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【第340回】ポリティカル・コレクトネスの敗北

接戦と言われたメディアの予想を裏切り、第45代のアメリカ大統領だったドナルド・トランプが民主党カマラ・ハリス副大統領を大差で破り、第47代アメリカ大統領に返り咲いた。

もとより民主党寄りのアメリカの放送局が制作したトランプとハリスを紹介するドキュメンタリーをNHKのBS放送で見たが、それは選挙戦が続く中でこんな番組が許されてよいものなのかと疑いたくなるような内容だった。

人種的偏見の中に育ったにもかかわらず、子供時代からまさに良識と正義を体現するかのように友を助け励ます少女が優秀な成績で大学を卒業し、カリフォルニア州の検察官を経て政界にデビューしたいかにも正義の味方という形で紹介されるハリス。

一方のトランプは、大金持ちの不動産業者の息子として育ち、素行不良で父親に入れられた陸軍幼年学校時代以来、どんなことをしても相手や周りの人々に勝とうとする生き方が現在のトランプであると紹介する。ビジネスでの成功を背景に、メディアでタレントとしての成功はしても、いわゆる米国のエリートたちからは蔑まれることに反発して大統領を目指すトランプ。

ポルノ女優との不倫だけでなく、その口止め料まで報じられるスキャンダルまみれのトランプ。日本なら大統領選出馬どころか政界引退が求められそう。

にもかかわらずトランプは、それすら民主党やメディアによる陰謀だとはねつけ、むしろ支援者たちの共感を得ることに成功している。
それが今回の選挙結果なのだ。

新聞ではニューヨークタイムスやワシントンポスト、放送局では保守系のFoxを除けば、CNN、ABC、NBCなど日本に転載される主要メディアの報道はほとんどが民主党支持。

少なくとも日本の読者や視聴者が目にするのは反トランプの報道ばかり。

でも、アメリカ国民は、民主党あるいはハリスだけでなく、アメリカの主要メディアが「民主主義の敵」と糾弾したトランプを大統領選挙で民主的に選んでしまったのだ。

それは、民主党や多くのメディアが強調する「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)」といわれるものへの「No」である。

そして日本の衆院選。選挙戦で語られ報じられたのは「政治とカネ」、そして「裏金」。たしかに自民党にとっては過半数を割る惨憺たる結果に終わったが、自民党が負けたのは政治とカネの問題だけだったのだろうか。

石破茂氏の自民党総裁選出も材料の一つかもしれないが、選挙にまつわるメディアが取り上げる話題は、野党勢力が叫び続けた「裏金」ばかり。それは問われるべきことだったとしても、国民が自民党あるいは政治に対して問うているのはそれだけなのだろうか。

日本のメディアも、「政治的正しさ」を問うばかりで本来語るべきことを語らずじまいだったのではないか。

実際の選挙結果は自民党の自滅で、当選者数では稼いだものの、立憲民主党やれいわ新選組は本当に勝ったのだろうか。

国民民主党や新規の保守政党の結果としての伸びに国民の声が現れているのではないだろうか。

『農業経営者』2024年12月号


【著者】昆吉則(コンキチノリ)
『農業経営者』編集長/農業技術通信社 代表取締役社長
1949年、神奈川県生まれ。1973年、東洋大学社会学部卒業後、株式会社新農林社に入社。月刊誌『機械化農業』他の農業出版編集に従事。
1984年、新農林社退社後、農業技術通信社を創業し、1987年、株式会社農業技術通信社設立。1993年、日本初の農業ビジネス誌『季刊農業経営者』創刊(95 年隔月刊化、98 年月刊化)する。
現在まで、山形県農業担い手支援センター派遣専門家(2004年〜現在)、内閣府規制改革・民間開放推進会議農業WG 専門委員(2006年)、内閣府規制改革会議農林水産業タスクフォース農業専門委員(2008年)、農業ビジネスプランコンテスト「A-1 グランプリ」発起人(2009年)、内閣府行政刷新会議規制・ 制度改革分科会農業WG専門委員(2010年)を務める。

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