日常で使い慣れた道具。どんなものであっても、製造できる工場や工房が無くなるともう出会うことがない。必要なときにはない、どの時代になっても付き纏うことだ。
燕三条地域では、半世紀以上続く工場が点在するなかで、失われた技術や道具も少なくはない。こうした変化の波で、工場を継ぐものは何を考えているだろうか。
1902年に創業し、現在は金属プレス加工とスポット熔接を用いた製造を得意とする「株式会社野崎製作所(以後、野崎製作所)」にお邪魔した。今回の話し手は5代目となる野崎翔太郎さん(現:専務取締役)。
野崎製作所は、もともと木製家具の金物部品の製造からはじまり、日用品や産業用機会部品の製造を担ってきた。そのものづくり一筋の家系に生まれた野崎さんは、まさに工場を継ぐ世代といえるだろう。そんな野崎さんのことを知りたい。まず、推し本をお聞きした。
仕事もプライベートも見た目は大事、そう語る野崎さん。他にも絵本をはじめ、子ども目線で本を薦める子煩悩な姿に迫る。
就業時間後も忙しいわけ
働き盛りとなる30代から40代、いわゆる子育て世代に該当する。幼い子どもを育てる親世代の気苦労はたえず、日々忙しいのは知ってのこと。野崎さんは40代になり、自社の責任者としてはもちろん、終業後も我が子を迎えにいくため、一日中忙しいという。
「しばらくは、夜間での地域の集まりや飲み会には参加できないです」と笑う野崎さん。とはいえ、父親の責務を果たすことは、必ずしも仕事にとってマイナスとはいえない。2018年の春に立ち上げた自社ブランド「GRAVIMORPH(グラビモルフ)」の商品開発で経験が活かされた。
GRAVIMORPH(グラビモルフ)とは、GRAVITATION(重力)とMORPHOLOGY(形態学)という2つの言葉を合わせた造語。シンプルな形のモノとモノとの組み合わせが、自然の力である重力の影響を受けたとき、素朴でユニークな動きと心地よい音色を生みだすもの。
海外で気づいた、ファッションの重要性
野崎製作所では2023年に入り、コロナ禍の影響が少なくなってきたタイミングで休止していた展示会への出店を再開。「GRAVIMORPHをはじめ、海外にも燕三条地域でつくられる商品の良さを広めたい」と野崎さんはドイツやニューヨークで開催される主要の展示会に飛び回る予定だ。
辞書で調べると、ファッションとはある時点における広く行われているスタイルや風習のこと。三条の地で120年近くお客様の要望を応え続けてきた野崎製作所とファッションを押さえることはどこか似ているように感じるのは私だけだろうか。
それは、野崎製作所が手掛けるサービス。多品種小ロット生産を続けることと紐づくように感じた。
野崎製作所では、これまでの製造技術に加えて、人材不足が叫ばれる介護業界や建設業界で使用されるロボット開発も検討し、受け皿を用意していきたいと野崎さんは語る。
次を継ぐものは日々忙しいながらも、ものづくりの枠を超えた知見を持って、これからの時代とものづくりへの期待に応え続けていくのだろう。そう予感するひとときとなった。
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