「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第153回
本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
陽貨十七の十七~十八
陽貨十七の十七
『子曰、巧言令色鮮矣仁。』
口達者で外見を飾る者に、仁はほとんどない。
(現代中国的解釈)
IT巨頭の地殻変動が活発だ。TikTok、の運営会社、バイトダンスの売上が、テンセントに超えた。またネット通販大手、拼多多の時価総額がアリババを追い越した。ます最初にIT大手として飛び出したのは、BATだった。検索エンジンの百度(バイドゥ)、ネット通販のアリババ、ゲームとSNSのテンセントである。中でもアリババとテンセントは、世界時価総額ランキングでトップ10常連となり、一時は6位~7位辺りを定位置としていた。そして2010年代、第2世代の巨頭として、TMDが登場してきた。T=頭条(バイトダンスのメディア名)M=フードデリバリーの美団、D=ライドシェアの滴滴出行である。さらに2015年以降に創業した第3グループは、PKQと呼ばれた。P=共同購入の拼多多、K=ショートビデオの快手、Q=ニュースメディア趣頭条である。これらの秩序が変わるというより入り乱れ始めた。しかし、口達者ばかりによる仁無き戦い、ということではなかった。
(サブストーリー)
最後までIT巨頭として生き残るのは、アリババ、テンセント、バイトダンス、拼多多の4社になりそうだ。第1世代2社、第2と第3から、1社ずつである。まず、テンセントに迫りつつあるバイトダンスのニュースが、テンセント・ニュースに掲載された。公正なメディアを目指しているようだ。
それによれば、バイトダンスの2023年上半期売上は、540億米ドル相当だった。テンセントは、413億ドル相当。ただし、バイトダンスは非上場企業のため、不透明なところがあり、これまであまりネット企業、売上ランキングにも登場していなかった。しかし、海外メディアによれば、2022年、38%以上伸ばし、852億ドルの売上を計上していた。テンセントの766億ドルを、昨年すでに上回っていた。
バイトダンス急発展のきっかけは、2017年のMusical lyの買収である。彼らは15秒のリップシンク(くちパク)ショートミュージックビデオの投稿シェアアプリを考案し、リリースした。言葉は不要なモデルのため、最初から世界性を備えていた。バイトダンスはこれを、テンセントとの買収合戦の末、10億ドルで手にいれた。その後、自社開発していたTikTokと統合、世界展開を加速した。
テンセントは買収合戦に敗れた。それが遠因となって、ついに売上高でも追い越された。創業者・馬化騰の胸中はいかばかりか。テンセントは、ショートビデオのライバル、快手に出資している。この出資は、ショートビデオモデルに強いインスピを受けた馬化騰が、自ら決定した。しかし、もしTikTok、快手とも、テンセント傘下となっていたら、仁にかなう公正な競争となったかどうか。これでよかったのだと思う。
陽貨十七の十八
『子曰、悪紫之奪朱也。悪鄭聲之乱雅楽也。悪利口之覆邦家。』
孔子曰く、紫が赤にとって代わるのを憎む。鄭の音楽が雅楽を乱すのを憎む。口達者が国を覆すのを憎む。
(現代中国的解釈)
拼多多が株価時価総額でアリババを上回った。11月末発表の、2023年、第三四半期決算によると、売上高は、688億4000万元、前年同期比93、9%増と倍増していた。これを受け、翌日には、アリババの時価総額を上回った。ネット通販の盟主は、とって代わられたのだろうか。口達者で見かけを大きく見せているだけなのだろうか。
(サブストーリー)
中国メディアでは、その分析が盛んに行なわれている。
拼多多アプリのリリースは2015年9月。微信を利用して、家人、友人、ご近所などでグループを組み、低価格での商品購入を目指すC2B型のネット通販としてスタートした。これにより、ネット通販初心者の、地方都市低所得者層を大量に取り込んだ。
2016年2月、月間GMV(契約総額)1000万元(1.52億円)ユーザー数2000万突破。
2016年7月、ユーザー数1億突破、1億1000万ドル調達。テンセント出資。
2017年、テンセントのミニプログラム(小程序)へ真っ先に参加、年間GMV1412億元に。
2018年7月、米国ナスダックへ上場。
当時、創業からナスダック上場まで、当時のスピード記録を樹立した。しかし、その後は、ライブコマース、社区団購、生鮮直販などの新業態が話題になることが多くなった。そんな中でも拼多多は、着実に進歩を重ねていた。中国メディアは、高品質商品の供給と消費、エコロジーの実現に注目している。要は商品開発、特に農林業である。今年9月から、30万農家と全国で1000を超える農産区と「多多豊収館」を推進している。数百億元の補助金を出し、米麦、油、肉、家禽、卵、牛乳、野菜、果物、あらゆる農産品の生産を支援する。今回、初めて補助対象となったのは、新疆の海鮮、安慶の米、会理のザクロ、絡川のリンゴ、安岳のレモンなど各地の名産品だ。「多多豊収館」には、夏季狂歓節、国貨節、多多読書月、などの販促活動と優れたサービスも付いている。生産者に寄り添い、消費者には、「高いものも買える、ただし決して高すぎない。」セールを毎日楽しんでもらう。
さらに第三四半期だけで28億5000万元のテクノロジー投資を行ない、先進技術を地方に注入している。科学技術による農業強化のコンペも行なった。96の大学院生チームが参加し、雲南省、四川省、陝西省などで、小規模学術機関が支援する農産品が陽の目を見た。また「農雲行動」というクラウドを立上げ、デジタル農業の建設をサポートしている。
アリババも商品開発による地方の新興に大きく貢献してきたが、拼多多は、それを実質的に上回ることを目標にしたようだ。それは成功し、知らぬ間に、中国最大の農業プラットフォームになっていた。拼多多は見かけだけではなかった。どうする?アリババ、を突きつけている。
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