アイヌ語輪読会レポ #1
こんにちは、北大言語学サークル所属のちょぬです。
サークルの活動としてアイヌ語の勉強会を行っています。本記事では、学習のまとめを兼ねて勉強会のレポを書き残しておきます。
底本について
勉強会の底本には 佐藤知己(2008)『アイヌ語文法の基礎』.大学書林 を使用しています。アイヌ語文法を網羅的に解説した本はあまり多くありません。
アイヌ語の「教科書」と言える文献は他にもあるにはありますが、最も詳しいのはこの本だと考えて課題本を選定しました。
学習レポ
底本の内容を要約してここに書くのは権利的にまずいので、このレポでは気になった部分を取り上げるにとどめます。
アイヌ語文法をガッツリ学びたい方は、ぜひ底本を始めとした文献をあたってみてください。
今回の会では、アイヌ語の概説、音韻、基本構文について学びました。本記事では音韻の中から、喉音音素について取り上げます。
喉音音素について
「喉音音素とは?」と思う方もいるかもしれません。まずは課題本の記述を見てみましょう。
声門閉鎖音は、母音の前に喉を緊張させて出す子音です。日本語話者も、「あ、い、う、え、お」と母音を区切って発音する時などには声門閉鎖音を発しています。
声門閉鎖音を音素として認める立場では、この音を喉音音素と呼んだりします。しかし佐藤(2008)は、これを他の子音と同じレベルの音素としては認めていません。佐藤(2021:25)でも同様の立場が示されています。
一方で、服部(1964:34)や田村(1997:6)はこれを他の子音と同様の音素として扱っています。アイヌ語の子音音素は、/ ՚/を含めた12個であるという考えです。
中川(2006:2)などはこの点について明確な立場を示していません。中立的な立場のようです。ただし、今回は当論文以外でどのような態度を取っているのかまでは調査していません。中川がこの点について言及している論文をご存じでしたらぜひご連絡ください。
ここまでで、いくつか喉音音素に関する立場を紹介しました。音素体系の記述という基礎的な要素一つとっても研究の中で議論がある点は、アイヌ語学習の面白みの一つだと思います。
ここまでご覧いただきありがとうございました!輪読会は週1回ペースで行っています。次回のレポ記事もすぐに上がるので、ぜひご覧ください。
参考文献
佐藤知己(2008)『アイヌ語文法の基礎』.大学書林
佐藤知己(2021)「アイヌ語千歳方言におけるわたり音化とわたり音挿入について」『北海道大学文学研究院紀要』163巻.北海道大学https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/80814/1/1002_bfhhs_163_l23.pdf
※論文内で引かれている佐藤(2015)は入手できなかったため孫引きしています。論文が手に入り次第加筆予定です。主張の根拠が気になる方は文献を探してみてください。服部四郎(1964)『アイヌ語方言辞典』.岩波書店
田村すず子(1997)「アイヌ語」.亀井孝・河野六郎・千野栄一編『言語学大辞典セレクション 日本列島の言語』.三省堂
中川裕(2006)「アイヌ人によるアイヌ語表記への取り組み」.塩原朝子・児玉茂昭編『表記の習慣のない言語の表記』.東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
http://www.aa.tufs.ac.jp/~asako/unwritten/01-nakagawa.pdf