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良い夫婦の日

「あ…まただ…」
信号が赤に変わって、前の車が踏んだブレーキのランプがぱか、と光る。
運転する夫の視線の先には車を識別するための数字が並ぶ。
「いい夫婦だ」
助手席に深く沈めた体を起こし、夫の視線の先の数字を見ると並ぶ「11-22」の文字。

人手の多い週末、専ら車で出かける私たちはこの数字をよく目にする。
「今日、そう言えば良い夫婦の日だね」
イベントを特に気にする性格では無い夫がそんな事を口にするのは、季節のイベントが大好きでもう良い大人になった今でもひな祭りすら祝いたい私の性格に中てられての事なのだろう。
長く一緒にいると思考や癖が似てくるのはどこの家庭も同じようなものだろうか。
私たちはもう一緒に暮らすようになって10年。

11月22日。
すっかり忘れていた。今日は夫の好物でも作ろうかな、それとも夫の好きな赤い赤い花を食卓に飾ろうかな、と考えながら。

因みに全然関係ない話だが私の両親の結婚記念日は釈迦の誕生日だ。
特に信心深い訳ではないし宗教に固執するようなタイプでも無い。
ただ、花が大好きで花に囲まれて暮らすあの人たちだからとても良い日だと思っている。

信号が変わるまであの番号の車に乗っている人たちの事を考える。

結婚して、幸せの中で車を買う時、結婚記念日だから、とその番号を選んだのだろうか。
実際にこの国では11月22日を結婚記念日にするカップルが一番多いそうだ。

何度も車を買い替えていく間に、子供がうまれ、育児の方針や協力体制で喧嘩を繰り返し、日常の小さな価値観の違いが蓄積し、会話をするのも嫌になってしまう日を何度も何度もやり過ごし、どちらからでもない修復を繰り返し、少しづつ愛情は形を変えて、愛情ではない形になる。
私は融合に近い形だと思っている。

1122の人たちは、車を買い替える時に張り付けた笑顔の営業から
「車のナンバー、どうしましょうか?」
と聞かれると呪いの様にこの番号を選んでしまうのだろうか。
選ばざるを得ない。

私なら、この番号では無くなってしまうと「いい夫婦」では無くなってしまう、あなたに気持ちがなくなったと伝えている、伝えられている、そんな風に考えてしまう。
たとえどんなに冷え切ってしまった仲になっても「違う番号に…」と切り出す事なんかできるだろうか。
多分、私にはできない。

呪い。

今まさに結婚しよう、なんて人生で一番幸せであろう時に、こんな恐ろしい未来を想像する人間なんていない。

そうやってこの混雑した道路を11-22は走り続ける。

そうしているうちに信号は青に変わる。

左折する11-22と直進する私たち。
さよなら11-22.

願わくば、1台でも多くの11-22の車が幸せな時間を過ごせていますように。



初めまして、蜂畑二個(はちはたにこ)と申します。
車で走ってるとホント11-22の車が多いなぁと思って。

実際に11-22の方の気分を害しましたら申し訳ありません。
単純に見分けやすいって理由でこの番号を選ぶ方も多いらしいですね。

車のナンバーとそれに関する由来があればぜひコメントで教えてください。









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