#1 NCSと出会って「なりたい私」になれた。社会を変えるために、生きていく 〜伊佐間梨華さんのケース〜
アート思考、システム思考、認知行動療法など、学術的アプローチで「本当のやりたいこと」「人生を通して追い続けたい問い」を見つけ、深め、広げるためのプログラム「NCS(Narrative Career School)」。NCSを卒業し、自分らしい人生を歩み始めた若者たちが語る過去の私、今の私。
■国連職員を志していた学生時代
私の将来の夢は、国連職員になることでした。難民の方々が、第三国で自立して暮らすことをサポートしたかったのです。原体験は、幼い頃に母と一緒に参加したユニセフのプロジェクト。生活用品などの備品を箱詰めして送ると、ユニセフがそれを必要としている国の人たちに届けてくれる。すると後日、現地の人たちからお礼のメッセージが送られてくるのです。それに参加した時、地球の裏側には知らない人たちがいて、自分が送ったものが役に立つこともあるんだ、と感動しました。
それ以来、海外で活動することに興味が湧き、中高では英語学習に力を入れるように。学校で行われていた海外研修に参加し、現地の人たちが抱く移民や難民に対する意識について調査する経験もしました。そして、国連職員を志すようになったのです。
高校卒業後はオーストラリアへ渡り、現地の大学に入りました。けれど、完璧主義でシャイな性格が災いしてしまい、間違いを恐れるあまり、思うように英語で自分のことを話すことができず、その結果、英語力が思うように伸びていかなくて…。国際関係学という政治学を専攻していたこともあって、授業で扱う内容も難しく、ついていくことに必死でした。
「こんなはずじゃなかった」という理想と現実のギャップに苦しみ、「私は何のために留学したのだろう?」「果たして本当に国連職員になりたいのだろうか?」と、そもそもの目的を見失ってしまい、将来への不安や焦り、孤独感から、摂食障害にもなってしまいました。
勉強が続けることが難しくなって、私は休学を選択します。普通の人なら、たぶんそこで療養するのですが、私は「私が本当にやりたいこと、やりたかったことって何だろう」という答えを探すために、複数のNPOや企業でインターンをしたり、学生団体で活動することにしました。
最初はとても大変でした。表向きには学生団体のミーティングを仕切ったり、難民申請者のサポートをしたりしているのに、その裏では自身の症状と闘い、休日にはこっそり精神科に通っていました。まるで自分の生活に二面性があるみたいで、つらくなる瞬間も多々あったのです。それでも興味がある分野に携わり、懸命に動いているうちにやりたいことが少しずつ明確になり、それにつれて症状も緩和されていきました。
難民支援をするさまざまな現場に参加して見えてきたのは、「私が納得のいく関わり方で、人のサポ―トをしたい」ということです。仮に国連職員になれたとしても、そこには組織の「ルール」がある。それでは、たとえ目の前で人が苦しんでいたとしても助けられないかもしれない。果たして、それは私が「本当にやりたいこと」だろうか。そんな思いが徐々にはっきりしていったのです。
「遠くの誰かを救う」国際貢献よりまず先に、目の前の人や、自分や自分の身近な人を幸せにできる力をつけたい。そう確信した私は、大学にも復学し、人材や教育の現場に目を向けるようになっていきました。
■自分の人生を自分で切り開いていけるようサポートしたい
そうして入社したのは、人材系の企業。けれど、働き始めてすぐに違和感を覚えました。そこで働いているのは、面倒見がよくて熱くて素敵な人たちばかり。それなのにどこか会社の歯車のようになってしまっている。しかも、提供しているサービス自体もお客さまからも喜ばれているわけでもない。このままではいけないのではないか…。
自分を偽り、妥協して生きていくことが大人になることだと思っていました。だから、我慢しなければいけないのだ、と。でも、同期から「あなたはここで働くような人ではないと思うよ」と言われた時、目が覚めたのです。
だったら、もう一度オーストラリアに行こう。向こうでやりたいように生きよう。そう思った私は退職し、資金を貯めるための仕事を始めました。それが「英語学習カウンセラー」という仕事です。そこは「Chance for everyone, everywhere」を理念に掲げていて、すべての人にチャンスを与えてくれるところでした。たった3カ月で会社を辞めてしまった私の内面を見てくれて、採用してくれたのです。個性的なカウンセラーが多いけれど、それぞれが自分を生かして働いていて、でも困ったときには助け合う。そんな個へのリスペクトと思いやりが共存する素敵な環境でした。
