「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第156回
本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
陽貨十七の二十三~二十四
陽貨十七の二十三
『子路曰、君子尚勇乎。子曰、君子義以為上。君子有勇而無義、為乱。小人有勇而無義、為盗。』
子路曰く、「君子は勇気を重んじますか。」孔子曰く、「君子は正義を最良とする。君子は勇気があっても正義が無ければ、乱を為す。小人は勇気があって正義がなければ盗みを働く。」
(現代中国的解釈)
パクリは中国産業界の得意技だった。アリババ創業者のジャック・マーは、2016年のG20杭州サミット前の外国人との会合で「中国のニセモノは本物よりいいモノもある。」と発言して失笑をかったこともある。当時、淘宝(C2C通販プラットフォーム)出品の高級ブランド品は、大方ニセモノだった。もちろんその後、企業コンプライアンスは進展した。毎年、反ニセモノレポートを公表、トレーサビリティ重視を強調している。勇気のみあって正義どころではなかったが、次第に正しい道を歩むようになった。
(サブストーリー)
半導体業界は、米国制裁の影響で、逆にパクリから自主開発への道が加速するかもしれない。先端半導体製造装置の輸入を止められたが、さすがに、これらの超精密機械は、パクリによる代替は不可能だ。自主研究を深めるしかない。
中国メディアはこの状況を、「外国企業は“自主的”に“撤退”した。中国企業には、その市場を埋める貴重な機会が与えられた。」と指摘している。確かに輸入は減少中だ。2023年1~11月の集成回路(IC)4376億個、前年同期比12、1%減った。2023年の世界半導体市場は、5200億ドル、9、4%減と予想されているから、外資の撤退は、まだ大きな影響はないのかもしれない。
深刻なのは利益である。中国国内では、151社の上場半導体企業が第三四半期決算を発表した。それによれば純利益は151社トータルで193億元で、前年同期比54%ダウンした。減益企業は全体の74%に及ぶ。
例えば、半導体設計会社は、大規模な損失を出している。在庫が膨れ上がり、時間とともに競争力が低下、減損リスクが高まっている。その一方、外国企業が“撤退”した後を埋める先端半導体の国内生産は、精彩を欠いている。
さらに半導体製造装置業界はより深刻だ。各工程毎に、産業チェーンレベルの基盤が必要だ。例えば半導体検査装置では、KLA(米国)応用材料(米国)、日立(日本)がそれぞれ、54%、9%、7%のシェアを持ち、中国製は3%に満たない。外国製の供給が途絶えれば、チャンスどころではない。一朝一夕に産業基盤が整うわけもなく、簡単にパクれるようなレベルではない。半導体業界のチャンスとは、概ねピンチである。
陽貨十七の二十四
『子貢曰、君子亦有悪乎。子曰、有悪。悪称人之悪者。悪居下流而訕上者。悪有而無礼者。悪果敢而窒者。曰、賜也、亦有悪乎。悪徼以為知者。悪不孫以為勇者。悪訐以為直者。』
子貢曰く、「君子でも、憎むことはありますか。」孔子曰く、「憎むことはある。他人の欠点を吹聴する者を憎む。下でありながら上役をけなす者を憎む。蛮勇を振りかざし、礼節をわきまえない者を憎む。果敢に決断し、すぐに行き詰まる者を憎む。」孔子が問う、「子貢よ、お前もまた憎むことがあるか。」子貢曰く、「他人の考えをもって、知者を装う者を憎みます。傲慢によって勇者を気取るものを憎みます。隠し事を暴いて正直者を称する者を憎みます。」
(現代中国的解釈)
隠し事を暴いてはいけない。昨今の苦しい経済状況の中、事実を報道してはならない。経済政策をになう政府官庁や中央銀行は、何かやって失敗するより、何もしない方がまし、というスタンスで、指導者礼賛ばかり繰返している。現在の経済政策は、国民に明るい経済見通しを示ことくらい。しかし、暗い見通しばかりで不安を煽り、“失われた30年”に貢献した日本マスコミと、どちらが正しいのか。
(サブストーリー)
米国制裁を受け、中国半導体業界は混乱している。しかし、中国メディアは、その明るい将来に疑いを抱いていない。
IT調査期間IDCによれば、2025年に世界のデータ量は175ZB(ゼタバイト)に達する。中国の伸びは世界平均を3%上回り、2025年には48、6ZB、世界シェア27、6%になると予想されている。この中国のスケールがカギになるという。
シリコンベースの半導体は、2~3nmになり、集積化微細化は限界に達しつつある。2年間で2倍というこれまでのムーアの法則は崩れるだろう。今後は人工知能AIチップ(GPU)の出現により、半導体の集積化に基付かない、新しいムーアの法則が生まれる。それは電子機器の台数などを含む、総合的な計算能力という。
GPUの開発は、現段階ではまだ米国NVIDIAが支配している。そして中国への禁輸封鎖は既成事実化した。しかし、しかしここの問題が解決すれば、総合計算力における、中国のスケールメリットが生きてくる。
実際に中国科学院のチームが、光計算半導体の開発に成功した。その計算速度は、NVIDIAのA100を上回った。中国科学院では、他に半導体技術開発ロードマップチームがあり、AIの設計に焦点を当てたブレークスルーを目指している。
どうやら記事は、最先端の2~3nmのスマホ用半導体で争うより、GPUの方に、資源を傾斜配分するよう促しているようだ。その方が勝機がある、ということだろう。ただし、これが正しい道かどうかわからない。
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