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【第98回】想定外は想定内 万全準備の罠猟でも

野生動物を最高の食肉に仕立てるには生け捕りが絶対条件 そのため罠の仕掛け方にも苦労する とはいえ自然相手の暮らしはままならない 全ての努力が水泡に帰すことだって……

「ええなあ、君んとこは材料費タダやから」
飲食業をしている方から言われることがあります。

「いやいや買えるなら買ってる方が安いと思いますよ」
いつもそう答えることにしているのですが、これがなかなか信じてもらえません。

話題はもちろん
ジビエのことで
食肉加工が大変なことくらいはわかっていただけると思うのですが
それ以前の野生動物を捕まえるという苦労は
経験のない方にはちょっとわからないかもしれません。

僕たちは
ワイヤーやスプリング、水道用のエンビパイプなどで罠を作り
それを山にセットするのですが
作りたての罠では
ワイヤーの金属やプラスチックは臭いがするため
野生動物には
気付かれてしまいます。

それを解消するため
罠を1週間ほど雨ざらしにしたり
川につけたりして金属臭を抜いておきます。
それができたら獣道を読みつつ罠を仕掛けるのですが
僕たちの場合
最高の食肉に仕立てるため生け捕りすることが絶対条件なので
罠の掛け方を考えなければいけません。

急斜面などは
動物が足をつくポイントがほぼ決まっているので
そこにセットすれば容易に掛かるのですが
斜面などで掛かった獲物がぶら下がった状態になると
そのまま死んでしまうことも多く
そうなると食肉には適さず
廃棄処分せざるを得ません。

平地だとそのように死んでしまう確率は激減するのですが
動物はあっちこっちと縦横無尽に駆け回るため
ピンポイントで罠を踏ませるのは非常に難しくなります。

そのような理由で
平地と斜面の境目くらいを見極めてセットするのですが
全ての条件が揃うポイントは意外と少なく
毎回2時間以上山中を歩きまわることになります。

良いポイントであっても
あまり山奥にセットしてしまうと
大物が掛かった場合
運び出すのが大変ですし
毎日の見回りにまた多くの時間がかかります。

それら色々を考慮して
10~20箇所セットするのですが
毎日1~2時間は
見回りに必要です。

それだけやっても
1週間以上獲れなかったり
獲物が病気だったりすると食肉になりませんので
全ての努力が水の泡。

そうかと思うと
一度に2頭掛かってしまったり
さらにそれが
レストランの予約日などと重なったりするともう大変。

作業が深夜に及ぶどころか
朝までかかったことも
たびたびあります。

まあ自然を相手に
こういうところに暮らしていると
想定外は想定内(笑)。

その日のスケジュールも
朝の見回りの結果で大きく変わります。

その日のスケジュールが変われば
週間スケジュールの変更は
当たり前。

これから
農繁期にも入ってくるので
「想定外は想定内」を超える想定外が来たとしても
何をどのくらいのクオリティーでどこまでやるか
その場その場で
臨機応変に判断し
柔軟かつ迅速に動けなければ
乗り切ることはできません。

生きていれば
必ずやってくる大波小波。

大波と聞けば目を輝かせ
家を飛び出し波に向かうサーファーのように
人生の大波を楽しんで行けたらと思います。

『農業経営者』2024年5月号


【著者】山本 晋也(やまもと しんや)
1968年、京都生まれ。美術大学を卒業して渡米後、京都で現代美術作家として活動しながらオーガニックレストランを経営。食材調達のため畑も始める。結婚して3人の子どもを授かったところ、農業生産法人みわ・ダッシュ村の清水三雄と出会い、福知山市の限界集落に移住。廃屋を修繕しながら家族で自給自足を目指す。現在、みわ・ダッシュ村副村長。

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