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ポーランド(2) 食肉に代わるベジミート&木材の代替でヘンプの新たな価値創造を目指す【第77回 知っておきたい 世界各国の産業用ヘンプ】
拡大するベジミート市場へ
地球に大きな環境負荷をもたらす食肉産業。食肉は先進国でその82%を消費され、途上国の消費量は18%だけだ。農地の23%が穀類と野菜の栽培に使われるが、77%で畜産とそのエサとなる穀物生産に充てられている。
言い換えると、一人分の食肉消費に必要な農地面積で穀物や野菜を生産すれば、14人を養えることになる。
そこで近年、注目されているのが植物性タンパク食(ベジミート)だ。人々は健康維持、価格、気候変動、動物福祉の観点から興味・関心を寄せている。2025年の食肉市場は動物由来90%、植物由来10%となる見込みだが、世界の人口増加分を養うためには、15年後の40年には代替肉が40%を占め、動物由来は35%に減り、植物由来は25%に増えるという予測もある。
実際に欧州では、ベジタリアン(完全菜食主義者)、フレキシタリアン(菜食中心者)、ペスカタリアン(魚菜食主義者)を合わせると、ドイツやオーストリアのように30%を超える国もあり、普及しつつある概念であることがわかる。世界規模では、すでに20年時点で2兆1500万ドル(約215兆円)がベジミート市場に投資され、大手企業も次々と参入している。
ベジミートの主流は大豆、エンドウ豆、小麦を原料に用いた製品である。だが、味が悪い、匂いが良くない、賞味期限が短い、あまり健康的ではない、環境に良くない、地場産ではない、といった課題に直面している。解決策の一つとして期待されるヘンプシードは、オメガ3とオメガ6のバランス、ミネラル分、環境負荷が少ないというメリットがある。唯一の課題は、価格がまだ高いことだ。
こうした背景を受けて、グリーンレーンズ社は、ヘンプ由来のベジミート「Hempeat」の開発プロジェクトを立ち上げた。ヘンプオイル用に栽培したポーランドのヘンプ品種「Białobrzeskie」の搾油残渣をヘンププロテインとして原料に用いたベジミートだ。ハムのようにハンバーガーやサンドウィッチに挟むことができ、ソーセージやミートボールを作ったり、ハンバーグのように焼いたりできる(図1)。
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22年から同国内170カ所以上の店舗で、1包装(180g)約450円で販売している。研究開発にあたり、政府の補助金に加えて、投資家から約3000万円の資金調達を受けたが、さらなる量産化と生産の効率化を図る見込みだ。24年に約4000万円を投じて、ルブリン生命科学大学生産工学部と共同で押出成形設備を導入し、新たな研究開発に取り組んでいる。
竹資源のない地域の木材の代替品として
ポーランドは木材加工業が盛んで、世界第2位の家具輸出国でもある。木材輸入量も大量だが、森林・木材業は欧州全体でもGDPの7%を占める重要な産業で、森林のもつ木材を供給すると同時に表土保持、生物多様性や二酸化炭素の吸収など環境価値はトレンドになっている。
35~60年で生育する木材は、年間1ha当たり5立方mの生産量があり、4~5tの二酸化炭素を吸収する。代替候補の竹は3~5年で竹材として利用できるが、欧州は生育地ではない(図2)。
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対するヘンプは、たったの0.41年(150日間)で生育し、年間1ha当たりの生産量は14立方m、同じく18~26tの二酸化炭素を吸収する。二毛作すると、生産量も二酸化炭素の吸収量も単純計算で2倍になる。このことから、欧州などの竹資源のない地域では木材代替としてのヘンプの価値が高まっている。
ポーランド国内では90年以上の歴史がある天然繊維・薬用植物研究所(『農業経営者』2020年10月号を参照)が純国産の播種用種子の供給体制を構築している。前述のグリーンレーンズ社の傘下で木材代替品事業を担うトゥルーグリーン社は、同研究所の協力を得て、ヘンプの播種用種子の収穫後の残渣となるヘンプの茎から合板を試作開発した。
配向性ストランドボード(OSB)と呼ばれる合板は、木質建材の一種で、通常は木材を薄く削った木片を接着剤で高温圧縮して製造する。同社では密度の異なる3種類の合板を試作した(表1)。
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木目調のデザインで、原料の手触り感がよく、繊細な麦わらのような香りがする。繊維とコア(オガラ)を分離せずに全茎を使うことで、少ない作業工程で繊維業の多い耐久性に優れた建材を生み出した。吸水性に優れているため着色塗料やニスとも相性がよく、扱いやすい。
パネル上の床材、壁材、家具だけでなく、角材の代替品となる厚い構造材の製造にも挑み、ここ数年で各種展示会やコンテストに出品して高い評価を受けている(図3・図4)。
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国際的に権威のある国際グリーン製品賞2024の最終候補製品に選ばれた実績は、時流に求められている証になるだろう。本格的な生産工場は25年に立ち上げ予定だ。
ポーランドは伝統的にヘンプを栽培・利用してきた歴史があり、現在もヘンプは4000ha規模で栽培している。同社は、これからもヘンプ素材の家具や建材用途への利活用で同国のヘンプ産業を牽引する存在である。
『農業経営者』2024年5月号
【著者】赤星 栄志(あかほし よしゆき)
NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク 理事
1974年滋賀県生まれ。日本大学の農獣医学部卒。同大学院にて産業用ヘンプに関する研究により博士号(環境科学)を取得。
99年よりヘンプの可能性と多様性に注目し、日本大麻の伝統文化復興と朝の研究開発に関わる。現在、三重大学カンナビス研究基盤創生リサーチセンター客員准教授。主な著書に『ヘンプ読本』『大麻(あさ)』『日本人のための大麻の教科書』がある。