見出し画像

【第332回】未利用資源に農業の未来がある

本誌は「過剰の病理社会」の中でいつまでも「欠乏の論理」を続ける我が農業界への批判を続けてきた。我が国の国民一人当たりのカロリー摂取量は1971年をピークに減り続け、2004年以降は終戦翌年の1946年より少ないという厚生労働省のデータを何度も紹介してきた。

そんな過剰の社会の中での農業も高齢化による農家および農業就業人口の減少で否応もなく農業構造が変化し、それ以外に暮らすすべを持たない「農民」の「暮らし方としての農業」というものから社会の変化とマーケットを意識する「農業経営者」たちによる「産業としての農業」が一般的となってきた。

そして、多くの土地持ち労働者としての農家の多くは高齢者が正月や節句の年中行事として、もとより採算度外視のコメ作りをする時代が長く続いている。

その結果のコメ市況の低迷を嘆く人々は農業経営者の中にもいるが、農業界が自らの過剰生産の結果なのに政府に助けを求めようとするのはもうそろそろいい加減にすべきだろう。

この雑誌を始める前、当時我が国最大の発行部数を誇った農協組織の月刊誌に家庭菜園の企画を提案したところ、担当編集者に「君は何を言うのだ。農家は不足の食糧を自給するための菜園を作っているのだ」と怒られたことを覚えている。

農業界の貧しさを象徴するために農協メディア編集者は農家の貧しさを強調するためにわざわざ「自給菜園」という言葉を使っていたのだ。それが農業界の政治要求の基本だった。

すでに我が国でバブル景気と呼ばれる時代が始まりかけ、当時の生産者米価も史上最高レベルに達していた。それでも「貧農史観」に染まった農業界の啓蒙家たちに我が国の農家は指導されてきた。

そんな人々は「今度は都市のごみを農業に押し付けようとしている」というかもしれないが、本誌は廃棄物の利用にこそ先進国農業の可能性があると呼びかける。

我が国の国土、とりわけ都市部に溜まりに溜まった廃棄物をうまく使うことで、これからますます経営を圧迫していくことが予想される肥料コストを大幅に削減するどころか、従来の買って使う肥料という観念を塗り替えることができるかもしれない。

かねて紹介してきた下水汚泥肥料だけでなく、先月号で紹介した外食業や小売業、食品企業が排出する食品残渣をメタン発酵させた消化液の利用。

北海道の酪農地帯などでは家畜の糞尿由来の消化液の利用の実績もあるが、今後、各地で操業を開始する食品残渣のメタン発酵施設から出てくる消化液やその脱水ケーキは農業の在り方を変えるものになるだろう。

もっとも、それを有効に使えるのは本誌読者のような一定の経営基盤があり、機械力や土壌肥料に関する一定の知識を持った農業経営者層に限られる。

今後、様々な廃棄物由来で農業に有効利用できる資源について誌面を通じて紹介し、併せて読者の皆様にその利用を斡旋していくことを考えている。

先日、一部読者を対象にメタン発酵汚泥肥料に関するセミナーをオンラインで開催した。関心がおありの方は当社までお問い合わせされたい。

『農業経営者』2024年3月号


【著者】昆吉則(こん きちのり)
『農業経営者』編集長/農業技術通信社 代表取締役社長
1949年、神奈川県生まれ。1973年、東洋大学社会学部卒業後、株式会社新農林社に入社。月刊誌『機械化農業』他の農業出版編集に従事。
1984年、新農林社退社後、農業技術通信社を創業し、1987年、株式会社農業技術通信社設立。1993年、日本初の農業ビジネス誌『季刊農業経営者』創刊(95 年隔月刊化、98 年月刊化)する。
現在まで、山形県農業担い手支援センター派遣専門家(2004年〜現在)、内閣府規制改革・民間開放推進会議農業WG 専門委員(2006年)、内閣府規制改革会議農林水産業タスクフォース農業専門委員(2008年)、農業ビジネスプランコンテスト「A-1 グランプリ」発起人(2009年)、内閣府行政刷新会議規制・ 制度改革分科会農業WG専門委員(2010年)を務める。

いいなと思ったら応援しよう!