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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第135回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
衛霊公十五の三十~三十二
 
衛霊公十五の三十
 
『子曰、吾嘗終日不食、終夜不寝、以思無益。不如学也。』
 
孔子曰く、「私はかつて、一日中食べず、一晩中寝ず、思索を重ねたが無益だった。学ぶことには及ばない。」
 
(現代中国的解釈)
 
不動産大手、恒大集団は7月中旬、2022年12月期の決算を発表、負債が2兆4300億元(約47兆円)の巨額であることがわかり、衝撃が走った。またEV車子会社・恒大汽車の決算は、989億元の欠損だった。思索を重ねた末のEV車参入だったが、これは無益だったのではないだろうか。
 
(サブストーリー)
 
恒汽車大の財務は逼迫している。負債総額は1839億元、親会社の負債がすごすぎて取るに足らない額に見えてしまう。半分以上有利子負債で、平均借入金利は7、65%。つまり負債は膨らむ一方だ。しかし、帳簿上の現金類は2億2000万元しかないという。
 
恒汽車大は2022年9月、SUV恒馳5(17万9000元~)の販売を開始した。30万元以下で、最も完成度の高い純電動SUV車というふれこみだった。しかし資金難などによる生産停止を繰返し、2023年までの納車数は、わずか1000台のみ。
 
恒大は2018年6月、EV車製造へ進出、10年後には500万台を生産する、と大風呂敷を拡げた。2020年夏、不動産融資規制で恒大本体が経営危機に陥っても、この事業を再建の切り札と称し、手放そうとはしなかった。しかし結局、989億元の資金を投入した挙句、たった1000台を販売したにすぎない。恒大の全債務を返済するには、恒馳5を1350万台販売する必要があるという。今でも逆転の秘策を、寝ずに考えているのだろうか。
 
衛霊公十五の三十一
 
『子曰、君子謀道、不謀食。耕也、餒在其中矣。学也、禄在其中矣。君子憂道、不憂貧。』
 
孔子曰く、「君子は道を求める工夫はするが、食を求める工夫はしない。耕しても餓えることはある。学べば、食い扶持はその中から得られる。君子は道を気にかけ、貧しさは期にかけない。」
 
(現代中国的解釈)
 
ファーウェイの新しい食い扶持を担うのは、独自OSの鴻蒙(Harmony)である。このほどその4、0バージョンを発表した。鴻蒙は2011年から計画を始動、2019年に1、0をリリース、3、0までグレードアップが進んでいた。2021年3月には、搭載デバイスは3億台、そのうちスマホは2億台、となり、将来的にOSシェア16%を目指すと発表した。2018年の孟晩舟副会長逮捕事件、2020年5月のTSMCのチップ製造裏切り(ファーウェイから見て)事件、とは時系列的に直接関係なさそうだが、スパートをかける原動力にはなったろう。
 
(サブストーリー)
 
4、0のハイライトは、スマートコックピット、車載システムのブレークスルーだという。独自のアプリケーションシステムを構築、開発者に包括的ツールとサポートを提供する。
 
2019年、ファーウェイは、赛力斯というEV車企業と提携関係を結ぶ。2021年4月には、共同開発車を発売すると発表した。同年12月、AITO問界M5がデビュー。さらに2022年8月、大型SUV、AITO問界M7も登場、売上は伸び、8月単月では初の1万台を達成、10月は1万2000台となった。通年では7万5000台を販売、国内勢最大のダークホースといわれたが、2023年に入り失速していた。
 
4、0の車載システムはそのテコ入れの意味もありそうだ。しかしOSシェアは、目標の16%に遠く及ばず、世界2%、中国国内でも8%である。シェアの貧しさは気にかけないわけにはいかない。
 
衛霊公十五の三十二
 
『子曰、知及之、仁不能守之、難得之必失之。知及之、仁能守之、不荘以涖之。則民不敬。知及之、仁能守之、荘以涖之、動之不以礼、未善也。』
 
孔子曰く、「知能が十分でも、仁でこれを守らないと、獲得しても必ず失う。知能が十分で、仁でこれを守っても、厳粛に臨まなければ、民はこれを敬わない。知能が十分で、仁でこれを守り、厳粛に臨んでも、民を動かすには、礼を用いなければ、完全ではない。」
 
(現代中国的解釈)
 
自動運転の知能を担うセンサーは、完全なものだろうか。調査機関・億欧智庫は「中国智能汽車新一代伝感器研究報告」というレポートを発表した。それによれば、スマートカー向け新世代センサーには、用いる光線によって、次の3つがある。 Lider(レーザー光)4ミリ波レーダー(電磁波)、3D-ToFカメラ(赤外光)。厳粛に分析してみよう。
 
(サブストーリー)
 
Lider(Light detection and ranging 光による検知とGHz)は、レーザー光を照射し、物体までの距離や方向を測定する。利点は、長距離識別、高制度識別度、距離情報の作成能力、サイズの小ささなどだが、悪天候や光線の影響を受けやすく、コストは高い。
 
4ミリ波レーダーは、従来のミリ波レーダー(30GHz~300GHzの周波数帯にあるレーダー)に高さ情報を付加したもの。静止物を含めた測距精度が大幅に向上する。しかし電磁波干渉に弱い。
 
3D-ToFカメラ Time of Flightは、赤外光で距離を計測する。距離=光速X時間 の公式で距離を測る。3D-ToFは、照射範囲を拡散し、カメラのような画像が得られる。ただし現在の応用範囲は主に室内だ。
 
最も採用が進んでいるのはLiderである。EV車製造為設立された、蔚来汽車、小鵬汽車、理想汽車、国有系の、上海汽車、広州汽車、北京汽車、第一汽車、などが搭載した。4ミリ波レーダーは、上海汽車、長安汽車が、3D-ToFカメラは、理想汽車が搭載した。
 
それではLiderで決まりかといえばそうでもない。Liderをブレイクする研究が盛んになっている。NOA(Navigate on Autopilot)と呼ぶ、コストのかかる高精度マップに基付かないカーナビアシストや、テスラがデータ収集しているFSD(Full Self-Drive)と呼ぶソフトである。イーロンマスクCEOは、データ分析の結果、重要なマイルストーンを乗り越えた、と発言した。そして高価なLiderは搭載せず、AIとカメラシステム、ビッグデータの活用のみで、自動運転を実現するという。民を動かすのはどのシステムだろうか。

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