シームレスに夢に移行することで夢特有の夢を夢とは思わない不思議な非現実感が出せたかなと思います。
小ネタ
ED
EDは「あのジョニーとは分からなかった/Johnny I hardly knew ye」という曲で、「ジョニーが凱旋するとき」と同じメロディでどこか陽気さを伴った曲ですが、遠征に行った兵士が手も足もない状態で帰ってきて、それを悲しむ妻の歌で、すごくすごく歌詞が好きなのでこれに採用しました。
投げつけた本
暴れたRUに投げつけたのは、ウィリアム・シェイクスピアの「ヴェニスの商人」です。その理由は初期の案にRUがUDKに追い出された後、ユダヤ商人のシャイロックの疎外された人間の嘆きのセリフを引用しようとしていた名残です。
でもだんだん編集進めていくうちに二人の悲哀にスポットライトを当ててるのに人間世界からの疎外の話を出すのはちょっとズレてるかな…と感じて引用する案はボツになったのですが、せっかく素材はDLしたので、暴れるRUを諫めるために投げました。(単に変身にあやかるのならカフカ『変身』やオウィディウスの『変身物語』、ガーネットの『狐になった夫人』などもあったのに、ヴェニスの商人のシャイロックが好きだったからだという、ごく個人的な感情です。)
没案一覧
●UDKがHNSに「臭わない?」と聞かれて逃げるように帰ってきたとき、家で半豚化したRUが糞尿をまき散らしていてそこに寝っ転がっていた(当然糞まみれ)光景を目の当たりにし、「これじゃ臭いが…とれないよう…」といって泣き崩れるUDK
●上の案が難しすぎて作れなかったのでトイレに逃げ込んで泣くUDKをRUは慰めようとするが、UDKは気付かず泣き続けるシーン。(作ったんですがここのあたりのシーンがエンコードできない不具合が起きてカット。幸か不幸か前のシーンと夢のシーンに滑らかにつながったので最終的に没に。)
●豚になったRUがUDKの結婚用の指輪を飲み込んでしまい、最後に死ぬときに体内にあった指輪だけ残るエンド。カットしても差し支えなかったのでカット。
●公園でUDKと豚になったRUさんと野獣が遊ぶシーン。普通に時間がなかったので断念。
最後に
皆様、今回はこの動画を見てくださって真にありがとうございます。そしてあまりにも胸糞の悪い展開を見て気分を悪くされた御方々、誠に申し訳ございませんでした。いづれにせよ、今作のテーマは「恋人が変わってしまっても、愛することができるか?」という問いは(多分)人生において大事なことだと思うので、このことに考えを少しでも馳せてくれたら、投稿者冥利に尽きます。
では諸君、サラダバー!