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0から1を生み出す プロボクサーから転身し新たに視えた矛先
ものづくりのまち、燕三条地域には工場が集まって、たくさんのつくり手たちが生まれ活躍しています。そんな動きに目をこらし、丁寧に集め、つなぎ合わせる。まちを新しく編集する視点で日本有数の産地に訪れた。
承継、転身、後継、リブランディング。
“変化”を追い求めるに当たって派生するバズワードが踊る昨今。その波はものづくりのまちにも到来しつつある。一方、消費者のニーズは敏感であり、懐かしさこそがあたらしい、なんてことも。
あたらしさとはなんだろう。新規性は真似され、淘汰される。だから、正解を問い続ける時代に生きる私たちにとって真似されない、その人らしさとは何かという問いが必要と感じる。
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燕三条地域に目を向けてみよう。
このまちでは2013年から続く「燕三条 工場(こうば)の祭典」を通して、参画企業は誰もが真似されないオリジナリティーを探し、切磋琢磨してきた。
2022年に開催された、燕三条 工場の祭典を終えてから早半年。改めて、工場を開いた「ヤマトキ製作所」に訪れてみた。
実体験をもとに魅せること
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私たち、燕三条 工場の祭典に参加してきた工場は、魅せられることの重要性を考えてきました。魅せることとは真似される可能性もあります。
ただ、お客さんに対して常に時代にあった商品を提供する上で、製造から販売するまでの一連のプロセスをつくり、他社に真似されない本物のブランドとなるはずですから。
ヤマトキ製作所は創業当時、日用雑貨を中心に製造してきた。1980年には法人化し、時代の流れで建築金具を製造し、現在もつくり続ける<雪止め金具>や<※雨どい受け金具>、キャンプブームが後押しとなって人気を集める<五徳>など、メーカーとして日常で活用できる道具を展開してきた。
※雨どいとは建物の屋根や外壁に設置される、雨水の排水設備のひとつ。その雨どいを屋根と軒樋に固定するための金具。
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ヤマトキ製作所の工場内には大小さまざまな機械がずらりと並んでいる。金属をプレスする機械、切り出す機械、穴を開ける機械、溶接する機械。一際、目立ったのが機敏な動きをみせ、まるでボクサーと対決しているような威圧感を覚えた溶接ロボット。
普段、溶接ロボットを動かすときは目的となる作業動作をティーチング(プログラムを与えること)します。だから、工場を開く期間はボクシングのスパーリングを再現できるように動作をティーチングしました。
私自身が東京でプロボクサーとしてデビューし、日々のトレーニングで培ってきた動きを機械で表現してみたい。初めは些細なきっかけでした。<リングの祭典>なんて名称をつけて早8年、今思うと機械のメーカーさんにはみせられないなと。きっと怒られるだろうし笑 ……でも、こうした年月の積み重ねが自社ひいては私らしさでいう“つくり込む”につながってきたと感じています。
ものづくりへの思い。つくり込むとは何かを知るために、小林さんが家業を継ぐ30歳ごろまで遡る。
家業の思い出と転機
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ヤマトキ製作所は創業以前、曽祖父が個人事業主として日用雑貨の生産を手がけてきたのが始まり。小林さんの父親の代から法人化してから、家業を手伝い始めたという。
日曜日になったら、たまに工場に出向いては小さな梱包から道具の荷入れ。配達トラックの助手席に乗って外注先のところを廻っていました。今振り返れば、家業は生活と密着していて、たのしい思い出ばかりで、職人の仕事もずっと間近でみてきました。
数年が経ち、高校卒業の年。小林さんは、家業をすぐに就かずに東京に出るために進学を考えていた。その際に、新潟県三条市にある繁華街「本寺小路」の一角にあった石川書店に並ぶ雑誌「ボクシングマガジン」に掲載されていた広告に目を奪われた。
「働きながら世界チャンピオンを目指す」そうプロスポーツへの道である。
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高校生まではボクシング経験はありませんでした。でも、プロボクサーという言葉が妙に心に残り続けました。不思議ですよね。
東京の進学を考えていたから東京に行ける、仕事もある、しかもプロスポーツ選手にもなれるかもしれない。いや、なりたい。その一心で1996年に東京に行き、3年後の1999年にプロデビューを果たしました。翌年、
新人王とMVPを獲得できたのはプロボクサーになりたい原体験があったからと考えていましたが、今思えば周りの応援があったからこそでした。
新人王を獲得した2000年は同級生でいうと、ちょうど大学4年生のとき。地元の知人や自社のお客さんが会場に来てくれました。多くの人に応援されたから、ボクシングが続けてこられたし、結果もついてきたと思います。
世の中には、格闘家やプロスポーツ選手の肩書きを持つ人は1万と居る。一方で、応援し続ける人、今でいうファンが居ないと成り立たない。
戦時中や交戦区域ではスポーツ産業が発達しないと言われるように、安全な暮らしが保障されつつも、その上で誰かを応援したい。そうした環境だからスポーツ産業は成り立ち、平和の象徴とも呼ばれるのだ。
