女子の話にアドバイスするな
「女の子の話を聞いているとさ、どうしても口出ししたくなっちゃうんだよなぁ」
友人の八木がそう言ったのを聞いて、また私は彼を叱った。
「女子の話に無闇にアドバイスするな」は今や男女間のコミュニケーションの常識になりつつあるというのに。自動車教習所なら路上教習の前に教わることだし、近々安全標識になるだろう。
「聞いている話の答えをすぐ出そうとするの、男のよくないところだって百年言われていることだぞ」
と私が言うと八木は性別で大きく括られたことが気に入らなかったようで
「出た、そうやって一括りにしやがる」
と不機嫌そうにした。
悪い悪い、と彼を嗜めつつ私も考えた。
「女子の話にアドバイスするな」という言い方そのものがよくないな、と思った。
女性という生き物独特の習性への注意事項のように言うけれど、私達がしているのは人間同士のコミュニケーションだ。
「話の腰を折らない」とか「親しくない内にプライベートなことを根掘り葉掘り聞かない」とか「下ネタはTPOをわきまえて使え」といった人間同士のコミュニケーションのマナーのように言い換えることができれば、目の前で「これだから女子と話すのは嫌なのだ」とイヤイヤ期に入ったアラサー非モテ成人男性だって納得させることができるだろう。
★何故女子の話にアドバイスしてはいけないのか
「職場のお局様がね、口が悪くて嫌なのよ」
という愚痴に対して
「パワハラで通報しなよハイ終了」
と答えを出すことがよくない、ということである。
そもそもこのルールが理解できない人は
「は?解決方法を提示してあげただけではないか、何故怒られなければいけないのだ」
と怒り狂うだろう。正論中のところ申し訳ないが、アドバイスそのものの正当性には一切意味がないのだ。
相手の話に無闇にアドバイスしてはならない理由は簡単だ。
あなたは彼女のお悩み相談所の担当者ではなく、彼女もまたあなたの答えがほしくて話しているわけではないから、だ。
話を聞いて答えが出せそうなものは答えを伝えてあげたくなってしまう、それはこちらのエゴなのだ。
逆に、アドバイスをしてあげた方がよいケースはこの二つだけだ。
① あなたのアドバイスによって彼女の生活が魔法のように好転して「話してよかった」と思ってもらえる確信の持てる場合
② 相手に明確な解決の意思があり意見や策を求められた場合
ちなみに①のようなケースはほとんどと言っていいほどなく、②の場合は話の温度感や相手から明確に相談の意思が伝えられるはずだ。
少なくとも雑談の中で、相手の話がどんなに悩み相談に聞こえてしまったとしても、それを勝手に判断してアドバイスされることを求められてはいないのだ。
「それでは彼女達は何の話をしているのだ」
と訳が分からなくなってしまう人も多いと思う。
★映画の感想だと思え
解決を求められている悩みのように思うからアドバイスを求めてしまうのだ。
ではお悩み相談でなければ何の話だと思えばいいのか、それは映画の話だと思え、に尽きる。
自分の経験フィルムの中のワンシーンを私達に話しているのだ。
ヒロインが悲しむ場面の話には「悲しいねそれは」と悲しむ。
ヒロインに良いことがあったシーンに共感して喜ぶ。
それを一緒に行うことを求められており、ヒロイン女優のセルフレビューを聞かされているのだ。
そしてヒロイン達は、私の感想に共感してくれているか、と無意識に価値観の確認を行っているのだ。その証拠に、女性の話には必ず本人の心境吐露がセットになっているはずだ。
そんな中で登場人物に対して「そのシーンで○○すればもっと早く敵を倒せた」といった私達のレビューは完全に不要アミノ酸だ。
★共感してほしいか、驚いてほしいか
「悩み相談ではなく、映画の感想を話している」
と、話には内容以外にその話をする目的がある。
そう考えると、この話は決して男女間の壁の話ではない。
「あなたに勧められた収納術がすごく役に立ったから感謝を伝えたい」
「今朝面白いことがあったからあなたにも笑ってほしい」
「キノコタケノコ論争を武力行使で決着を付けようと思うがあなたがどちら派か知りたい」
このように目の前の相手が話すことには目的がある、ということを理解することが話を聞く側に求められる能力なのだ。
そう聞くと、人の話を聞くことは心理を読む難しい話のように思えてしまうかもしれない。
しかし安心してほしい(?)女性とのデートや喫茶店や居酒屋での雑談で聞く話は
「共感してほしい」「驚いてほしい」
目的のものばかりだ。
そして最初から話されている「解決」が目的のものは殆どない。
「女子の話にアドバイスするな」
は丁寧に言い換えると
「相手の話の目的を考えよう、女性の話は別に解決してほしくない場合が多い」
と伝えることができる。
対女性に限定されたコミュニケーションルールではなく、普遍的な会話のマナーとして言い換えることで理解を得られるだろう。
「おい八木、相手の話の目的を考えてあげよう、女性の話は解決が目的じゃない場合が多いんだ」
「俺の女性に対する悩みに勝手にアドバイスするな」
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