「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第154回
本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
陽貨十七の十九~二十
陽貨十七の十九
『子曰、予欲無言。子貢曰、子如不言、則小子何述焉。子曰、天何言哉。四時行焉、百物生焉。天何言哉。』
孔子曰く、「私はもう何も言うまい、」子貢曰く、「先生が何も言わなければ、私たちは何を語りましょう。」孔子曰く、「天は何を言うだろうか。四季は巡り、万物の生が巡る中で、何を言うだろうか。」
(現代中国的解釈)
現代中国では、あいかわらず、将来性がありそうな業種には、猫も杓子も殺到する。中国流の天の意思に沿った行動なのだろう。失敗を恐れないそのエネルギーは驚異的だ。これこそライドシェア、シェアサイクル、フードデリバリーなど、スマホ時代の新業態を瞬殺で立ち上げた原動力だった。現在、そのエネルギーは、新エネルギー車、半導体、医療健康などに向いている。自動車用半導体市場もその1つだ。
(サブストーリー)
自動車用半導体の市場規模は、世界全体で700億ドル、これが2030年には1500億ドルになるという。中国が3分の1を占めるとすれば500億ドル、自給率40%とすれば200億ドルの市場となる。
中国では、約300社の自動車用半導体企業がある。しかし別のデータでは、2020~2022年の3年間に1000社増えたという。実際はいくつあるのかわからない。MCU(マイコン)メーカーだけで数百社という。とにかくやたら多いのは確かだ。車載半導体不足が深刻だった期間に、殺到した結果である。金の匂いをかぎつけたハイエナの群れの様相だ。またこの時期には、ほとんどの自動車メーカーが、半導体企業に出資した。しかし集約が進んでいて、今年の資金調達は極めて厳しいという。当たり前だがトップ企業に集約されていく。その代表的企業、黒胡麻(Black Sesami)である。
黒胡麻は2016年設立、ボッシュ、エヌビディア、マイクロソフト、ファーウェイ、ZTEなどから、平均15年の経験をもつベテラン人材を集めた。出資者には、上海汽車、SK中国、小米、聯想、中国汽車芯片産業創新戦略聯盟などが名を連ね、提携先には、第一汽車、上海汽車、東風、ボッシュなどがある。自動車用半導体の中国代表チーム的存在だ。当然のように、ローカルサプライチェーン構築の中心と期待されている。2019年8月、自動運転用半導体「華山一号A500」を発表、2020年6月、「華山二号A1000」、2021年4月「華山二号A1000Pro」を発表。
2023年4月、自動運転のトップランナー百度と自動運転用SoC(Systen on Chip)開発の提
携を発表。6月、香港市場へ上場目論見書提出、2億ドルの調達を目指す。2023年の財務状況を見ると、第一~第三四半期、それぞれ5%~9%の売上減となっている、ただし利益は大幅増となり、黒字を確保している。しかし、変化の激しい世界市場での競争を勝ち残れる保証は全くない。
陽貨十七の二十
『孺悲欲見孔子。孔子辞之以疾。将命者出戸。取瑟而歌、使之聞之。』
孺悲が孔子に会うことを望んだ。孔子は病を理由に断った。取次ぎの者が戸口を出た。孔子は琴を取って謳い(仮病であることがわかるように)聞かせた。
(現代中国的解釈)
中国での支払いはQRコード決済一色となり、その市場は、支付宝(Ali Pay)と微信支付(We Chat Pay)が2分している。具体的には、支付宝34、5%、微信支付29、0%銀聯支付10、2%、財付通7、0%、京東支付5、8%、である。微信支付と財付通は、テンセントの運営のため、アリババ系(支付宝)とテンセント系で70%を占める。しかしかつては両者で90%を超えていて、これでも群雄割拠状態になってはきたのである。銀聯などは、国有企業としての威光を笠に、影響力を行使したと考えられる。そんな中、ファーウェイは2022年、新たに華為支付(Huawei Pay)をスタートさせた。、
(サブストーリー)
ところがそのファーウェイが支付宝との提携を発表した。華為支付を発展させるより、もっと重大なミッションがあった。それは独自OS、鴻蒙(Harmony)の普及である。ファーウェイは制裁によりGMS(Google Mobile Sirvice)が使えなくなり、iOSとAndroidに対し、独自OS、Harmonyで勝負せざるを得なくなった。しかし、2022年の第四四半期世界シェアは、Android 76%、iOS 22%に対し、わずか2%にすぎない。中国屋内でも8%である。
ファーウェイは、Harmony OS上で、支付宝にオリジナルアプリを開発してもらう。支付宝は、ファーウェイの技術を、支付宝アプリ内の小程序(ミニプログラム)システムの運用効率アップに活用したい。
アント・グループのCEOは、双方はよりオープンに、デジタルサービスとその他の分野でも協力を拡大、新たなエコシステムの構築も視野に入れるという。
ファーウェイの智能汽車解決方案BU(Bussiness Unit)責任者は、Harmony OSはファーウェイと提携パートナーの努力によって、マイルストーンに至ったと投稿した。
双方が、双方に利益をもたらす理想的パートナーとして歓迎している。支付宝の決済シェアが落ちこみに悩むアント・グループと、普及が進まないHarmony を抱えるファーウェイの提携。弱点を相互補完しているように見える。互いに仮病を装っての、偽りの提携ではなさそうだ。
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