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地方の本屋で働きながらファーストキャリアについて考えてみた【後編】

社会人としてキャリアを歩み始める、学生にとって社会への第一歩であって期待半分、不安半分でしょう。またキャリアの選択肢が可視化されつつある今、都心部の学生から地方へと視線を向けられているように感じます。SPでは地方での働きかたとして、先月インターンシップとして三条に訪れた立命館大学4年生の鈴木駿さんが、仕事をはじめる前に自身の価値観を広げるべく、地方で働く二人にお話を聞いた内容を公開しました。後編では、業種やキャリア形成が異なる米山堅さんと榊原壮太さんにファーストキャリアに対して質問を投げかけました。

前半のお話はこちら。
※前編後編は、初夏時点でお話を伺ったものとなります。

「飲食」を軸に枝分かれするキャリアを歩む

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米山堅(よねやま つよし)。新潟県生まれ。大学卒業後、東京の割烹料理屋に就職。その後日本酒やクラフトビール専門店、日本酒ベンチャー企業の店舗立ち上げを経て、帰郷。2021年4月から三条市地域おこし協力隊としてSANJO PUBLISHINGの喫茶部門を担当する。

———飲食のつくり手からキャリアをはじめられた米山さん。大学卒業してから飲食店で働くことに対して振り返るとどう考えますか。

米山堅(以下、米山):苦労しましたね……はじめのお店は死ぬほど忙しくて、拘束時間は長くて体力ないと続けるのが無理でした(笑)!

一方で飲食は好きではじめたので、思い出が強く残っています、良かったことも嫌なこともすべて。好きで選んだキャリアだからこそ、今も続けられているのかもしれませんね。

———その次に飲食のベンチャー企業へと進む、キャリア遍歴が興味深いと感じていました。転職するきっかけはあったのでしょうか。

米山:30歳手前に差し掛かり、同世代と仕事をしてみたかったんです。これまでは年齢が離れているかたと一緒に働くことが多かったですので。あと、転職先のベンチャー企業が当時掲げていた「飲食業界を変える」という思いにも共感できたからかな。

———同じ飲食であっても業態をズラすのは不安を覚えそうですが、いざ働いてみてどうでしたか。

自社に集まったメンバーが優秀で、同世代にこんなにもすごい人たちがいるのかと衝撃的でした、経営に関してはとくに。これまでは個人としてのキャリアをゆるゆると歩んできたから、会社を創るところを間近でみれたのが大きい。

大手企業のような出来上がっている組織で働くことは大切だけど、今まさにつくっている組織で働くのもまた大切だと気づきました。

飲食業界の課題と変化の兆しが原動力となる

メロンソーダ

———ベンチャー企業では具体的にどんなことをされていたんですか。

米山:店舗の立ち上げに関わりました。お店で提供するメニューを1から考えたり、バイトスタッフのシフトを考えたり。

僕が入社した後に銀行を辞めてきた人が入ってきて、ちょうど空いたポジションが店長しかなくて。飲食店での経験もモチベーションの方向性も異なるメンバーと一緒にやらなければいけなかったのは大変でした。

———今になって、その経験で生きていることはありますか。

米山:店舗を立ち上げる、0から1を創るところだね。4月から三条に来てすぐに喫茶店を立ち上げたので、「これ、どうしたらいいんだろう」と迷ったり立ち止まったりすることがありませんでした。

———もし、わたしがベンチャーで働くとしたら、どんな影響があると思いますか。

米山:自分でもやりたくなってしまう(笑)。規模が違っても業界の課題について取り組む人たちがいるなら、自分でもはじめきゃいけないなって。あと、これだったらいけるというイメージを構想として落とし込めるところかな。

———現在、NCL三条に入って(SANJO PUBLISHINGの)喫茶部門の立ち上げに尽力しているかと思いますが、そのきっかけはありますか。

米山:コロナ禍になってから生まれた、飲食業界の変化です。

お客さんが飲食店に訪れるのが当たり前ではなくなりましたし、これまで少数派だったテイクアウトやデリバリー専門店ができて人が流れたり。

飲食に携わる人たちの働き方が多様性が生まれて、個人であってもお店を持つことがゴールではなくなったと感じます。

「この先(飲食は)どうなる?」と考えたときにNCLは全国各地に拠点があって衣食住についても考えているなと。住むための拠点はあるし、衣はデザイン性があって、加えて食が加わればもっとおもしろいことができるはずだと。

多様な働き方の先にある食の多様性、というか飲食の新しい形を生み出せるんじゃないかと考えています。

スタートはいつでも切れるし、自分で設定できる。

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———ファーストキャリアをどう選べばいいのか、悩まれている方たちに伝えたいことはありますか。

米山:あまり悩みすぎないことかな。

就職活動をするときだって失敗しないようにと考えがちですよね。でも、失敗や苦労ってなんでしょうか。ファーストキャリアで失敗や苦労することが重要ではないはずですから、重く捉えすぎないこと。

キャリアは自分自身で決めることだから、スタートはいつでもできるし、自分で新たに設定してもいい。自分で何かしたい、やってみたいと思えれば、スタートがもうはじまっているはずです。

ただ他者に押し出されてスタートしなければいいと思っているかな。誰かにスタートラインを引かれている状況でキャリアをはじめると、急に押し出された気持ちとなってしまうので。

