06 07【シードルをもっと身近に。弘前に根付いたシードル文化を創出していきたい】中山智・未央
「ローカルフードデザイナー」プロジェクト
りんごの生産量日本一を誇る弘前において、りんご酒「シードル」の文化創造・発信に取り組む中山智さんと未央さん。現在はオランドで「cidre&café POMME/MARCHÉNCL(ポム・マルシェ)」を運営。NCLとどのように出会い、現在の取り組み、弘前市への思いについて、お話を伺いました。
シードルとの出会いと退職と
-弘前に移住するまで、どんなことをしていましたか?
(智さん)私は京都出身なので弘前にはIターンになります。大学は新潟でした。大学卒業後は東京に本社があるボランタリーチェーン(同じ目的を持った独立小売店が組織化し、チェーン店のように展開する組織)の会社に就職。仕事内容は、簡単に言えば営業職です。全国のスーパーや小売店に営業しに行ったり、仕入れ商品を管理したりと物流や消費者の傾向などは勉強になりました。
▲京都出身の中山智さん
(未央さん)私は弘前高校を卒業後、埼玉へ進学しました。教師を目指し免許も取得しましたが、スーパーマーケットのシステムを開発する会社に就職。智さんとはその時知り合い、結婚します。仕事は続けていましたが、ファッションブランドのメーカーなどに転職。大学の農学部で研究のアシスタントをしていたこともありました。
▲弘前出身の中山未央さん
(智さん)夏休みになると、2人で海外旅行することが毎年の行事になりました。ヨーロッパがメインです。フランスやスペインなど。シードルとの出会いも旅行先でした。シードルは今でこそ認知され始めていますが、10数年前の当時、日本で知っている人はまだ少なかったと思います。ビールのように安い価格帯で気軽に飲む現地の人たちの姿が印象的でした。
(未央さん)初めて海外のシードルを飲んだ時、感動を覚えました。甘いアルコールという印象しかなかった日本のシードルとは違い、ガレットなどの料理と合わせて飲めるお酒ということに驚きました。食前酒やビールよりも手軽に飲んでいたことにも。フランスには「シードル街道」というシードルの醸造所が集まったエリアがあり、さまざまなシードルと地元の料理が楽しめることに感動しました。
-NCLを知ることになった経緯を教えてください
(智さん)きっかけは2010年頃からセカンドキャリアを考えるようになったことです。退職して地方で自分の好きなことであったり目指したいことを形にしたりと思うようになりました。そして、その思いは2020年8月にようやく叶い、退社。新しいことを始めようというきっかけを作りましたが、まだその時点では弘前に移住やNCLのことも知りませんでした。
▲カフェを始めるためにコーヒースクールに通った
(未央さん)私は仕事をやりながら2019年にフランス菓子店の専門学校に通うようになります。もともと料理は好きで、大学時代に飲食店でアルバイトをしていた経験からいつかは自分でお店を持ちたいという夢はありました。その機会がすぐに訪れようなんて思っていません。
(智さん)仕事を辞めたころは、長野への移住も選択肢として考えていました。フランスにあったようなシードルを活用した観光コンテンツを作ることを、次にやりたい仕事として思い描き始めていたからです。シードルやワインといった醸造所やワイナリーが長野では盛んで、現地に何度か視察に訪れたこともありました。
そんな中、弘前の移住サポートセンターへ相談に行く機会がありました。サポートセンターへは情報収集で立ち寄った程度でしたが、担当者とシードルの話まで広がり、教えてもらったことがNCLでした。そこからNCLに応募するまでは、たしか退職して1カ月も経っていなかったと思います。
(未央さん)NCLに応募した際に提案した事業は、リンゴ生産量日本一の弘前ならではのシードル文化の発信。フランスで感動したシードルを、弘前から生み出す取り組みのことでした。移住を決めてからは早かったです。弘前で住むところを決め、翌2021年3月には弘前に移り住んでいました。
シードル×〇〇の可能性に満ちた弘前
-現在取り組んでいるプロジェクトについて教えてください
