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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第174回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子張十九の二十二~二十三
 
子張十九の二十二
 
『衛公孫朝問於子貢曰、仲尼焉学。子貢曰、文武之道、未墜落於地、在人。賢者識其大者、不賢者識其小者。莫不有文武之道焉。夫子焉不学。而亦何常師之有。』
 
衛の公孫朝が子貢に問うて曰く、「孔子はどこで学んだのか。」子貢曰く、「文王や武王の道はまだ衰えず人心の中にあります。賢者はその大切さを認識し、賢者でないものは、些細ななことと認識します。文王武王の道がないということではありません。先生がどうして学ばずにいられましょう。そういうわけで、別段、誰か決まった師がいるわけではないのです。」
 
(現代中国的解釈)
 
小売業にとっての師とはユーザーに他ならない。アリババはそのユーザーを分析し、8つの階層に分類した。これをマーケティング戦略の基礎とし、事業に反映させるのだ。現在、アリババの天猫(国内)+Ali Express(海外)は、拼多多(国内)+TEMU(海外)のタッグに、勢いで圧倒されている。アリババは、組織改変や人事移動を繰り返すばかりで、成長エンジンを欠いてしまった。
 
(サブストーリー)
 
その8つのクラスターには、次のような解説が付いている。
 
1 新鋭ホワイトカラー…主に1985~1990年代生まれ、まだキャリア闘争の早期にあり、てきぱきとはたらき、消費の利便性にこだわりが強い。オンラインを好み、一人当たり支出は大きい。チャレンジングで、新規開拓に熱心、新ブランドを受け入れる。しかし高所得ながら、高消費、高い生活レベルのプレッシャーのため、"見えない貧困者"とも呼ばれる
 
2 ミドルシニア…大都市居住の1970年代、1980年代生まれ。キャリア形成は成熟段階に。新しいものに飛びつく意欲は弱く、合理的な消費感へ進化。オンラインショッピングではハイエンド製品の割合が高い。
 
3 優秀な母親…自らの健康と美しさに気を配り、子供の健全な成長を望み、家庭生活の細部まで注意深く整える。彼女たちはペースの早い都会生活の中、さらなる利便性のためにお金を使うのをいとわない。買い物頻度が高く一回の消費金額も高い。カテゴリーの中で高級化を進めている。
 
3 小都市の若者…小都市の若者は、大都市のトレンドを追いかけ、消費に熱中している。彼らの都市は、住宅価格も消費水準も低いため、過度の経済的圧迫は受けない。オンラインゲーム、ライブ配信などを楽しむ十分な余暇がある。オンライン通販に対するポテンシャルを秘めるグループ。
 
4 Z世代…大都市に住むインターネットネイティブ。ショッピング、レジャー、エンタメのために、熱心にインターネットを使う。新しいものに挑戦し、興味深いものに情熱を傾け、トレンドに注意を払うが、ブランドへの忠誠心はあまりない。独自の興味の輪、ニッチな社会的交流に熱心。外見に特別な注意を払い、美容カテゴリーの成長に大きく貢献している。
 
5 都市型シルバーグレー層…大都市に住み、年金をはじめ比較的十分な収入のある"インターネットの見えざる金鉱"である。彼らへのオンラインショッピングは普及率が低く、開拓余地が大きい。しかし、質素な消費という考え方の影響も受けている。
 
6 小都市の中年および高齢者…言及なし。
 
7 都市のブルーカラー労働者…大都市に住み、ケータリング、物流、小売りなどの産業についている。中流階級の影響により、オンラインのさまざまなチャンネルに精通している。しかし、低収入のため、家計からの圧迫が強く、費用対効果を追及せざるを得ない。
 
何だか敗因分析のようにも見える。アリババは低所得層、中小都市ではっきりと完全に、拼多多に屈した。分析には師とすべき内容をたくさん含む。巻き返しの一歩となるのだろうか。
 
子張十九の二十三
 

『叔孫武叔語大夫於朝日、子貢賢於仲尼。子服景伯以告子貢。子貢曰、譬諸宮牆也、賜之牆也、及肩。闚見室之好。夫子之牆数仭。不得其門而入、不見宗廟之美百官之富。得其門者、或寡矣。』

 
叔孫武叔が、大夫に朝廷で語って曰く、「子貢は、孔子よりも勝る。」子服景伯は、それを子貢に知らせた。子貢曰く、「これを屋敷に例えると私の垣根は、肩に届くだけです。室内の趣きまで見通せる。先生の垣根は、何尺もあります。その門を通らなければ、宗廟の美しさや、人材の豊富さはわかりません。しかもその門を通れるのはわずかです。叔孫武叔が、そのように言われるのもやむをえません。」
 
(現代中国的解釈)
 
世界の半導体とその関連企業は、中国市場へのアクセスに苦慮している。米国の輸出規制に対し、説明を用意しておかなければならない。NVIDIAは、中国市場用に規制に抵触しない製品作りに注力している。それとともに、中国で盛んな自動運転関連業務を強化していく。
 
(サブストーリー)
 
NVIDIAは2016年の設立以来、自動運転アルゴリズムの開発を支援し、高性能なチップとソフトウェアツールを提供してきた。ただこれだけでは自動運転技術の開発には不十分だ。そのため2020年から、ベンツとの共同開発をスタートさせた。この包括提携モデルによって、NVIDIAは、サプライヤーから開発請負業者へと変質していった。
 
中国本土では、優秀な人材の獲得に注力したた。2023年、造車新勢力の「小鵬汽車」で自動運転を開発していた呉新宙副総裁を引き抜き、自社の自動運転部門の副総裁に据えた。呉新宙氏の加入以降、小鵬や百度Apolloからさらに多くの人材が集結し、自動運転の全領域をカバーできるようになった。
 
中国には、それだけの需要がある。テスラがデータと演算の両面において100億ドル規模の自動運転投資をした。中国自動車企業がこのテスラに対抗するには、NVIDIAの協力が欠かせない。NVIDIAから高性能なチップとソフトウェアツールの提供を受け、これをベースに独自のアルゴリズムを開発するしかない。しかしこのプロセスは、非常に困難で、その前途は長い。そうした長期間の機械学習を続けるには、NVIDIAのGPUに頼るしかない。そのためNVIDIAは、大幅なカスタマイズを前提とした、独自モデル構築用プラットフォームの提供を試みている。中国には、国内勢はもとより、日米欧企業の出資する自動運転関連企業も多い。顧客には事欠かないのである。
 
NVIDIAの自動運転用途の収益は、データセンター用、ゲーム用に比べれば、微々たるものという。それに自動運転用途に限れば、米国も目くじらを立てないかも知れない。自動運転はNVIDIA中国事業の焦点である。NVIDIAはすでに狭き門を通り抜けたレアな企業となった。

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