【第28回】価格変動のリスク高まる24年産米に大きな変動要因
24年産米の動向を占う意味で注目された政府備蓄米買入入札の第1回が1月23日に実施された。買入予定枠20万5509tに対して61社が5万1030t応札したものの、落札できたのは6637tに過ぎない。
なぜ応札数量が少なかったのか。23年産米の市中価格が値上がりし続け、上げ止まりが見えない状況の中では躊躇せざるを得なかった。様子見というよりもリスクを負ってまで積極的に応札する必要はないという判断が働いたものと見られる。
落札数量が少なかったのは、農水省が査定した落札最高価格を上回る応札価格であったことが原因。これも23年産米の市中相場を見ながら24年産の応札価格を決めるならばそうならざるを得ない。
一方で各産地は24年産米の生産目安数量を策定、主食用米以外の生産をどうするのか方針を示している。この方針はコメの生産者にとっても目安に過ぎず、これほどまでに主食用米の価格が上がれば主食用米の作付けを増やすというのは自然な経営判断になる。
年明け早々に相場急騰あきたこまち1万7千円超え
23年産米市中相場の急激な上昇ぶりがよくわかるのが、クリスタルライスが1月18日に開催した取引会である。この取引会では、54産地銘柄5万9212俵の売り物が出た。前回昨年11月30日よりも約3割売り物が増え、全銘柄の加重平均価格は前回より5%値上がりして1万6344円になった。軒並み1000円がらみの値上がりとなっている。
特に家庭用全国銘柄である秋田あきたこまちは、売り唱え価格の高値1万7300円であったが、すべて買われてしまった。主催者もこのような高値落札は想定外で、8割方が買われてしまったことに驚きを隠せないでいる。先行きを想定するとこの価格でも手当てせざるを得ないということなのだ。今や秋田あきたこまちはプライスリーダー的な存在になった。他のいわゆる業務用銘柄も軒並み急伸しており、どこまで値上がりするのかわからないような情勢だ。
この状況の主要因は
(1)農水省の需給見通しでは23年産主食用米の生産量が減少したことから今年6月末の在庫は176万tになる(民間在庫が180万t切ると需給がタイト化する)
(2)インバウンド需要が回復、外食需要が盛り上がっている。
供給面をみると23年産米の検査数量は363万8000t(昨年11月末現在)で、22年産米の同期に比べ98.2%まで積み上がっている。ただし、1等比率は61.2%で前年産の78.7%に比べ17ポイント以上落ち込んでおり、これが23年産の特徴。
全国銘柄の検査数量は、新潟コシヒカリが25万690t(前年産同期比98.9%)、秋田あきたこまち21万3229t(同98.4%)、北海道ななつぼし18万3281t(同95.8%)。3大産地銘柄とも前年産を割り込んではいるものの、極端に少ない数量ではない。
大きく違うのは等級比率だ。新潟コシヒカリは1等がわずか5%、秋田あきたこまちも56.9%とこれまでにないような低さ。その大きな原因は高温障害によるシラタの発生で、精米段階での商品化率を低下させている。さらに全国的に容積重(1リットル当たりのコメの重さ)が軽い。
顕著なのが篩下米の減少で昨年産米に比べ30%も少ないと試算されている。このため主食用の増量原料となる中米クラスが供給不足から価格急騰、1万3000円以上しているほか、加工原料用向けも大きく値上がりしている。
米穀機構の調査によると、中食や外食での1人当たり消費量はコロナ明けの昨年4月から毎月前年同月超えが続き、直近の昨年11月は6%も上回った。インバウンド需要も旺盛で外食業界がまとめた企業別の既存店舗の売上高も軒並み10%程度伸びており、需要面でも価格押上の要因が働いている。
飼料用米から主食用へ大規模生産者の経営判断
24年産米が出回るまでは、国が政府備蓄米の緊急売却を行なわない限り、供給面の変化は起こらない。しかし、昨年2500万人の外国人が訪日した勢いは今年に入っても止まらず、インバウンド需要は増え続ける。そうなると端境期まで需給はタイトな状況が続き、価格も上昇することになる。当然24年産もその流れを引き継ぐわけで、主食用米の価格が最も有利になる。特に経営判断を求められる大規模生産者は主食用米の作付けを増やすことになる。
具体例をあげよう。
埼玉県加須市で飼料用米を大規模で作っているY社は「コメ政策の飼料用米に関する意見交換会2023」で24年度の営農計画を説明した。同社はコメや小麦・大麦や大豆、トウモロコシなど88.5haで耕作、24年度はそれを99.9haまで拡大する。ただし飼料用米は18.4haから10haに減らす。
この理由について同社はコメの収入比較試算を示した。10a当たりの収量が同じ514kgの場合、主食用米は60 kg当たりの販売単価が1万925円、10a当たり9万3591円の収入がある。飼料用米は、単価660円、10a当たり5654円の収入にしかならないが、国から水田活用直接支払いが8万円、県から産地交付金の追加配分が3800円あり、これらを加えると10a当たりの収入は8万454円になる。
主食用米と同じ収入を得ようとするなら飼料用米の反収を増やさなければならない。ただし、24年産からは飼料用米専用品種でなければ助成金単価が減額されるため、そうした品種を手当てする必要がある。しかも飼料用米の助成金には上限反収があり、それ以上の収量を上げても助成金単価は変わらない。これを勘案すると主食用米を作付けする方が経営的にメリットがあるという判断だ。
このことはY社だけでなく、全国どこの産地の大規模生産者でも同じで、よほど産地交付金が飼料用米に厚めに支給されていない限りメリットはない。
大きくブレる24年産目安 主食用過剰生産で価格下落
農水省はマンスリーレポート1月号に24年産米の都道府県別生産目安数量をまとめて公表している。それによると国の基本指針における生産量の見通し等を踏まえて算出した県が24県になっている。このほか、国の見通しを考慮しつつ地域協議会による需要動向の積み上げや独自の需要見込み等により算出した県が18県。
具体的な作付面積や生産目標は表2に示した。目安を示していないところも含めると全国ベースでは126万ha程度になり、ほぼ23年産米と同程度だが、深掘りをやめた産地もあるので23年産実績との比較では2万ha程度増える。
主要産地は据え置きか増産傾向にあり、飼料用米にメリットを感じなくなって生産者は主食用米の生産を増やすことになり、再び過剰傾向になる可能性が高い。
『農業経営者』2024年3月号
【著者】熊野孝文
鹿児島県鹿屋市生まれ。コメ記者歴40年、元「米穀新聞」記者。
同紙は2021 年10月、堂島コメ市場不認可に 伴い廃刊、以後フリーランスと して取材・執筆活動を続けている。著書に『ブランド米開発競争』 (中央公論新社)など。