【第193回】ブルーアイ たくさんいましたよー(9)
2019年2月以来のアメリカツアー再開だ。昨年の話になるので、記憶のピースをジグソーパズルのように一つ一つ手探りで埋めていこう。
コロナの期間で航空運賃はざっくり50%くらい上昇した。以前はメジャーキャリヤーを利用した場合、羽田-LAX(ロサンゼルス)間で10万円もしなかったが、昨年2月の時点で15万円になっていた。例年、ビジネスクラスも12月までは高いけれど、年が明けると半額になった。残念ながら今回は、そのようなウレシイ価格変化は起きなかった。
貯めたマイルはもっと長距離か、いざというときに使いたいので、今回のシアトル行きは何か別の方法を考えることになる。いろいろなサイトを見るとJALの子会社のZIPエアーの名前が出てきた。フルフラットシートの往復で23万円を見つけた。15万円のエコノミークラスよりは高いが、メガキャリヤーのビジネスクラスの35万円よりは安い。青春21きっぷだと安いほうを選ぶが、初老64(当時)きっぷで11時間のエコノミーシンドロームは避けたいので、追加8万円で“安全”を購入した。
チケットはネットで購入することになるが、その際にコロナ関連の書類に目を通して各所にサインしてカウンターで渡すことになる。ざっくり言うと、ちゃんとワクチンやりました? 〇〇歳以下の子供はいますか? アメリカで入国拒否されても知らんよ、などが2ページにわたりイングリッシュで書かれていた。サインするところもヘッダーではなく文章の合間にアンダーバー(下線)がある。
なんでイングリッシュの文章なんだ? アメリカ入国に使うESTAの申請だって日本語があるのにね。まぁどこかに日本語サイトが隠れていたのかもね。書いているうちに思い出した。このやり方はピューリタンが住むアメリカ方式ではない。お互いを信用できないEUからコンテナを送り出した時の書類にソックリだ。おかしな話だ。
ZIPエアーは北米路線が半分でヨーロッパ路線は存在しないのに、書類形式はEUのパクリ。きっとZIPエアーの上層部は、イタリアが1945年7月(8月ではない)15日に日本に宣戦布告して戦勝国になるようなヨーロッパ文化信者なのだろうか。
東京に前泊する。12月から2月の間は吹雪で飛行機が飛ばないことがあるので、必ず東京に前乗りする。今回は乗り継ぎ客をあざけ笑うような羽田第3ターミナル利用ではなく、久しぶりの成田発だ。
品川からJRを利用する。成田に着いて改札を通ってターミナルに入る地下の右側にスーツケースのカギやローラーを修理するなんでも屋がある。知る人ぞ知る有名店だ。ちょっとの間、立ち止まり観察した。手には工具を強く握り、しかしときには優しく扱う。きっとオンナもそんな風に扱ってきたのだろう、と勝手に想像してしまった。若者よ、パソコンだけで飯が食えると思ったら大間違いだぞ!
LAXは人種のるつぼだ
帰りはLAXからの帰途になる。ZIPエアーのカウンターに着くとコロナのワクチン証明の提示を求められた。ここで英語の勘違いが発生。金髪・ブルーアイではない女性メヒコ系の係員が「…tion」と聞いてきたので、私はてっきり“Destination(行き先)”だと思い、「Narita(成田)」と答えたら、彼女は困った顔をした。メヒコ系係員がもう一度言い直すと今度ははっきりと聞こえた。私が「Vaccination(予防接種)、あ~ワクチン証明ね」と答えると2人で大笑いした。隣のラインのアメリカ人シニア女性客も間違えたくらいだから「Vaccine」っていえば良いのに思った。
余談だがLAXは混む。出国のセキュリティーは30分くらいだが、ZIPエアーやアメリカ系以外のエアーキャリヤーだとアメリカ入国時は1時間以上かけてメインのブラッドレー・ターミナルを使う。このターミナルはまさしく人種のるつぼだ。どう考えても豊かさのオーラがゼロの人たちだったり、黒人でも明らかにアメリカ黒人とは違うグループがいたり、背の高さが日本人と変わらない白人グループもいる。良いかどうかの話ではなく、アメリカはそのような世界からやってきて、作り上げた国だ。アメリカに対して軽口をたたくアホがいるが、それはアメリカ批判ではなく、すべての国を敵に回すことになる。アメリカ批判は自由だが、同じことをアメリカの金髪・ブルーアイの前で言えるやつを見たことはない。
さて、成田に到着してからもうひと仕事ある。スマホでワクチン証明を係員に見せる。出発前に私と入れ違いにアメリカのシアトルに行っていた、ある女性パイロット仲間からこんな話を聞いた。
「私のワクチン証明使えますよ」と言う。「そんなばかな。スマホの画面には名前、性別、年齢も違うのにそんなことができるはずがない」と言い返した。それでも彼女は「あの人たち見てませんから」と。冒険心いっぱいの悪老人なのでやってることにした。念のため本物と彼女の物をスクリーンショットした証明と、二つ用意した。ドキドキですね。公文書偽造の行使ですからね、一瞬、罰金いくらだ?と脳裏をよぎった。指摘を受けたら本物見せれば良いか、と自分を納得させた。
ついにその時が来た。係員に彼女のワクチン証明を見せる。私のスマホをかなりのぞき込んでくるが、何にも言わない。少し進むと違う係員がまたワクチン証明を、と言ってくる。やばい! 今度見つかったら大変なことになる、と思いつつ恐る恐る彼女のワクチン証明を見せた。また無事通過する。
さすが日本、ダブルチェックするんだ。心臓はバクバク……はしなかったが、だんだん面白くなってきた。良いコラムネタありがとうございます。
前に進むとまたまた違う係員が「ワクチン証明は?」と聞いてくる。オイオイ3回目だぞ。今度はスマホを係員の目の前まで持っていった。もちろん無事通過する。まじかよー、彼女の言ったことは本当だった。到着時に数名がこのワクチン証明を提出できなかった。と言うよりもこんなワクチン証明を99%の搭乗者が用意できたこと自体がすごい。
ところでこのワクチン証明はウェブで作成して、使用するときにパスワードを使って画面を出すやり方だ。なんでスマホのアプリを使わないのか? その方が簡単なのに。噂ではアプリよりもウェブの方が作成が難しいので、とある業者に支払わせる金額が大きくなる、つまり…ということかも。
実はもっとすごい事実があった。どう考えても若い学生っポイ外国人が確認作業を行なっていたのだ。彼女彼らの日本語能力がどれほどなのかは知らないが、法務省、外務省の入国管理では外国人をコントロールして、厚生労働省管轄の検疫は外国人(多分)を利用する。さすが極東アジアの見本たる日出る国のなせる業だ。
『農業経営者』2024年6月号
【著者】宮井 能雅(みやい よしまさ)
西南農場㈲代表取締役
1958年3月、北海道長沼町生まれ。現在、同地で水田110haに麦50ha、大豆60haを作付けする。大学を1カ月で中退後、農業を継ぐ。子供時代から米国の農業に憧れ、後年、オーストラリアや米国での農業体験を通して、その思いをさらに強めていく。機械施設のほとんどは、米国のジョンディア代理店から直接購入。また、遺伝子組み換え大豆の栽培を自ら明かしたことで、反対派の批判の対象になっている。