スタートアップM&Aの規模化と質の向上、事例から考察(その7)「買収手法の多様化〜SPAC編〜」
スタートアップM&Aの規模化と質の向上について、前回は、事例から考察(その6)「買収手法の多様化〜株式交換・株式交付編〜」にて、その意義や考え方、事例を記事にしました。
今回は、スタートアップM&Aならではの目線で、近年の「買収手法の多様化」について、以下のうち、SPACについて事例などから考察してみます。
SPACはM&Aという手段を用いるため、スタートアップにとっては支配権が動くスタートアップM&Aという性質がありつつ、IPOを実現するための手段、という位置付けです。
①ステップアップ買収(2段階EXIT)
②アーンアウト
③スイングバイIPO
④株式交換
⑤株式交付
⑥SPAC
スタートアップM&Aにおける買収手法の多様化を議論する意義としては、どの手法においても、専門家としての法務・財務・税務のテクニカルな視点も重要ですが、買収後の事業成長への工夫、という視点が上位概念としては重要であり、SPACにおいてもこの視点は重要です。
⑥ SPAC
まずSPACを通じた上場について考えてみます。現状では、日本では検討段階のため、実務上は日本のスタートアップにとっては、米国上場の手段の一つとしての検討が多いです。
日本のスタートアップの事例としては、ホバーバイク開発のA.L.I.テクノロジーズが話題になりました。
2022年9月に、米国に設立した親会社が米ナスダック市場に上場する特別買収目的会社(SPAC)「ポノ・キャピタル」(元コロプラ副社長で個人投資家の千葉功太郎氏が社外取締役)と統合すると発表し、米証券取引委員会(SEC)の届け出などを経て2023年3月頃までに手続きを完了する計画とのことでした。
実現すれば、日本のスタートアップがSPACを通じて上場を目指す最初の事例になりそうですし、想定時価総額は日本円換算で800億~1000億円規模、200億円強の資金調達を見込んでいるとのことで規模感もあり、期待したいでした。
残念ながら、2023年9月時点では、A.L.I.テクノロジーズは約200億円強の資金調達に失敗して2億円しか資金調達できず、苦境に立たされているとの記事や動画が公開されています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC088P30Y3A800C2000000/
日本ではグロース・ステージ以降で大型投資できるディープテックVCが少ないため、日本のスタートアップの成功事例が出て欲しいところですが、前途多難な状況です。挑戦は重要ですが、今後は、先達が直面した課題を踏まえ、試すことありきではなく緻密な計算・条件設計により是々非々で他の手段と比較しながら、乗り越えて成功していく事例を期待したいところです。
他の事例としては、日本企業ではマネックスグループ子会社のコインチェックが2022年内にSPACによるナスダック上場を目指すと明らかにしています。(2022年8月3日、MONEX GROUP IR資料)
コインチェックといえば、アーンアウトの事例としても(その4)で言及しました。元々は、MONEX GROUPがアーンアウトを駆使して買収し、今はスイングバイIPO(その5)を、SPAC(本記事)という手法を使って実現しようとしている、という点では、複数のスタートアップM&A手法を組み合わせながら事業成長を続け、さらなる成長を目指しています。
なお、米国でのSPACは、2003年からある手法ですが、過去に起きた問題や最近の栄枯盛衰については下記ご参考です。
なお、余談ですが、日本でも筆者が2009年頃にVC在籍時、東証の方針で上場が難しい分野や事業モデルと噂されている日本の会社が、海外市場でBackdoor Listing (裏口上場)を予定しているからプレIPO投資しませんか?という提案を受け、裏口上場の確度の高さをアピールする入念なピッチデックを渡されたりしました。
いずれも、上場確度以前に日本での業界内での風評が良くない会社であったためお断りしましたが、ストラクチャーとしてはほぼ今日でいうSPACと近いものだったと記憶しています。また、2010年頃に筆者の前職VCが韓国でのSPAC活用に取り組むと発表したことがあり、韓国オフィスのメンバーと韓国のSPACのターゲットのDDなどを議論したこともありました。
こうした経験から、SPACのコンセプトと事例自体は昔からあるので懐かしいと感じつつも、米国を中心に上場審査の抜け道を揶揄されてしまうような悪用事例が起きる度に規制や投資家保護が強化されて進化しており、国内VCの多くがシリーズB以降等のグロース・ステージ以降の大型投資を敬遠しがちな日本のディープテックのスタートアップなどにとって飛躍のための選択肢の一つになる可能性もあり、今後の取り組み事例にも注目です。
今回は以上です。
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特に、日本のスタートアップ業界のボトルネックとも言える、" スタートアップM&Aの規模化と質の向上 "を中核テーマとして、主にシリーズB以降等のグロース・ステージのスタートアップ起業家側のセルサイドFA(Financial Adviser)としてのM&A助言や、大型IPOに向けた資本政策・資金調達の助言事業を展開しております。
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