では、ヤマトキ製作所に置き換えるとどうだろう。小林さんは、商品企画から販売を例に出して「使ってくれる人の意見が一番」と付け加えた。
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たとえば、五徳を例に挙げると、その五徳の足を取り外しできるようにしたのは、お客さんのご意見によってつくられたもの。その経緯として、これまでのtoBに加えてキャンプブームで今、toCのお客さんもうちの五徳を買ってくれるようになりました。
「キャンプ場に五徳を持っていくとき、持ち運びができるようにしてほしい」
そんな意見を取引会社さん経由で教えていただき、五徳を改良に改良を加えて、今のかたちに落ち着きました。お客さん自身もDIYできる時代に、商品が選ばれるとは、つくって終わりではなく、時代に合わせてつくり込むことだと教えてもらいました。
有難いことに創業当時からつくっている道具は、いつかはあたらしい機械によって廃れてしまうかもしれません。それは同じものをつくり続けるからであって、世の中で何を求められているのかをアンテナを張って、自社の職人が培ってきた技術と若手社員のアイデアを吸い上げて反映する。格闘家として強くなっていくことが当たり前のように、お客さんに応援され続けるにはつくり手として日々の進化も当たり前のことなんです。
ゼロからつくる、たのしみを享受してほしい
ものづくり、ひいては鍛冶産業はフランスやドイツ、そしてロンドンにもこれまであったものの、現在も存続しているところは日本だけ。日本に限らずに世界中の鍛冶屋にとって共通した思いとして、メイドインサンジョウがあり続けることは、日本に住む私たち以上に世界中で期待と熱望されていることなのだ。
これは、三条市の工場を訪れた際に聞けた生きた言葉。私から小林さんに対してすこし意地悪な問いを立ててみた。「わからない、でもなんかいい三条市の未来にとって必要なことは?」と。
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自社で一緒に働く従業員も、プロボクサー経験を活かしあたらしく開設したボクシングレッスン「コバジム」に関わってくれる子にも伝えたいのが「ゼロからつくることをたのしめる」思考をずっと持っていてほしい。
0からつくることとは……ボクシングのスタイルと考えるとわかりやすい。
お客さんからの意見を聞きながら、どういう風に商品をつくり込むのか。パンチ力を付けたいなら筋力をつけないといけませんよね。でも、それで試合に勝てないなら変化しないといけない。たとえば、12ランドまで戦えるスタイルにしたいなら、肥大した筋肉をすこし削いでスピード向上のために走り込まないといけない。
これまでの経験が技術となって、さらに(商品の)仕様と混じりあうことで、お客さんが求める最高の道具になっていくものです。
そう考えられたのも、ボクシング人生を断念せざるおえない怪我を負ったときや、3.11で新潟県はじめ日本各地に影響があったときも。自分の仕事は人が生きていくうえで必要ないものなんだと痛感しました。ヤマトキ製作所が手がけている建築金具にももしかしたら同じことがいえます。
だからこそ社会に地域に、そして未来に還元できるような仕事をしないといけないと強く感じたんです。そのためにも、お客さんから必要されるような道具を0からでもつくっていこう。そのつくり込む過程さえもたのしんでいこう。従業員にはそう伝えています。
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コバジムとは、小林さん自身がこれまでのボクシング経験を活かして行うボクシングレッスン。格闘技型スポーツクラブ「JMNジム」のツキイチレッスンや工場、公民館にも出向いてレッスンを行っている。
小林さん個人で取り組むコバジムは、ゆくゆくはプロスポーツ選手になりたい若者が働きながらトレーニングを積める場として、燕三条地域の工場と連携したいという。なぜなら、現役中に感じた将来の不安。とくにプロスポーツ選手として短いキャリアと働くことを両立するむずかしさを感じただからだ。
コバジムを起点とし、燕三条地域の工場を知ること。そして、工場特有の勤務形態を活かして仕事と人生のキャリアを天秤にかけない土壌ができないか、近未来に想像しながら生徒たちにボクシングのたのしさを教えている。
燕三条地域が応援されるまちで在り続ける。そのため、応援されるような場をつくる。未来を見据えて、小林さんは汗を流しながら本日もつくり込むのだ。
インフォメーション
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取材先:
株式会社ヤマトキ製作所
住所:新潟県三条市鶴田4丁目6-6
電話番号:0256-38-7469
Webサイト:http://www.yamatoki.co.jp/
コバジム ツキイチクラス
住所:JMNスポーツクラブ (三条市本成寺2-1-7)
予約方法:完全予約制
k-coba618@pdx.ne.jpへメール、もしくはFacebook「小林秀徳」様へメッセージをお願いいたします。
Youtube:https://www.youtube.com/@echigo333
編集部:
SANJO PUBLISHING 制作部担当:水澤陽介
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