「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第146回
本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
陽貨十七の三~四
陽貨十七の三
『子曰、唯上知与下愚不移。』
孔子曰く、「最高の知者と最低の愚者は、変わることがない。」
(現代中国的解釈)
現代中国には“造車新勢力”と呼ばれる新興EV車メーカー群がある。小鵬汽車、蔚来汽車、理想汽車、哪吒汽車、零跑汽車などである。激しい販売競争を繰り広げ、順位はしょっちゅう入れ替わる。そのためブランドイメージの確立が急務となっている。そうした新勢力の1つ、北京の理想汽車は、高級車に賭け、最高の知者(車)を目指した。最新の大型SUV、理想L9は、42万9800元~と800万円超えの高額である。
(サブストーリー)
それに対し、賽力斯という新しい企業が挑戦してきた。実はこの賽力斯の背後には、ファーウェイが控えている。発表した問界シリーズは、賽力斯とファーウェイの共同開発である。これは他の新興メーカーには大きな脅威だ。
9月中旬、その賽力斯が問界シリーズの新型7MというSUVを(24、98~37、98万元)発売した。テスラを意識したのか、従来型より4~5万元の大幅値下げを敢行した。その結果3週間で5万台以上を成約する、スマッシュヒットとなった。
この状況に、理想汽車は危機感を強め、連休前の戦略会議において、ライバルをBYDから賽力斯に変更したという。やはりファーウェイは恐るべき存在なのだ。とにかく資金でも技術でも、強力だ。自動車セクションに5億ドルの研究開発費を投じ、シャーシ―と室内レイアウトを改善、スマートドライビング機能を大幅アップした。新問界M7のスマート機能は、HUAWEI ADS 2 ,0と名付けられた。高速、都市での運転、駐車機能を備えたLiderを搭載、これにプラス、ミリ波レーダー3台、高解像度カメラ11台、超音波レーダー12台など計27のセンサーを備えている。これらの自動運転支援機能は、今年12月には、全国の都市部と高速道路をカバーするという。ファーウェイは自動運転でも一歩先へ進んでいる。理想の焦燥感もこれに起因する。先の戦略会議では、自動運転に対する保守的な認識を改め、ときに効率を考えず、投資することを共通認識とした。ただ高級車に注力しているだけでは、最低の愚者になりかねない。
陽貨十七の四
『子之武城、聞絃歌之声。夫子莞爾而笑曰、割鶏焉用牛刀。子游対曰、昔者偃也、聞諸夫子。曰、君子学、則愛人、小人学道、則易使也。子曰、二三子、偃之言、是也。前言戯之耳。』
孔子が武城へ行き、楽器の演奏と歌声を聞いた。孔子はにっこり笑って、「鶏を捌くのに、どうして牛刀を用いるのだろうか。」子游が答えた。「私は以前、先生からお聞きしたことがあります。曰く『君子は、道を学べば人を善導し、小人は道を学ぶとよく治まる。』と。」孔子曰く、「諸君、子游の言葉が正しい。前言は冗談だ。」
(現代中国的解釈)
小人が道を学べば、治安がよくなる。秩序の失われた乱世においては、確かにそうなるだろう。現代中国では、各個人がさまざまに自分の道を追求した結果、あちこちで問題を起こしている。国内の問題は、牛刀を用いての抑え込みが可能だが、海外ではそういかず、対応を学ぶしかない。海外摩擦の象徴となったのが、ファーウェイである。
(サブストーリー)
ファーウェイの創業者、任正非は、表面に出るのを好まない。それに政府が推していたのは、国有のZTE(中興)だ。影に隠れていられたのである。それが孟晩舟副会長の拘束事件(2018年12月、カナダ)以来、米国に対抗するヒーローに躍り出てしまい。一挙手一投足が報じられるようになった。これは任正非の望んだ状況ではない。その一方、ファーウェイのファンは確実に増えた。
最近、大きな話題を提供した5GスマホMate60の発売においてもも、支えたのはファンだった。2023年第2四半期におけるスマホの国内シェアは、次の通り。
VIVO…17、7%、Apple…17、2%、Oppo…17、2%、Honor…15、0%、シャオミ…14、0%に次ぐ第6位の11、3%だった。それが9月の最終週には、IPhone15が発売されたばかりのアップルに次ぐ2位に急浮上した。
Mate60の登場により、中国の独自技術(SMIC)で7nmのロジック半導体を開発したのが明らかとなった。ファンは米国の制裁は失敗した、快哉を叫ぶことができた。SMICは、最新のASML製、極紫外線(EUV)露光装置を使わず、従来型露光装置の工夫(反復?)により7nmを達成したようである。しかし、同時期発売のIPhone15は、世界初のTSMC製3nmチップを搭載している。ところが中国メディアは、さっそくこの3nmをやり玉に挙げ始めた。歩留まりが50%しかない、と盛んに報じている。ファーウェイを持ち上げ、アップルを貶め、バランスを取っているように見える。しかし、やがて歩留まりは上がっていくだろう。ファーウェイが7nm以下が調達できる見通しは全く立たない。
さらに問題は、ファーウェイがMate60を、発表会はおろか、何のプロモーションも無く、こっそり発表したことである。これは、SMICチップの供給(品質)不安定、また使用されていたSKハイニクス製メモリーも、市場から調達したもので、こちらも供給不安定と見られる。生産計画の見通しが立たないと思われる。ただし注目とファンの期待を集め続けているのは間違いない。