(智さん)2021年4月からオランドがリニューアルし、カフェスペースを使って「ポム・マルシェ」を始めることになりました。ポム・マルシェは毎週決められた時間での営業ですが、海外から仕入れたシードルを提供したり、弘前のクラフトシードルの飲み比べができたりするなど、シードルをもっと身近に感じてもらうためのカフェです。フランスでは昼から飲めるところも多かったため、昼からシードルを提供したり、陶器でシードルを飲んでいたりしたので、弘前の陶芸作家に依頼して津軽焼のオリジナルカップも作りました。
(未央さん)シードルとペアリングできるような地元の食材を生かしたメニュー開発に挑戦しています。「清水森ナンバ」や「つがる漬け」といった食材を使った合わせ方を提案していました。
シードルに関わるワークショップの開催やイベントやオランド外での出店にも積極的に取り組んでいます。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大のため、アルコールの提供が制限され、シードルの提供を断念せざるを得ない状況も生まれているため、試行錯誤する毎日です。
▲つがる漬けを使ったポテトサラダ
(智さん)ポム・マルシェの運営のほかに、市内外のシードル工房の視察や原料となるリンゴの栽培の手伝いなども行っています。今後、私たち自身でシードルを作っていくことも視野にあり、醸造の視察や体験だけでなく、実際にシードルづくりにも挑戦しています。
-これから仕掛けていきたいことは何でしょうか?
(智さん)ポム・マルシェをカフェにしたのは、地元の人たちにシードルのことを少しでも知ってもらうため、まずは足を運んでもらうきっかけづくりです。今はまだカフェ利用のお客さまが多いですが、シードルを提供する機会を増やしていきたいですね。
国によってシードル文化はさまざまです。飲み方の違いがあったり、スタイルも異なったりします。中にはパフォーマンスで楽しませたりする国もありました。まだフランスなどと比べると、シードルの認知度が低いのでもっと身近に感じてもらえるようなことにつながるのであれば、幅広く挑戦していきたいです。
日本、それこそ弘前には弘前に根付いたシードル文化を創出できればと考えています。弘前は学都と呼ばれ、学生が多い街。学生たちの間でシードルを飲むことがかっこいいといった価値観が生まれるようなことでもいいかもしれません。ギフトに贈りあうといった習慣など作れるとおもしろいですよね。
▲シードルを注ぐ智さん
(未央さん)弘前にある食や文化をシードルと合わせることで新しいものを生み出すような相乗効果が生まれると良いなと考えています。弘前には伝統的な料理やリンゴ以外にもさまざまな食材があります。津軽焼やこぎん刺しといった伝統工芸も多く、シードルとペアリングさせることでシードルを知ってもらえる機会が増えるのではないでしょうか。
市内にはまだシードルを飲める店が少なく、日常にシードルを取り入れてもらうにはこれからです。おかげさまでポム・マルシェは少しずつリピーターが増え、カフェメニューも好評のようです。コロナ禍で難しい時期ではありますが、だからこそコロナ後でも弘前にずっと残るようなシードル文化を作っていきたいです。
▲未央さん
【プロフィール】
中山 智
京都府長岡京市出身。都内にて全国の中小スーパーマーケットを取りまとめる仕事を23年間行う。加工食品の商品知識・マーケティングに精通。UCCコーヒーアカデミープロフェッショナルコースを修了。コーヒーでのイベント出店やワークショップも開催。世界を旅する中で、シードルに出会い魅力にはまる。シードルの日本文化創造を弘前の地でと思い描く。
中山 未央
青森県弘前市出身。システム会社で顧客・売上データ分析、外資系企業において輸出入や物流、販売戦略部門を担当する傍ら、幼少期より母の影響で菓子作りを始め、2013年よりケーキスクールに通い、2020年3月には製菓学校で菓子ディプロムを取得。2018年シードルアンバサダー取得。小さな頃から身近だったシードルと地元食材との新たな組み合わせ発掘のため、弘前一シードルを消費しています!
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