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【第331回】想像もしたくない最悪のシナリオ

能登半島地震で被災された皆様に対して心からのお見舞いを申し上げます。

令和6(2024年)はとんでもない年明けだった。元旦の午後4時10分、石川県能登半島を震源とする大地震の発生。最大震度7という巨大地震だった。

それによる被害も甚大で、この原稿を作成している時点で死者数は206人、安否不明者が52人、重軽傷者も567人いるという。

夕方、TVの臨時ニュースでは、被災地の人々に向けてアナウンサーは津波の到来から逃げるようにと声を張り上げて呼びかけていた。

翌2日の夕刻6時ごろ、急に画面が変わり、TVは羽田空港の滑走路上で旅客機が燃え盛る様子を映し出した。着陸した旅客機が海上保安庁の輸送機と衝突・炎上したという。

代わる代わる映し出される能登の惨状と羽田で炎上する旅客機の姿を眺めながら、多くの人々が「まさか正月早々にこんな二つの大事件が……」と思ったはずだ。

やがて、旅客機の乗客・乗員は全員無事脱出したと伝えられ、思わず心の中で拍手をした。それにしても人々の正月気分は一気に吹き飛んだ。

海外からも含めて政府や各自治体、多くの人々や企業が被災した人々への思いを寄せて様々な支援が始まっている。家族を亡くし、住む家や仕事を奪われた人々の悲しみや苦労はこれからも続くだろうが、日を経るにしたがって人々は日常を取り戻している。

縁起でもない話だが、僕はもし今回の飛行機事故で乗客・乗員が炎上する飛行機から逃げ出せずに全員が亡くなるようなことになっていたとしたらどうなっていたのだろうと考えていた。

JALの乗員と乗客の冷静で適切な行動が今回の幸運をもたらしたことは称賛に値することだが、同時にそれは奇跡的ともいえることなのだ。

もし、結果が不幸にも脱出できなかったとしたら、事件後の日本の社会にはどんなパニックが起きていただろうか。

冷静さを失ったメディアも国民もヒステリックに羽田飛行機事故の責任を追及し、その結果、現在進められているような能登地方をはじめとする地震被災地への援助も混乱したものになっていたかもしれない。

それだけでなく、この事態を招いたとして災害援助に奔走する政府や関係者に対する感情的な批判が集中し、政情不安すら起きることもあるかもしれない。

日本人はもっと良識があり冷静な国民だと思いたいが、そうした事態に乗じて意図して政情不安を起こそうとする海外勢力もいるかもしれない。

北朝鮮では何が起きようとも不思議ではない。ロシアは突如ウクライナを攻撃した。台湾有事と言われる事態は起きないか。

多くの日本人は無疑問に現在の平穏な暮らしが続くと思っている。能登半島の災害は、東京で、中京地域、中四国、北海道、九州のどこで起きても不思議ではなく、今後30年以内にM8程度の地震が起こる確率は14%、50年以内は20%、100年以内なら40%という予測もある。もしかしたらそれは明日、明後日かもしれない。

想像もしたくないような最悪の事態を招かぬためにこそ、我々は冷静に転ばぬ先の杖を用意すべきなのである。

『農業経営者』2024年2月号


【著者】昆吉則(コンキチノリ)
『農業経営者』編集長/農業技術通信社 代表取締役社長
1949年、神奈川県生まれ。1973年、東洋大学社会学部卒業後、株式会社新農林社に入社。月刊誌『機械化農業』他の農業出版編集に従事。
1984年、新農林社退社後、農業技術通信社を創業し、1987年、株式会社農業技術通信社設立。1993年、日本初の農業ビジネス誌『季刊農業経営者』創刊(95 年隔月刊化、98 年月刊化)する。
現在まで、山形県農業担い手支援センター派遣専門家(2004年〜現在)、内閣府規制改革・民間開放推進会議農業WG 専門委員(2006年)、内閣府規制改革会議農林水産業タスクフォース農業専門委員(2008年)、農業ビジネスプランコンテスト「A-1 グランプリ」発起人(2009年)、内閣府行政刷新会議規制・ 制度改革分科会農業WG専門委員(2010年)を務める。

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