———身に沁みる言葉、ありがとうございます。

米山:どうしてもスタートするなら前に出るしかないし、いくらでも挑戦すればいい。でも復帰できないほど心は折っちゃいけない。嫌だと思ったら逃げてもいい。

鈴木くんもそうで、何かしたいという目標を持って三条に来たと思うけど、仕事上で実現するのがむずかしいと思うんだよね。たとえ全部計算してもその通りにはならないので、1年や1ヶ月先、もしくは1日何をするかをしっかり考える時間をつくってみようか。

そこまで考えるのが億劫だなと思うなら、まずはゆるゆるとやれば僕はいいと思う(笑)

人生は自分が生きたいように設計する

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榊原壮太(さかきばら そうた)東京都出身。慶応大学在学中に企画編集の会社で1年間働く。卒業後、在学中の研究地であった三条市に移住し地域おこし協力隊に着任し、三条みらいづくり舎「日吉舎」の運営と管理を行った。

「働くことの本質」を考えた学生時代

———榊原さんが関わった三条みらいづくり舎「日吉舎」とはどのようなところですか?

榊原壮太(以下、榊原):日吉舎では三条などでインターンに参加する若者を受け入れています。

三条市は年々若者が減っているため、インターンとして来た学生が日吉舎を利用したりして、UターンやIターンといった将来的に三条で暮らしたり働いたりする選択肢の一つとして入れてもらえるようにと場の運営と管理を行っています。

———大学卒業後すぐに三条市に移住しようと考えたのですか。

榊原:大学在学中に地域教育と燕三条について研究していて、それを仕事にできたら自分も楽しいんじゃないかなと思って移住してきました。

あと、大学3年の時に会社で働いてからキャリアについて興味が出たのと、元々人の本音を聞くことが好きだったのもあって日吉舎にいます。

———キャリアに興味が出たという会社ではどんなことを学びましたか?

榊原:一言でいうと「働きかた」です。

副業必須だったり就業時間の規則がなかったりとユニークな会社だったので、学業だけでは見えない「働くこと」の本質を考える機会が多かったので。

たとえば、楽しい仕事っていうのは与えられる仕事ではなくて、自分でできる仕事であったり。生き方を自分で決められることが幸せにつながるとか、それが実現できたらと思って燕三条に来ました。

30歳までにどれだけできることを増やせるか

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———ファーストキャリアとなる企業で働いてみて苦労したことはありますか。

榊原:めちゃめちゃあるな……。

在学中に働いた会社では事業貢献できなくて悩んでいました。当時を振り返ると、自分ではなくてもできた仕事をしていたと思う。

———その苦労した経験が今に生きていることはありますか。

榊原:大学生のキャリア観を聞くときに共感できることかな。

大学までは順当な道を歩んできたし、在学中に企業で働いたり新卒で地域おこし協力隊に就いたりと変わったこともしてきたので。両方の側面からキャリアのアドバイスができるから、今後の仕事にも繋がるいい経験だったと思う。

———働く前と働いた後で「働く」ことの認識の変化はありましたか。

榊原:会社で働くまでは「働く=(イコール)稼ぐこと」だと思っていました。

実際に働いてみると人生で働く「時間」が多く占めるものだから。(働くことを)設計して生きることが、人生において本当はやらなければならないことだと気付けました。

ただ設計して生きることはスキルがある人ができることなので、好きな生活をするのではなくて、スキルを学ぶことが先だと変化してきました。

———今、キャリアを考える上で何か意識していることはありますか?

榊原:30歳までに、どれだけ自分でできることを増やせるか。

20代は仕事に対して頑張れば、お金とかも気にしなくていいと思うんだけど、30歳になってから何をするにしてもお金を稼ぐってなったら、その人にしかできない仕事を増やすってことがお金を稼ぐことに繋がると思う。

———どうしてそう思えるのでしょうか。

榊原:新卒で地域おこし協力隊として日吉舎を運営してみて、スキルがないのにやりたいことをするとうまくいかないことも多いので。

自分の生き方を考えるから見えてくる

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———振り返ってみて自分のファーストキャリアについてどう思いますか。

榊原:失敗することもあったけど、役に立たなかったとは思っていません。

ファーストキャリアはあくまで入口なので、ここからどういうキャリアを作っていくかが大切だと思っています。

———若い内の時間をどう使うのがいいと思いますか。

榊原:何を目指しているのかを常に考えることかな。

一般論でいったら、収入が多くてステータスが高い方がいいんだけど、もっと深く考えなければいけない。「違う生き方って実際どうなのだろう?」と考えていた人が社会に出ていろんな人と出会うときに、やりたいことが見えてきたりする。

どういう生活をしたいのかとか、どういう生き方をしたいのかなって常に自問自答し続ける事がいいんじゃないかな。

———やりたいことがない人はどうしたらいいですか?

榊原:考えることじゃないかな。

やりたい事はすぐ見つかるものじゃないと思う。自分も大学生の時探したけど見つからなかった。

ただやりたいことを考えない生活を送り出したら、やりたいことに出会う可能性も低い。考えておくことは大事なんだろうなと思う。

編集記

「人には千差万別のキャリアがあるのだな」ということをインタビューを通して学びました。年齢もバックグラウンドも違う4名が、それぞれの思いをもって同じところで働いている。ある目的に向かうのに、いろんな道があることを再確認できました。今後、僕も自分なりの道を歩みたいと思います!
今回インタビューを受けてくださった米山さん、榊原さん、ありがとうございました!
取材・文章 鈴木駿
編集:水澤陽介
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