創業者が上場前に自分の保有株式を一部売却することの是非や方法について
欲しがりません、上場するまでは!!
という根性論一本で、創業者が上場前に自分の保有株式を一部売却するのは、病気や経営の交代などの特殊事情以外ではもってのほか!!というのが10年前のVCでは当たり前でした。
ただ、最近では、公開されないことが多いですが、水面下ではシリーズB, C, Dあたりで増資時に創業者が自分の持分のうち数%を売却した、という事例は増えています。
全体としては、こうした起業家の多様な人生設計における選択肢を増やすことは、起業家を増やすことにもプラスですし、30-40代以上の起業家の場合は特に、家族を経済的危機に追い込む心配を減らしながらより大胆な(ボールドな)挑戦をする起業家が増えることにもプラスだと考えております。
これに対するありがちな批判としては、危機感と崖っぷちこそが起業家を強く大きくする、という議論が過去の成功した経営者に一定数共通する面もあることです。
また、多くのベンチャーキャピタリストが塩漬けの投資先の経験や噂などから懸念する通り、上場前の創業者が、自分の持分を一部換金して小金持ちになった後に、自社の事業成長が停滞しているにも関わらず、他の上場企業の経営者と派手な飲み会での自己顕示欲に明け暮れて、株主として忸怩たる思いを感じてしまう残念な噂が聞こえてくる起業家も一定数存在する事実もあります。
よって、この点は起業家の選択肢が増えるメリット、VCも中長期目線での大型IPOや大型のスタートアップM&AなどのEXITを後押しできるメリット、起業家のハングリー精神が薄れるリスクというデメリット、これらのバランスを個別に勘案しながら判断していくしかないと考えます。
米国ではVC発案のFF株として仕組み化されている
この点、米国では、創業期において、創業者の持株の1割以下などFF株として保有し、レイター期の資金調達がover-subscribe(調達予定額を超える投資の希望があった)したときに、そのときの優先株に転換できるFF株という仕組みが存在します。
シリコンバレーでは既に普及している方法ですが、当初は投資家側からの依頼だったということです。大型IPOにしてもスタートアップM&Aにしても、EXITを急ぎ過ぎず、長期的なコミットを起業家に促すという現実的なニーズから発生したわけです。
比較すると、現状の日本の創業者株は通常は普通株式のため、VCにとっては割安でないと買い取るメリットが少ないですし、実際、創業者株の普通株式は、優先株式との優先的な権利の違い(特にLiquidation Preference等)を理由に優先株式のラウンドの株価よりも割安で取引される事例は多いです。
上記の通り、メリットとデメリットは常に併存するお話ではありますが、日本版FF株の導入に関心がある・1号案件を目指したい、というシード・アーリーステージの起業家やVCの方、もしいればぜひご連絡ください。
実は一度、シリコンバレーの法律事務所の日本人弁護士と日本の腕利きの会計士らと共に、法務・税務の論点はある程度整理した上で設計済みであり、ニーズが多いようであれば公開を検討します。
(起業家側のニーズはいくつかのインタビューで確認済みですが、VCへのヒアリングではニュートラルな反応が中心で、本音としては日本のVCはやはり根性論の方が好きなのでは?ということと、BIG4会計事務所で税務面のお墨付きを無償公開のためのリーズナブルな価格で手を挙げてくれる人を探すのが骨折れそう、と躊躇してペンディングにしてしまった経緯があります。)
(23年4月時点の注記:日本版FF株の検討は、日本の税務についての信託SOの取り扱いの動向を注視しながら、保留としております。)
最後に、今回のテーマとは直接の関係ではないのですが、間接的にリンクし、かつ、実務において同時にご相談いただくことが多いテーマとして、スタートアップM&Aの規模化と質の向上については下記もご参考です。
▶︎株式会社ファイナンス・プロデュース
「社会を変える事業を創るためのファイナンスをプロデュースする。」というミッションのもと、ドリームインキュベータから新規事業カーブアウト・MBO(マネジメント・バイアウト)を実行して誕生した、スタートアップ起業家専門の投資銀行事業を行う会社です。
特に、日本のスタートアップ業界のボトルネックとも言える、" スタートアップM&Aの規模化と質の向上 "を中核テーマとして、主にシリーズB以降等のグロース・ステージのスタートアップ起業家側のセルサイドFA(Financial Adviser)としてのM&A助言や、大型IPOに向けた資本政策・資金調達の助言事業を展開しております。
Twitterはこちら