見出し画像

「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第114回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
憲問十四の十七~十九
 
憲問十四の十七
 
『子路曰、桓公殺公子糾。召忽死之、管仲不死。曰、未仁乎。子曰、桓公九合諸侯、不以兵車、管仲之力也。如其仁。』
 
子路曰く、「桓公が、(兄の)公子糾を殺した。召忽は殉死したが、管仲はそうはしなかった。(それどころか桓公に仕え、宰相にまでなった。)これは仁とは言えないでしょう。」孔子曰く、「桓公は諸侯を集めたとき、武力で脅さなかった。これは管仲の力である。その仁には誰も及ばない、及ばない。」
 
(現代中国的解釈)
 
アリババは2009年、クラウドコンピューティング子会社、阿里雲を設立した。これは双11(11月11日独身の日セール)がスタートした年である。驚異的な拡大続けるアリババの技術的な支えだった。やがて自社のネット通販から、金融、行政、交通、医療、電信、エネルギーなどの各業界へ進出、中国聯通、12306、中国石化、中国石油、フィリップスなどの大企業へ顧客を拡げた。12306とは、中国鉄路客戸服務中心のことで、要は切符の予約システムだ。これにより春節の鉄道予約をめぐる、駅窓口での狂騒曲は、ピタリとおさまった。阿里雲は中国のDXに、誰も及ばないほどの大きな貢献をしたのである。
 
(サブストーリー)
 
今や阿里雲だけではない。IDCのデータによれば、中国の2022年、“公有”クラウドサービス市場規模は、74億6000万元、百度智能雲が28、1%でトップシェア、以下、阿里雲、華為(ファーウェイ)雲、騰訊(テンセント)雲が僅差で並ぶ。
 
百度智能雲は、4年連続1位となった。百度はAI基礎技術の研究開発能力を磨き、AI汎用製品を継続的グレードアップ、その集大成を“百度AI大底座”と呼んでいる。国産のチップと535万人のオープンソース開発者の力を用いて、中国のAI企業が直面するネックのソリューションに貢献するという。
 
例えば、金融分野では、中国郵貯銀行のプラットフォーム“郵貯大脳”を構築した。100項目のAI能力で、信用リスク管理など18の業務を行なっている。電力分野では、国家電網も採用している。これにより送電線の不具合識別効率は5倍にアップ、保守点検のトータル運営効率は、40~60倍に上昇したという。
 
このように超大手4社による、熾烈なソリューション案件獲得競争が繰り広げられている。非効率な旧式国有大企業にとって、大きなターニングポイントである。しかし、うまくいけば一気にDXが進むこともあり得る。
 
憲問十四の十八
 
『子貢曰、管仲非仁者与。桓公殺公子糾、不能死。又相之。子曰、管仲相桓公、覇諸侯、一匤天下。民倒干今受其賜。微管仲、吾其被髪左衽矣。豈若匹夫匹婦之為諒也、自経於溝瀆而莫之知也。』
 
子貢曰く、「管仲は仁者ではないのではありませんか。桓公が公子糾を殺したとき、殉死しないどころか、桓公を助けました。」孔子曰く、「管仲は桓公を助けて覇者にしたことで、天下を安定させた。民は今日に至るまでその恩恵を受けている。管仲がいなければ、私はサンバラ髪で襟を左前にしていただろう。管仲ほどの人が、しがない男女が溝の中で心中しても誰にも知られない、と同様であってはならない。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国では、治安の維持こそ至上の価値と考える。これさえしっかりやってくれれば、多少の汚職、腐敗には、とりたてて目くじらを立てない。人の目に付きにくい、補助金にまつわる不正であればなおさらだ。
 
(サブストーリー)
 
半導体の国産化は、中国経済の至上命題であり、巨額の補助金が注ぎ込まれている。その獲得を目指し、多くの半導体企業がゴールドラッシュのように設立されては、消滅している。中国メディアによると、2022年には5746社の関連企業が、登録を取消しまたは取消された。これは2021年の3420社から68%も増えた。また2022年決算を発表した半導体関連企業、104社のうち、49社が減益となった。その一方売上高は2022年1~9月までの段階で7906億3000万元、15、3%伸びている。
 
需給がゆるんだこと。米国からの制裁とそれにともなう、サプライチェーンのデカップリングなど、外的要因は大きい。それでも中国半導体協会によれば、半導体産業、とくに設計企業には大きなチャンスがある、という。
 
補助金詐欺のような企業が消えたことは、とりたたて目くじらを立てるようなニュースではない。むしろ順調といってよいのかも知れない。
 
 
憲問十四の十九
 
『公叔文子之臣大夫僎、与文子同升諸侯。子聞之曰、可以為文矣。』
 
公叔文子の家臣だった大夫僎は、(文子の推薦により)文子と同列の諸侯の地位に上った。孔子がそれを聞いて曰く、「文子という諡にふさわしい人だ。」
 
(現代中国的解釈)
 
段永平という有名人がいる。1961年生まれの企業家、投資家だ。企業家としては1995年に「歩歩高」を設立。当時の先端商品VCDで中国トップに立つ。投資家としては、苦境にあった網易(ネットイース)に投資、これにより息を吹き返した網易の丁磊は、2003年、中国最大の富豪となる。投資資金200万ドルは1億ドルに化けた。さらにネット通販大手、拼多多の黄崢に投資、これも大成功を収める。さらに「歩歩高」時代の部下が、次々とスマホメーカーを設立。今や世界大手となったOPPOの陳明永とVIVOの瀋煒である。段永平には、どのような諡がふさわしいのだろうか。
 
(サブストーリー)
 
その段永平は、2011年から、アップルにも投資、その理由をこう語っている。まず米国の長期国債利回りを一番に考える。二番目に、それを超えるリターンがあるかどうか考える。アップルはその強力なエコシステムにより、高い収益性を維持し続けらると想定できる。さらにスティーブ・ジョブズが、ティム・クックを後継者に選んだのが決定打だった。段永平は、クックと実際に会い、その人物を見極めた。そしてジョブズの亡くなった2011年から投資を始めた。これもまた大成功を収めた。
 
また段永平は、テンセントも好きで、投資機会を逃したこともあった。しかし今ではアップルのポジションをテンセントに振り向ける気はないという。アップルペイなど、世界の金融システムに影響を与えそうなこと、ゲーム市場が、少し衰退に向かうであろうことを挙げている。中国を知り尽くし、米国を見て投資する。場所は問わない。無敵の投資家である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?