見出し画像

【第335回】大谷翔平選手の活躍で思うこと

もっぱらラジオで野球や相撲中継を聞いていた時代、誰もがそうであったように僕も大の野球ファンだった。

それが中学、高校に入るころから野球に興味を失っていった。東京オリンピック前で日本では極めてマイナーなスポーツだったサッカーに入れ込んでいたせいかもしれない。大人になってからもほとんどといってよいほど野球にテレビのチャンネルを合わせることはなかった。

日本のスポーツ選手の海外での活躍といえば、まだJリーグもなかった70年代後半に奥寺康彦がドイツ・ブンデスリーガの1.FCケルンに求められて移籍したことぐらいだった。

ところが、この仕事をするようになってから野茂英雄、イチロー、新庄剛志といった選手たちのメジャーリーグへの挑戦と活躍はいつも注目していた。

本誌でも日本野球界やそのOBたちが彼らの活躍に冷や水をかけるのを「それは“村”社会での多数派による己を危うくするチャレンジャーや新時代を切り開く者へのイジメに見える。

同時にそれは現代の日本とその中にある様々な業界(むら)を支配してきたお山の大将たちやその取り巻きたちが、歴史の地殻変動に揺れる砂山の上でうろたえている姿でもあるのだ」と農業界のチャレンジャーへの旧勢力による様々な妨害になぞらえたりした。

しかしその後、野茂が切り開いたメジャーリーグへのチャレンジにはもう誰もケチを付けることはなくなった。

日本のプロ野球には興味がないが、大谷翔平選手の大活躍を夜中に起きて実況を見るだけでなく、その活躍を伝えるニュースも繰り返し見るようになっている。そして、今季のドジャースでの目を見張る大活躍だ。

これを書いている今も、大谷選手が第11号目の本塁打を放った。打率も3割7分で本塁打、打率とも両リーグを通じてトップだ。それも二試合連続ホームランや毎打席で長短打を放っている。彼に関しては、お嫁さんのことから20数億円も騙し取られた通訳氏とのこともチェックしてしまうミーハーファンになっている。

大谷選手に限らず、サッカー界、バレーボール、NBAバスケットなどで活躍する日本人選手のなんと増えたことか。

かつてメディアがプロ野球界に忖度して野茂イジメをしていたことを忘れてはいない。そして農業界でも、かつて農業経営者とは農業界では鬼っ子扱いで、本誌の創刊時には「農業経営者とは地域のことを考えずに自分の儲けだけを考える者たちのことだ」などと本誌の表題を揶揄する農業関係者もいた。

それが今では全く風向きが変わっている。制度や政策を経営の手段に利用することを否定するつもりはないが、過大な交付金や補助金によって農業経営者たちが公務員化しているようにも映る。

かつて本誌は“メイド・イン・ジャパンからメイド・バイ・ジャパニーズへ”と農業経営者の海外展開を呼びかけたことがある。

わが農業経営者たちは日本というぬくぬくとした環境の中でしか生きてはいけないのだろうか。鬼っ子扱いされながらも支持してくれる顧客たちに応えることで道を切り開いてきた先達たちの開拓者精神を失ってほしくない。

『農業経営者』2024年6月号


【著者】昆吉則(コンキチノリ)
『農業経営者』編集長/農業技術通信社 代表取締役社長
1949年、神奈川県生まれ。1973年、東洋大学社会学部卒業後、株式会社新農林社に入社。月刊誌『機械化農業』他の農業出版編集に従事。
1984年、新農林社退社後、農業技術通信社を創業し、1987年、株式会社農業技術通信社設立。1993年、日本初の農業ビジネス誌『季刊農業経営者』創刊(95 年隔月刊化、98 年月刊化)する。
現在まで、山形県農業担い手支援センター派遣専門家(2004年〜現在)、内閣府規制改革・民間開放推進会議農業WG 専門委員(2006年)、内閣府規制改革会議農林水産業タスクフォース農業専門委員(2008年)、農業ビジネスプランコンテスト「A-1 グランプリ」発起人(2009年)、内閣府行政刷新会議規制・ 制度改革分科会農業WG専門委員(2010年)を務める。

いいなと思ったら応援しよう!