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令和7年に日本農業の未来を夢見る【第341回 江刺の稲】

あけましておめでとうございますと型通りにご挨拶したものの、少なからぬ読者の皆様にとっては頭の痛い年明けかもしれない。

かねて批判してきた飼料米に対する法外な交付金支給に関して財務省が本格的な批判を始めた。

この記事を作成している段階ではまだ情報が無いが、農水省もそのまま放置するわけにはいかないだろう。

くれるというなら貰ったらよいとは言いながらも、僕は「お前ら生活保護を貰いながらベンツに乗っているヤクザと同じだ」と悪態を付いてきたのはご承知の通り。

僕の思いはその天から降る金は、高級車を買うのではなく、農機具や施設あるいは未来への投資に使ってほしいというものだ。

子実トウモロコシを本誌が叫んでいたころ、飼料米の交付金を減らしたら必ずトウモロコシが増えると言っていたことが実現するだろう。

すでに多くの人々も語るところだが、改めて水田での子実トウモロコシ生産が持つ経営上の価値を考えてみたい。

最近はあまりデータを見ていないが、現在でもNon-GMのトウモロコシ輸入は50万tくらいあるはず。

Non-GMを求めるお客さんは「国産」という言葉にも反応する。

なんで日本で子実トウモロコシを作るのかと反論されたとき、そこにマーケットがあるからだと説明したが、その後の推移はそれを証明している。さらに、その需要に加えて航空燃料に仕向けるバイオエタノールの国内生産という可能性も出てきた。国内の飛行場で飛行機に積み込むエタノールをブラジルから輸入するなんて馬鹿げているからだ。

そして、何度でも言うが、子実トウモロコシ生産に必要な投下労働時間の少なさの価値だ。もっとも乾田直播で飼料米を作り、防除もせずにロールで巻くだけというこれまで多くの読者も享受してきた経営手法もあるが、それはもう批判しまい。

でも、同じく極めて投下労働時間が少ないだけでなくトウモロコシの栽培自体が、大量の粗大有機物を圃場に還元でき、しかもトウモロコシの根が水田や畑の排水改善に資する。

すでに農水省も穀物としてのトウモロコシ(メイズ)を日本農業の重要作物として捉えており、今後とも鬼っ子扱いにすることはないだろう。隔世の感がある。

また、その導入にとっての必須の機械的条件であるプラウなどの畑作型技術体系の導入は、稲作、小麦作、大豆作をはじめあらゆる作物の作柄を改善するはずだ。

高齢化のさらなる進展を農家が減ると悲観的に語る人もいるが、心配することもない。その分だけ事業的農業経営者が成長している。

もちろん、これまでのようなぬるま湯に浸かった呑気な経営は許されない。

他の産業界と同様の厳しい経営能力が求められるだろうし、農業界から退場を余儀なくされる者も出てくるだろう。農業経営者の時代とはそういうものなのだ。

一方、村から農家がいなくなると心配する人々には、インバウンド需要だけでなく、本誌が何度も語ってきた、ファーミング・エンターテイメントの可能性を考えたらよい。

そこにも、農村にいる才覚のある農業経営者だけでなく、村の技を知る高齢農家にこそ光が当たる場が生まれるはずだ。

『農業経営者』2025年1月号


【著者】昆吉則(こん きちのり)
『農業経営者』編集長/農業技術通信社 代表取締役社長
1949年、神奈川県生まれ。1973年、東洋大学社会学部卒業後、株式会社新農林社に入社。月刊誌『機械化農業』他の農業出版編集に従事。
1984年、新農林社退社後、農業技術通信社を創業し、1987年、株式会社農業技術通信社設立。1993年、日本初の農業ビジネス誌『季刊農業経営者』創刊(95 年隔月刊化、98 年月刊化)する。
現在まで、山形県農業担い手支援センター派遣専門家(2004年〜現在)、内閣府規制改革・民間開放推進会議農業WG 専門委員(2006年)、内閣府規制改革会議農林水産業タスクフォース農業専門委員(2008年)、農業ビジネスプランコンテスト「A-1 グランプリ」発起人(2009年)、内閣府行政刷新会議規制・ 制度改革分科会農業WG専門委員(2010年)を務める。

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