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ネコと人間の八日間③

相変わらずAmazonの小さなダンボール箱は大活躍だ。
ネコは狭くて暗い場所が好きなので、閉塞感が増すように上部のふたをテープで止め、側面に穴を開けてみた。ネコはこれが気に入り、だいたいいつもこの箱の中で丸まって過ごすようになった。夜も人間が寝る横にこの箱を置き、その中で眠る。

ネコは起きている時間の大半を人間の仕事部屋で過ごす。出入り口はネコ用のトイレを置いてふさいでいる。人間はまたいで通れるが、今のネコではこのトイレを乗り越えて別の部屋へ行くことはできない。人間はいつものように日課の絵日記を描いていた。今日の内容はコンビニのおにぎりについてだ。ネコは背後でエサを食べていたが、食べ終えると箱の中に入って眠った。
今日、人間は出かけることにしていた。行き先は生駒山の麓、石切にある神社。この神社は病気を治すご利益があるといわれているので、ケガが早く治るようお参りをし、お守りを買って帰るつもりだ。神社へは自転車で向かった。ジョギングでも行けない距離ではなかったが、あまり長時間家をあけたくなかった。
神社へ着くと何人かのひとが社殿の前を行ったり来たりお百度参りをしていた。ケガの治りがよくなければ自分もやることになるかもしれないが、今日のところはまだいいだろう。

奮発して賽銭箱には千円札を入れた。財布の中にはまだ昨日下ろした5万円が入っていたが、それは見なかったことにする。飲み代に消えないよう早めに銀行に戻したほうがいいだろう。神社で手を合わせるときにはいつも特に願い事はせず、ただ頭の中を空っぽにするように心掛けているのだが、今回はネコのケガが治るようにと願った。
つづいて社務所へ行ってお守りを買う。どれがいいのかわからないので窓口の女性に尋ねようと思い、ふと考える。自分とあのネコとの関係はいったいなんなんだろうか。ペットとして飼い続けるとまだ決まったわけではない。同居しているとはいえ家族や親戚でもない。預かっていると言えなくもないが、じゃあ預けているのは誰だろう。
「ええと、知り合いがケガをしてて、それが治るようにというお守りを……」
窓口の女性は、袋に入った一般的なお守りや中身だけのお札のようなもののほか、シールタイプのものや、患部をなでて使うという「なでまもり」などを勧めてくれた。

人間はシールとなでまもりを買って帰った。シールはスマホなどふだん身につけるものに貼るとよいとのことだったが、ネコは丸裸で持ち物もなにもない。やむなくネコが眠るダンボール箱に貼ってみた。
次に箱からネコを引っぱり出し、説明書きにしたがい「石切大神、石切大神」と唱えながら、なでまもりで後ろ足や背中、腰のあたりをなでまわす。ネコはあまり興味はなさそうだったが、嫌がりもしなかった。

夜、仕事を終えた人間はおでんをつくり晩酌をした。ネコも食欲があってキャットフードのあと、小さな煮干しを初めて食べた。いっしょに野生動物のドキュメンタリー番組をみた。画面の中のライオンは手足が太くてたくましかった。ネコの細い後ろ足をなでながら、「石切大神、石切大神」と唱えた。

四日目の朝、人間はネコがダンボールをかじる音で目が覚めた。そしてネコはベッドの上を歩きまわる。小さなベッドでもネコにとっては大冒険だ。足どりはまだおぼつかないが、どんどん活発になってきている。
仕事部屋へ移動して、人間はまた日課の絵日記を描く。今日はApple Watchの話だ。背後でネコが歩く気配がした。振り返るとネコはトイレによじ登っていた。
中に入ることに成功すると、くるくると回ってから腰をおろす。ブルブルっと震えたあと、ほんのり温かい空気が漂う。ネコが腰を上げるとおしりの下に黒い立派なうんちが現れた。
人間はトイレからおりたネコを抱き上げ、「石切大神、石切大神」となでまわした。

お気持ちだけで十分だと思っていますが、サポートされたくないわけではありません。むしろされたいです。