そのうち、胸中にはひとつの思いが芽生えます。この会社のように、みんなが自分の強みや“らしさ”を生かして、人の役に立ちながらも、お互いに助け支え合える社会を実現させたい。そのためにも、私自身がそうであったように、本当はやりたいことや成したいことがあるのに、周りからの反対や社会での抑圧、自信のなさから踏み出せない人たちが、自分の人生を自分らしく歩めるようなお手伝いがしたい。
私はすぐに交流会やオンラインのコミュニティを立ち上げました。でも、どんなに素晴らしい場を提供しても、一過性で終わってしまう。「こんな世界もあるんだ」という一時的な感想で終わりにせずに、その人が本当の意味で自立して、自分の人生を切り開いていけるような仕組みをつくり出すにはどうしたらいいのか。そう悩んでいた時に、NCSの存在を知りました。それが2020年1月のことです。
初めて参加したプログラムでNCSの素晴らしさを体感し、一目惚れしてしまいました。私自身が抱えていたモヤモヤした気持ちがクリアになり、本当にやりたかったことも思い出すことができたました。その感動を胸に私は、NCSの活動を手伝うようになりました。いまは各ワークショップや受講者の面談、メンターと受講者のマッチング、イベントの企画など、NCS全体の運営を担当しています。
■自分がもらったチャンスや縁、恩を周囲に広げられる人を育てたい
ただし、NCSに関わるようになってからも順調だったわけではありません。自分の実力が足りていないのではないか、周囲の期待に応えられないのではないかと不安になったり、焦って空回りしたりして、自分が思ったような結果が出ずに最初は泣いてばかりいました。そもそも、英語の学習とは比べ物にならないくらい、人生は複雑です。その人が本質的に抱える悩みや困り事を見抜き、適切なタイミングで、適切な働きかけをするのは、簡単なことではありませんでした。
でも、周りの人たちに支えられながらがむしゃらにNCSのお手伝いをさせていただいているうちに、少しずつ実っていくのがわかりました。悩んでいる参加者が半年かけて変わっていく。それを目の当たりにした時に「私がやってきたことは間違いじゃなかったんだ」とホッとするのです。同時に、泣いてばかりいた頃に支えてくれていた仲間への信頼も生まれました。ネガティブな部分を見せても、人は離れていかない。それに気付くことができたのは、大きな発見でした。
今後はリーダーとなるような人を育てていきたいと思っています。コミュニティというのは、言わば社会の縮図です。コミュニティの中でGIVEし合うことの大切さを感じた人は、社会に出た時にもそれを広められるはず。そうすれば、やがて社会全体が温かく、思いやりあるものに変わっていくと信じています。だからこそ、まずはNCSに参加してくれた人たちにコミュニティという社会の縮図を通して、人の役に立つ喜びを感じたり、チャンスや縁、恩を循環していく体験をしてもらいたい。そして、いつかNCSを離れた時に、新しい場所でもその文化を周りに広められるような人であってほしい。そのためにも、私が引っ張っていかなければいけないと思っています。
そして、大切にしたいのは「自分の心に正直に生きること」。どんなに迷っている人も、心の中に答えを持っていると思います。でも、周りの目や社会、親からの影響でそれが見えなくなっているだけ。その内側にある、大切で尊くて美しいものを思い出すためのお手伝いもしていきたいです。
取材:五十嵐大
撮影:十河英三郎
編集:汐先健悟
■伊佐間 梨華(いさま りか)
NCS過去参加者、現メンター/NCSコミュニティマネージャー。
国連職員を志し、19歳で単身で渡豪。ブリスベンにあるクイーンズランド大学(University of Queensland)に正規生として入学(国際関係学/中国語専攻)。完璧主義な性格からか、理想と現実のギャップに苦しみ、摂食障害を発症。在学中に見失ってしまった「自分が本当にやりたいこと」を見つけ、それを仮説検証するために休学。そこで、在日難民支援、学生団体での官民を巻き込んでのイベント/啓発活動、人材企業での営業インターンなど様々なことを経験。その中で、「人の夢や目標を応援する仕事がしたい」という想いが芽生え、復学。帰国後は、既卒就活し、内定した人材メガベンチャーで正社員と同じように働くも、「違和感」を感じ、3か月で退職。たまたま見つけた「英語学習カウンセラー」として仕事にドはまりし、そこで楽しく努力しているうちに、いつの間にか、フリーランスとしても活動できるようになっていた。英語という枠を超えて、「より本質的かつ包括的」に、「その人がやりたいこと/成したいことを実現していくこと」のサポ―トがしたいという想いが強くなり、NCS運営側にジョイン。座右の銘は「死ぬこと以外すべてネタ」。経歴だけ見るとすごく見えがちだけど、基本はゆるくて超フレンドリー。
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