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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第170回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子張十九の十四~十五
 
子張十九の十四
 
『子游曰、喪致乎哀而止。』
 
子游曰く、「葬儀では、悲しみを尽くし、余計なことはしない。」
 
(現代中国的解釈)
 
アリババの新零售(ニューリテール)を体現する存在、「盒馬鮮生」が揺れている。2016~2017年ころは、日本の小売り関係者もこぞって視察に訪れたものだ。オンラインとオフラインの区別をなくす、OMO(Online Merges Offline)の取り組みとして、大きな注目を集めた。短期間で300店舗ものチェーン化を成し遂げ、小売業の革命児のようにもてはやされた。価格的には中上級のスーパーのため、業態そのものが人々にささった、と考えられた。しかし、このところ、店舗閉鎖や、値下げ、身売りなど、かつては考えられないニュースがもれ伝わっていた。そしてこのほど創業者CEO・侯毅氏の退任が伝えられた。
 
(サブストーリー)
 
侯毅氏は、アリババのライバル、京東の物流担当だった。京東で盒馬鮮生のようなモデルを模索したが、実現には至らなかった。そこで、前アリババCEO・張勇氏の誘いにのり、アリババに移籍、新モデルの開発に尽力した。そして3キロ以内30分の速配を掲げ、天井に配置したピックアップ用チェーンシステム、海鮮のイートインなど次々と新機軸を打ち出した。現代中国人の印象に残っているのは、盒馬鮮生の店頭で、大きなタラバガニを頭上にかざし、得意満面の馬雲の姿である。
 
しかし、2019年ごろから情勢は変化していく。新規出店を停止、規模拡大と品質管理の両立に向け調整に入った。そして試行錯誤が続く。盒馬mini、盒馬里、盒馬小站、盒馬菜市、盒馬Pick’n go、盒馬X会員店、盒馬隣里、盒馬奥菜など、なんと12種もの業態を開発した。積極展開というより、方向転換の模索していたのだった。さらに2023年8月、"移山価"と名付けたお買い得商品をリリース。これまでの中級、上級狙いから、一般レベルのスーパーへ"堕ちた"。価格戦への参入表明だった。
 
コロナ終息後の経済情勢、消費習慣へ対応した結果とも強弁できるとしても、ディスカウント路線への反動は大きい。侯毅氏は2023年、サプライヤーを集めたカンファレンスで率直に、「退路を絶つ。」と述べた。しかし、9年、12業態を試したあげく、結局収益性の問題は解決できなかった。ここで創業者を排除し、CFOがその後継となったということは、売却も視野に入れているに違いない。盒馬は今でも28都市に360店舗という巨大資産を持っている。評価額はいくらだろうか。高額売却か自力再建か、余計なことを考えずとも、結論はまもなく出る。
 
子張十九の十五
 
『子游曰、吾友張也、為難能也。然而未仁。』
 
子游曰く、「私の友人、子張は、難しいことを成し遂げる。しかし、それはまだ仁ではない。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国の新エネルギー車(EV車、PHEV、燃料電池車)産業が急成長したのは、補助金や政策サポートを別にすれば、カギは動力用電池にある。難しいことを成し遂げたのは間違いない。その中心は、宇徳時代(CATL)と比亜迪(BYD)だった。この2社の争い激化により、かつて車載用動力電池シェア、世界一を誇ったパナソニックは、話題にも上らなくなった。ただ、今後も技術的な大小のブレークスルーが続き、標準化という業界にとっての"仁"が進むのは、相当先のようにみえる。
 
(サブストーリー)
 
2024年2月の中国国内の動力電池シェアは、CATL55.16%、BYD17.75%、中創新航6.38%と、宇徳時代が圧倒的ナンバーワンである。ただしこれは2位のBYDのつまずきににより、CATLは労せずして50%超えに復帰できた。
 
CATLは、三元(ニッケル、マンガン、コバルト)系の実用化で飛び出した。BYDはより安全性の高い、リン酸鉄系を武器に追いかけた。やがてリン酸鉄系はコストダウンに成功し、急速にシェアを高めた。2019年は4.2%だったが、2020年、13%、2021年、39.4%、2022年には、55.6%に達した。CATLも市場の要求を踏まえ、シフトチェンジを図る。2023年上半期には、三元系29.59GWh、リン酸鉄系36.44GAh(搭載ベース)と逆転している。そのため三元系の価格は下落したが、リン酸鉄系は、ほぼ横這いだった。こうした価格変動の波を受け、売りやすくなった三元系の販売が、海外も寄与し回復したの。BYD得意のリン酸鉄系は、2月にはマイナス成長に陥った。
 
2月の新エネルギー車売上は、史上初の前年割れである。自社製造のリン酸鉄系を、自社製造車に搭載するBYDは、完成車の前年割れが直撃した。
 
こうした中、新たな動力電池メーカーの淘汰が始まった。1年前、36のメーカーが争っていた。これまでは、最下層の企業が淘汰の対象だったが、それが2線級、3線級企業にまで上がり10位~15位あたりが再編の焦点となりそうという。中国には、新エネルギー車用バッテリーが300種以上、バッテリーパックは600種類近く存在する。こうした三元系、リン酸鉄系の争いに見られるように、動力電池標準化へのペースは遅い。さらに希少金属リチウムに依存じないナトリウム電池は実用化、さらに日本期待の全固体電池の登場が控えている。まさしく、仁義なき戦いが続いていく。

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