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【第278回】成幸するには成幸者たちに会え

終戦後、GHQは日本人が操縦するのを禁じたから、私がJAL乗務員で飛び始めたころは米国人機長で、元ゼロ戦パイロットは傍に座っているだけだった。

こんな一幕があった。富士山上空を通過するとき、機長がタドタドしい日本語でアナウンスした。

「オキャクサマ、イマ、フジサンガ、マルミエデス!」。

機内にドッと笑いが起きた。

「何で笑うんだ?」と聞かれ、微妙な表現の違いを英語で説明するのに苦労したことを覚えている。ゼロ戦のころは操縦“手”で、今は操縦“士”という。

手動の自由飛行ルートと違い、現在は航空管制から詳細に指示された方角や高度を厳守しないとすぐに警告無線が来る。車の運転は自由に移動できるから運転手、電車や路線バスは決まった路を走るから運転士となり、列車トレインは軌道に沿って動くトレイン・ニング(訓練)の語源になる。

決められた型枠に自我を入れる余地はないのが士業なのだ。弁護士・税理士、サムライも殿に逆らえない武士。“士”とは、一を聞き十を知る漢字。逮捕された被告が弁護士に「助けてくれ、金ならいくらでも出す!」と依頼、「大丈夫、大金持ちが刑務所に入ることはない」。

後日、無一文になった被告は刑務所にいた。この士業は詐欺師の“師業”に近いが、詐欺師・マッサージ師・医師・教師も経験なしにできるものではない。

成長の段階には「守・破・離」がある。“守”はトレーニングであり、師匠の型の真似だけに没頭する段階。「学ぶ」は「真似ぶ」から来ており、そのパクリの連続が本物として通用できるようになり、後世にまで引き継がれるようであれば、「仕事を似せて引き継ぐ」→「仕似」→「老舗(しにせ)」になる。

まさに「真似 is Money」である。

下手な先輩に学べば成長は危うい。自己目標よりレベルが低いと思ったら勇気を持って決別し、成幸するには成幸者たちにまみえ続けるのが肝要だ。甲子園に出てプロ野球選手を目指すなら、田舎の草野球チームで孤軍奮闘していても芽はない。

豚は一匹で飼うと食べ残すが、複数で飼うと競い合って太って出荷できる。環境が人財を育てる。“破”は、師からパクリ盗んだものに、自分流を加味できるまで成長した段階。単独訓練飛行。

“離”は師匠から離れ、独自の創造力が発揮でき、自力で大空にソロフライトできるまでに達した段階。それが世間から賞賛されるまで達すれば出藍の誉れとなる。

伊勢神宮の20年に一度の社殿から鳥居や橋まですべて新築に建て替える式年遷宮は、この「守・破・離」を基本とする。家屋が築20年だとまだ建て替えるには早すぎるが、宮大工に丁稚として16歳ぐらいで師匠に入門し、20年後に熟練工になったころには独り立ちできる36歳ほど。

数百年以上も伝承技術の貴重な財産を後世に伝え続けるには、この20年周期は欠くことのできない日本伝統の大行事である。

物事のすべての始まりは“守”からで、真似るべき原型がすべてを決定づける。善き手本になる師、どのような高度な匠の技を持った“金型”の師匠との出会いがあるかで運命を大きく左右される。

私が人財教育の仕事で飛び回っておられるのも、書物などから得た他人さまからの孫引き見聞録ではなく、まず一般では会えることのない世界的超一流の人物たちと国際線ファーストクラスで長時間の会話接待した、駅前留学ではなく、貴重な“客前留学”経験があるからこそなのだ。

三途の川を渡る前に死神が「まだ死にたくない者はいるか?」と問うと、誰もが手を挙げる。

「ただし条件がある。まったく同じ人生そのままの繰り返しだが、それでもよいか!」。

ほとんどが手を下げるだろうが、私は確信を持って手を挙げる。

『農業経営者』2024年4月号


著者:黒木安馬(くろきやすま)
高校時に米国留学後、早稲田大学を経てJAL国際線客室乗務員として30年勤務。 世界初の「カラオケ・フライト」や「1万メートル上空・北島三郎機上コンサート」などを実現させる。 千葉の自宅は1300坪の山林を開墾してブール、テニスコート、コンサートホール等を手作りする。 現在、日本成功学会社長として自己啓発や社員教育で講演中。
著書に『ファーストクラスの心配り」、『あなたの人格以上は売れない!』(プレジデント社)、『成「幸」学』(講談社)、『出過ぎる杭は打ちにくい!」 (サンマーク出版)、『面白くなくちゃ人生じゃない!』(ロングセラーズ)、『小説・球磨川』(上下巻・ワニ ブックス)、『雲の上で出会った超一流の仕事の言葉』(あさ出版)などがある。

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