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【第102回】「生きる」ってそういうことなんだよ

集落のおばあちゃんが亡くなった 死期を悟ったかのように綺麗に整理されていた住まい おばあちゃんから最後に頼まれたのは 庭を荒らすようになった大角鹿の捕獲だった

田舎に暮らし始めて15年も経ちますが
相変わらず朝が苦手な山本家が家を出る7時ごろ
お隣のお家の前を通ると
もう一仕事終えたおばあちゃんが
庭の手入れや畑の手入れなんかをされています。

「おはようございます 毎日早いですね」
と挨拶すると
「歳いったら朝はよーに目が覚めるんじゃわ」
と決まって返ってきます

そんな朝の光景が
いつまでもいつまでも永遠に続くような気がしていたのですが
そろそろ夏祭りというある日
姿を見かけなくなりました。

夏祭りは何度も書いていますが
家ごとに
小麦粉や米粉を持ち寄って
山で笹を摘んで粽(ちまき)を作るという集落の恒例行事。

おばあちゃんを見かけなくなる数日前
「今年は祭り行けんかも知れんから 先に小麦粉渡しとくわな」
と小麦粉と会費の1000円をお預かりして
集落でも飛び抜けて元気なおばあちゃんだったので
その時は何か忙しいのかなくらいに思っていたのですが

それから数日後
隣町に住む息子さんから
おばあちゃんが亡くなった
と電話があり
あまりに突然のことに
買い物途中のスーパーで
スマホ片手に大声を出してしまうほど驚きました。

葬儀の後
息子さんに聞いたのですが
ひと月ほど前ちょっと体がおかしいと病院に行ったら
末期の膵臓癌と診断されて
治療の方針を決めるため検査入院の間に容体が急変して
亡くなったとのことでした

息子さん曰く
体調のことは周りに全く伝えてなくて
入院する直前まで誰も知らなかったそうです。

加えて亡くなるまでに
おばあちゃんの荷物が
布団に至るまで家に全く残っていないくらい
空き家のように綺麗に整理されており
おそらく1年くらい前から
なんとなく死期を感じて
誰にも言わず
少しずつ身辺整理をしていたのではないかということでした。

機械もあまりなかった時代
何もないこんな集落で
体使って
自分たちの力で生きてきた人というのは
自分たちのことは自分でするというその姿勢を貫いておられ
最後の最後に
「生きる」ってそういうことなんだよと
教えていただいた気がして
心の底から震えました。

そんなおばあちゃんが亡くなる数週間前
野生動物もおばあちゃんが弱っていることを感じていたのか
庭や畑に大きな角を生やした鹿が頻繁に入って荒らすようになり
たまりかねたおばあちゃんから
「獲ってくれんかの」と頼まれていました。

もちろん
二つ返事で
罠を設置するのですが
鹿も大きくなると
経験値が上がって頭も良くなるのかなかなか獲れず
悔しい思いをしているうちに
おばあちゃんが亡くなってしまったので
二重に悔しく

葬儀の後
息子たちも絶対獲ってやると
意気込んで
罠を仕掛け続けて1週間
人の気配がなくなって大角鹿もつい気が緩んだのか
数度の空弾き(罠を踏んでいるが掛からない状態)の後
見事捕獲に成功しました。

捕まえたのは
体重81キロという本州鹿にしては稀に見る大物。

夏草とおばあちゃんの畑の野菜を豊富に食べていたこともあってか
鹿肉としては珍しく霜降りになっているほど良質なお肉。

最高のお肉に仕立て
おばあちゃんのストーリーとともに「限界集落で生きる」ってどういうことか
僕らが感じたことを
レストランでお客様に伝えていきたいと思います。

おばあちゃん
空から見ていてくださいね。

『農業経営者』2024年9月号


【著者】山本 晋也(やまもと しんや)
1968年、京都生まれ。美術大学を卒業して渡米後、京都で現代美術作家として活動しながらオーガニックレストランを経営。食材調達のため畑も始める。結婚して3人の子どもを授かったところ、農業生産法人みわ・ダッシュ村の清水三雄と出会い、福知山市の限界集落に移住。廃屋を修繕しながら家族で自給自足を目指す。現在、みわ・ダッシュ村副村長。

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