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24年コメ異変アラカルト 沸騰相場の渦中で【第244回 土門「辛」聞】

前回は、突如降って湧いてきた政府備蓄米の貸与問題。現実に起きるのかと心配したが、門前払いに近い状態だった。年末に腸炎で10日以上も寝込んだので、今月は、オムニバス形式で最近のコメ問題を追ってみる。


貸与と交換

主産地で自民党と農協の集まりから瓢箪(ひょうたん)から駒みたいに出てきた話題。秋田では、衆院農林水産委員長の御法川信英代議士が会議に持ち出したり、ホクレンに至っては、貸与はほぼ決定的と言及していた。昨年11月末から12月にかけてのことだった。全中が政界へ広め、農水省がそれを一蹴したという結果になった。

農水省の抵抗ぶりは、全中が広めた「貸与」を使わず、「交換」という表現で省内統一していたことに表れている。貸与と交換、どう違うのか。そんなことも考える暇もなく、12月19日の参議院農林水産委員会でこの話題が出た。令和のコメ騒動に触れ、公明党の高橋光男議員が備蓄米貸与についてこう質問していた。議事録の公開が間に合わないので「日刊米穀市況速報」ファックス版を引用させていただく。

「今回のような事態が再発しても機動的に対応できる政府備蓄米の活用を提案する。仮に需給逼迫の兆候を察知した場合、例えば1万トンを備蓄米から民間在庫に貸し出す。民間在庫を押し出すことで卸売業者などが小売業者に米を供給できるようにする。貸与した1万トンは、例えば6か月後などに、需給が改善した段階で、備蓄米に変換してもらう。これは単なる放出とは異なり、返還後の備蓄米水準はプラスマイナスゼロとなる」

質問した方の認識に重大欠陥あり。コメには価格変動があることが念頭に入っていないようだ。幼稚園の生徒でもすぐ理解できるのは、スポット相場沸騰時に借りて秋の新米出回り期の相場下落時に返却したときのことだ。所詮、全中が思い付いて国会議員に吹き込むような貸与なる提案は、この程度のズサンな政策でしかない。

これに対する江藤拓農林水産大臣の回答は次の通り。同じく同速報の引用。
「新たな仕組みの議論を否定するものではないが備蓄米の運用は食糧法で定義されている。また1万トンといえども備蓄米を市場に出せば価格に影響する。米の取引業者はそれを損失利益と捉えるかも知れない。また市場価格が下がれば新しい年の米の概算金にも影響し、生産者はネガティブに受け取るかも知れない。議論すべき課題が様々あるが、省内でも検討し、結論を出したい」

泥縄対応

12月2日午後5時すぎ、主産地の大規模生産者A君に地方農政局から電話が入ってきた。アンケート調査の協力をお願いしたい、本省農産政策部企画課からの指示で明日朝まで至急回答をいただきたい旨の要請だった。ちなみに、この種のアンケートは、農政局担当者によると、その県では10数人程度に依頼したそうだ。全国トータルで少なくとも100名を超えるかなり大がかりな調査のようだった。調査内容は以下の通り。
令和5年産と6年産のそれぞれの、現時点(11月頃)における以下の数量を把握できる範囲(ざっくりした数字で構いません)を教えて下さい。

(1)主食用米の収穫量
 うち
(2)農産物検査数量
(3)出荷数量
 うち系統(JA等)への出荷、うち系統外への出荷
(4)保有数量

 うち売り先が決まっている数量、うち売り先が決まっていない数量

最初、A君からアンケート調査のことを教えてもらったときは、企画課が何の目的で調査を実施したかよく分からなかったが、その翌日、調査の意図がすぐ分かった。同日午後に開かれた第4回米産業活性化のための意見交換。その場で政府備蓄米の放出について話題が出るので、備蓄米放出をしないための最終確認のつもりで農家在庫についてアンケート調査を広範囲にかけたようだ。

企画課が最終確認したかったのは、「(4)保有数量」だったと思う。前回も説明したが、備蓄米放出は、不作の要件がそろった段階で、具体的には6月末在庫が、例年の水準を相当下回る可能性があれば、食糧部会を開き、放出の是非を議論することになっている。(4)は、その在庫数量の見極めのためのものだった。

調査結果は明らかにはされていないが、農家在庫がしっかりと確保されていることを確認したのだろう。意見交換(12月3日)での山口潤一郎農産部長の見解が、その根拠。

「“価格を冷ます”という観点では、政府備蓄米を放出する考え方はない」(全集連作成の議事録)

これは米隠し説にもとづくアンケート調査だ。23年にはなかった。米隠しを疑う前に24年産の実際の収穫量を調べた方が、もっと正確な需給実態をつかめるはずだ。

沸騰相場

米価はますます沸騰だ。首都圏の大消費地だけでなく主産地でも同じこと。まずは首都圏の集荷商の嘆きから。

「弊社へ玄米を出荷いただいてもいる農家さんより8月の集荷直後から、友人や会社の同僚から頼まれて直売しているとのこと。価格は30 kg1万4000円。勢いが止まらず、すでに保有している玄米の3分の2を売り切ったそうです。このままだと3月には終売。その農家さんは、今まで長年のお客さんもいるので、どうしたらよいか、また買い戻せないかの相談が来ています。6月末在庫158万t 一月以上、早食いになっていることを忘れていませんか? 農水省さん」(首都圏の集荷商の嘆き)

次は茨城県南地域のこと。

「当地ではお正月明けにコシヒカリが、4万円超になるだろう、そのような噂です。農産物直売所でも、玄米の販売を中止したお店があるそうです!」

続いて産地集荷商の悲鳴にも似た声を紹介する。

「近県の地元では大きな宅配お弁当屋さんが、『年明けから炊くコメがない。地元の米卸がコメがなくて提供できないと言っている。どうにか分けてくれないか』と泣くように連絡がありました。これが現実です」

高値相場に翻弄された首都圏米卸の嘆き節が聞こえてくる。

「今の相場を見ていると、米卸などへの農協の枠配分が決まり次第、全部引き取ってスポットで売却して即廃業する米屋が出てきそうな気がしています。今のスポット相場ですと、在庫1俵あたり1万円は確実に利益が取れますから。次年度以降の先行き不透明(仕入れも販売も)な中、商売を続けるよりも、長期借入金を返済して少し多めの退職金でサクッと廃業するのも一つの正解かなと思います。借入返済後に工場や倉庫が残れば、経営者くらいは不動産収入で悠々と生きていけますから」

「私も、同じように考えているひとりです。この現実では、玄米をさばいて精米で売ったとしても、利益はありません。廃業した方が楽です! 今まで、業務用途のコメで苦労してきました。12月に入っていろいろなお店から、コメがほしい! 何とかならないか? 価格は任せるから、など異常な問い合わせが多いので電話番している人が困っています! もう仕入れは、関東コシヒカリ税込み価格で、3万5000円です。小売価格は、いつ何時に、いくら値上げすればよいでしょうか?」

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