見出し画像

【第29回】堂島取がコメ先物本上場申請 日本平均コメ価格で取引

(株)堂島取引所(村田雅志社長)は2月下旬、農水省と経産省に先物市場へのコメ本上場申請を行なった。本上場するコメの先物取引の最大の特徴は二つある。


一つは、上場商品が具体的な産地銘柄ではなく日本で生産されるコメの平均価格を指数として上場すること。

もう一つは、生産者や流通業者、実需者など当業者の利便性を最大限考慮して現物の受け渡しが売り手買い手の意向通り行なえるようにすること。本上場が認可されると今年8月にも3年ぶりにコメの先物取引が復活する。

23年産米は価格上昇が止まらず、昨年10月の出回り期に比べ、1俵当たりおおよそ3000円も高い。端境期に向けさらに値上がりが予想される。こうした環境下、先物取引が開始されると新米24年産米の価格変動のリスクを回避できる手段が得られることになり、コメ業界にとって大きな福音だ。

上場計画は急ピッチで農水省も側面から支援

最大の特徴になっている「日本平均コメ価格」という指数を上場することにした理由はどこにあったのか。試験上場中は取引高を増やすため、特定産地銘柄を次々に上場していったが、結果的には市場が分散してしまい、一般投資家の関心も集まらず思うような取引高が獲得できなかった。

堂島取が主催した商品設計委員会の席でも最初に当業者から要望されたのが「わかりやすくシンプルに」というものであった。そこで株式の日経平均のような指数を取引してはどうかと提案がなされた。日経平均の場合、現株の取引が毎日なされており、その価格を基に平均価格を算出できるが、コメの場合、公的な現物市場がなく、価格形成がなされていないことから、どのような方法で日本コメ平均価格を出すのか商品設計委員会で議論になった。

農水省がマンスリーレポートで月1回公表している相対取引価格を加重平均した価格を日本コメ平均価格としたらどうか。これに対して実際にコメを売り買いしている仲介業者から「市場で売り買いしている価格と相対価格にはタイムラグがある」ので、先物市場での最終清算価格としてどうなのか?という疑問視する意見もあった。このため堂島取では、専門家や全農、全集連、全米販、仲介業者が委員となり、「指数算出要領策定委員会」を組織して、より合理性のある指数を算出することになった。委員会は第1回を1月29日、第2回は2月7日、第3回が2月15日というあわただしいペースで開催された。

こうしたタイトなスケジュールで商品設計を行なわなければならなかった理由は、堂島取が急いでいたというより、農水省から急がされたという面が強い。

農水省は1月30日に「コメの将来価格に関する実務者勉強会」のとりまとめ(下画像参照)を行なった。いわばコメ先物取引市場開設に向けた側面からの支援。このとりまとめには先物市場を活用した取引事例が出ており、実にわかりやすく説明されているので、コメに携わる人はぜひ目を通しておいた方がよい。

当業者の利便性に配慮 指定現物市場で受け渡し

本上場される新しいコメ先物取引でもう一つ特徴的なのは、当業者が希望する産地銘柄で現物の受け渡しができるようにすること。

試験上場中は標準品を決め、それ以外の産地銘柄は共用品として受け渡しされた。共用品であればどのような産地銘柄でも渡すことができた。この標準品格付け取引では「売り方勝手渡し」が大原則で、買い方は希望する産地銘柄の指定買いができなかった。これには特定の産地銘柄だけの取引では発生しやすい買い占め等を防止するという意味合いもあった。

新しいコメ先物取引では、堂島取で売買されるのはあくまでも日本平均コメ価格で、最終決済日には反対売買による差金決済を行ない現物の受け渡しは伴わない。現物の受け渡しは取引所が指定する「現物市場」で行なわれる。

具体的には、堂島取が出資しているみらい米市場とクリスタルライスが行なうことになる。

先物市場で24年産米を買いヘッジしたコメ卸は、取引を受託した商品先物取引員(商先業者)に納会前に買いたい銘柄の注文を出す。商先業者は堂島取が指定した現物市場にこの卸の買い注文を打診し、指定現物市場が売人を探して成約に結び付けるという取引手法。このため指定現物市場はより多くの生産者や集荷業者を集めなければならない。

『農業経営者』2024年4月号


【著者】熊野孝文
鹿児島県鹿屋市生まれ。コメ記者歴40年、元「米穀新聞」記者。
同紙は2021 年10月、堂島コメ市場不認可に 伴い廃刊、以後フリーランスと して取材・執筆活動を続けている。著書に『ブランド米開発競争』 (中央公論新社)など。

いいなと思ったら応援しよう!