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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第92回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
 顔淵十二の十一~十三
 
顔淵十二の十一
 
『斉景公問政於孔子。孔子対曰、君君、臣臣、父父、子子、公曰、善哉。信如君不君、臣不臣、父不父、子不子、雖有栗、吾豈得而食諾。』
 
斉の景公が政治について孔子に問うた。孔子答えて曰く、「君主は君主として、臣下は臣下として、父は父として、子は子として、あるべきことです。」景公曰く「それはよい言葉だ。本当に君主が君主でなく、臣下が臣下ではなく、父が父ではなく、子が子ではなかったら、食料があったとしても、どうしてそれを食べようか。」
 
(現代中国的解釈)
 
社会秩序の大切さを訴える、孔子思想の中心テーマである。中国には、宗教的タブーなどのブレーキがかからず、一旦秩序が乱れてしまうと、暴力で治安を維持するしかなくなる。家庭内まで乱れてしまうとどうしようもなくなる。中国ネットでは“富二代”が常に問題となってきた。富二代とは、成功した金持ちの子女を指す。インターネット黎明期においては、役立たずの二世を見下す用語として登場した。金にあかして、遊び惚けているどうしようもない連中のイメージだ。彼らは秩序の乱れの象徴なのだろうか。
 
(サブストーリー)
 
実際はどうだったのだろうか。以下は2010年ごろの論文である。富二代の定義は、1000万元(約2億円)以上の財産を相続する子女。習慣的に贅沢品を購入し、高級サービスを享受する。“刻苦奮闘型”“知識成功型”の2つが多く、“放蕩型”は実は少数だ。彼らは“農家2世”や“貧困2世”よりはるかに大きな成果を上げている。しかし、ドラ息子イメージを持たれやすいため、特殊な管理と教育が必要だ。そのためさまざまなプロジェクトがスタートした。軍事関連教育機構「部隊院校」では、企業少師成長工程、というプログラムを立ち上げた。また江蘇省は、全省から1000名の企業家子弟を集め、2年かけて、教育訓練を施す。
 
ある調査によると上海市場と深圳市場に上場している305社の企業には、家族関係の中心人物285人と、その周辺人物900人以上がいる。内訳は夫婦関係が110社、兄弟関係が133社である。次世代が経営に参加している企業は153社だった。そして次世代の65.8%は事業の継承を希望している。イメージと違い、まじめにやっている人が多い。
 
論文は以上のような内容だ。2010年代の中国DXを推進した新世代のIT企業の創業経営者は、その多くが富二代とまではいかないにしても、裕福な家庭の出身者だ。欧米留学の経験者もたくさんいる。そして彼らの挙げた成果は、貧困2世の比ではない。そして中国は、秩序と管理をとても好む。
 
顔淵十二の十二
 
『子曰、片言可以折獄者、其由也与。子路無宿諾。』
 
孔子曰く、「一言でいざこざを収められるのは、子路だな。彼は引き受けたことは即実行する。」
 
(現代中国的解釈)
 
儲けに繋がることなら、即実行する。そうした中国人企業家に、集団主義でジャッジの遅い日本企業は太刀打ちできない。日本企業は、何も決定できない人が、視察と称して、ぞろぞろ中国出張していた。そのためコロナ渦で、出張が原則不可能となっても、日中貿易に大した影響はなかった。
 
(サブストーリー)
 
中国IT企業は、投資や買収のジャッジも早い。TikTokを運営するバイトダンス社は、2021年8月、90億元を投資し、PICOを手にした。PICOとは北京小鳥看看科技(2015年設立・北京)のVRブランド名である。Goertekの副社長だった周宏偉氏が創業したVRメーカーだ。ビデオ配信の愛奇芸、ファーウェイ、シャオミなど大手企業と切磋琢磨しながら、独立メーカーとして生き残った。VR元年といわれた2016年には、3000ものVR開発チームがあったが、ほとんど消滅していることを思えば、PICOは、極めてまれなケースだ。
 
そのPICOは9月末、バイトダンス傘下となって初めての新製品、オールインワンVRヘッドセットPICO 4シリーズを発表した。特徴は、1、軽量、2、没頭感、3、連携、にあり、メタのQuest、サムスンGear、HTC VIVEなどにまったく引けを取らないという。年間100万台を目標とする。買収によりPICOは、スタートアップ企業からIT巨頭の製品へと変化した。注目のメーカーである。
 
顔淵十二の十三
 
『子曰、聴訟吾猶人也、必也使無訟乎。』
 
孔子曰く、訴訟を聞くのは私も他の人と変わらない。私の願いは、訴訟そのものをなくすことである。
 
(現代中国的解釈)
 
現代中国人は、自己主張と交渉を繰返し、社会的立場の上昇を目指す。毎日訴訟を行なっているようなものだが、それは呼吸のようにごく普通に行なわる。訴訟や争いをなくすことは不可能だ。訴訟や争いに対するメンタルの強さこそ、中国人の遺伝子そのものである。
 
(サブストーリー)
 
鎮静化していたテンセント(Wechat)とバイトダンス(抖音、海外名TikTok)の争いが、またぞろ表に出てきた。バイトダンスは、2017年10月、リップシンクのショート動画投稿アプリMusical.lyの買収に成功、それを自社のTikTokに統合したことにより、驚異的な大発展を遂げた。今年(2022年)9月の“創作者大会”では、グラフィックやテキストなどのジャンルを強化する、と紹介された。抖音のトップページは、探索に加え、経験が増設され、グラフィック配信のパターンが拡がった。投稿のハードルも下がり、広告収入を得る可能性も高まった。さらにWechatの代名詞、アプリダウンロード不要の小程序(ミニプログラム)構築にもチャレンジする。
 
Wechatと抖音は、すでにショートビデオ、グラフィックコンテンツ、ネット通販へのリンクを同時に保有している。ライバル機能は増加する一方だ。某メディアは、両者によるトラフィックという名のおいしいケーキの切りあいは、ますます熾烈になる、と指摘する。2017年には、テンセントもMusical.ly買収に名乗りを挙げていた。逃した魚は大きかった。
 

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