「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第139回
本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
季氏十六の一~二
季氏十六の一
『季氏将伐顬臾。冉有季路見於孔子曰、季氏将有事於顬臾、孔子曰、求、無乃爾是過与、夫顬臾、昔者先王以為東蒙主、且在邦城之中矣。是社稷之臣也。何以為伐。冉有曰、夫子欲之。吾二臣者、皆不欲也。孔子曰、求、周任有言。曰、陳力就列、不能者止。危而不持顚而不扶、則将焉用彼相矣、且爾言、過矣。虎兕出於柙、亀玉毀於櫝中、是誰之過与、冉有曰、今夫顬臾固而近於費。今不取、後世必為子孫憂。孔子曰、求、君子疾夫、舎曰欲之、而必為之辞、丘也聞、有国有家、不患寡而患不均。不患貧、而患不安。蓋均無貧、和無寡、安無傾、安無傾。夫如是、故遠人不服、則修文徳以来之。既来之、則安之。今由与求也、相夫子、遠人不服、而不能来也。邦分崩離折、而不能守也。而謀動干戈於内。吾恐、季孫
之憂、不在於顬臾、而蕭牆之内也』
魯の季孫氏は、属国の顬臾を討伐しようとした。季孫氏の家臣で孔子の門下生・冉有(求)と季路が孔子に面会し、「季孫氏が顬臾を切り取ろうとしています。」孔子曰く、「求よ、君は間違っていないか。顬臾は昔、魯の先王が東蒙山の祭主とし、かつ領内の国だ。譜代の家臣である。なぜ討伐するのか。」冉有曰く「季康子が望んでいます。我々は両名とも望んでいません。」孔子曰く、「求よ、周任は『任務に力を尽くし、それができないなら辞任せよ。』と言ったことがある。危機で支えず、倒れても助けないなら、季康子が補佐役を用いる意味がない。その上、君の言葉は間違っている。虎や野牛が檻から逃げたり、亀甲や宝石が箱の中で壊れたら誰の責任か。」冉有曰く、「今、顬臾は、軍備を堅固にして、季氏の本拠、費にも近いことから、今、取り除かないと将来、子孫の禍根となるでしょう。」孔子曰く、「求よ、君子は本心を率直に言わず、言葉を飾ることを憎む。私はこういうことを聞いた。『諸侯や大夫たる者は、領民が少なくことを憂慮せず、不公平を憂慮する。貧しいことを憂慮せず、不安定を憂慮する。』と。公平であれば貧しいことはなく、平和であれば、領民が少ない、ということはない。安定すれば国が傾くことはない。遠方の人がこれに従わないときは、文教や道徳を盛んにし、自然に慕ってくるようにすればよい。帰服すれば、彼らを安心させる。今君たちは、季康子を補佐し、遠方の人を帰服させることができない。国の分裂、崩壊を守ることができない。そして国内で戦乱を起こすことを企んでいる。私は季康子の心配が、顬臾ではなく、君たち近臣ではないか、と恐れる。」
(現代中国的解釈)
参謀の心得についての講話である。自動運転業界に当てはめてみよう。自動運転は、新しく自動車を製造しようという企業にとって、最大の動力源となっている。自動車産業100年に一度の大変革と呼ばれる、電動化、ネット化、スマート化、カーシェアリング化の“新四化”のうち、自動運転は、ネット化、スマート化の先にある最終目標だ。ただし、そこへ至るルートに正解はない。そのため、有能な参謀の存在が不可欠だ。
(サブストーリー)
百度集団は、自動運転の先頭に立っている。2017年、国家4大AIプロジェクトの1番に選ばれている。APOLLO計画というオープンプラットフォームを立上げ、世界中から技術と技術者を結集した。その後、紆余曲折を経て、2021年3月、百度と吉利汽車は“自動車ロボット戦略協力プロジェクト”を立上げ、上海に「集度汽車有限公司」を設立した。そしてコンセプトカーを発表したが、百度が主導権をとり、直接自動車製造に乗り出すものと見られていた。
ところが今年8月になると、今度は集度と吉利汽車とが合弁で、杭州極与越汽車科技有限公司を設立した。ブランド名は「極越」とした。初モデルの極越01は、吉利が4年間、180億元をかけて開発した「浩瀚架構」と称する、スマートEV車用のオリジナルアーキテクチャに基付いている。
ここへ来て、クルマ作りの主導権は、百度から吉利に移動したようだ。百度の役割はスマートシステムの支援といういかにもIT企業らしい位置に落ち着いた。ただし協力関係のパワーバランスは、動き続けている。参謀たちの力量も問われ続ける。
季氏十六の二
『孔子曰、天下有道、則礼楽征伐、自天子出。天下無道、則礼楽征伐、自諸侯出。蓋十世希不失矣。自大夫出、五世希不失矣。陪臣執国命、三世希不失矣、天下有道、則政不在大夫、天下有道、則庶人不議。』
孔子曰く、「天下に道があれば、統治や軍事に関する命令は天子から出る。天下に道が無ければ、諸侯から出る。諸侯から命令が出れば、十代で滅びないことは希だ。その下の大夫から命令が出れば、五代で滅びないことは希だ。陪臣が命令を執行すれば、三代で滅びないことは希だ。天下に道があるとき、政権は大夫の手にない。天下に道があると、庶民は政治の議論をしない。
(現代中国的解釈)
現代中国における、天下の道は“共同富裕”へシフトし、民間企業への圧迫が強まった。とくにIT巨頭は、当局の意向に沿うことが、至上命題のようになっている。
(サブストーリー)
アリババはそれに応え、ESGに関する、模範答案を出した。その2023年版レポートによれば、E(エネルギー)は、アリババが自社構築したデータセンターを紹介している。再生可能クリーンエネルギー使用率が53、9%に達し、エネルギー効率も改善した。全社のクリーンエネルギー使用率も2022年の21、6%より“大進歩”したと記している。
S(ソサエティ)は、レポート全体の7割以上を占める。ここでは、販売前情報の信頼性、正確性、流通の最適化を強調している。グループ物流会社の菜鳥が74%の商品配送を行なう体制となった。これによりネット通販の苦情率は0,018%、返品率は前年比27、2%低下した。また1万4000を超えるサプライヤーと「アリババサプライヤーESG行為準則規範」を締結した。これは前年より10%増加している。
G(ガバナンス)では、労務政策が示されている。従業員の訓練施設6万2383カ所、1人当たり訓練時間は51時間、出産休暇利用者6万2138人、育児休暇利用者1万4118人。また女性従業員比率49、1%、女性管理職比率41、9%、女性役員比率30%などとなっている。さらに年齢別離職率は35歳以下30、0%、36~50歳18、2%、50歳以上20、4%だった。
このように自己評価によれば、アリババのESGの進展は“顕著”である。果たして当局は好意的に捉えているのだろうか。