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短編小説『モーテルにて』

「今だと、ダルメシアンかプードルだね」
戸惑ってから悩んで、ダルメシアンという名のコールガールに決めた。
なんとなくプードルよりセクシーな気がしたからだ。
モーテルの名前を伝える。

女は白地に黒の水玉があるワンピースで来た。

「なんで名前が犬種なの?」
って訊いたら、
「知らないよ。変なネーミングのシリアルだってあるでしょ?シリアルたちも出荷される時、自分で変な名前なんて思わないよ。美味しく食べてもらえればそれで良いんだから。」
そう言って彼女は服を脱いだ。
美味しそうなカラダだった。

食後に彼女は煙草を吸った。
「煙草吸うんだ?」
「嫌い?」
「ううん、でも体に良くないって聞くから」
「好きでもない人とセックスするのも良くはなさそうだけど?」
告白してもいないのに振られた様な気分だった。
余計なことを言ったなと思いながら天井にのぼる紫炎を見送る。
「あなたって何してる人?」
「何してる様に見える?」
「当てたら何かくれるの?」
「あ、いや」
「ケチだから無職。無職に見える」
「無職はコールガール呼べないよ」
「じゃあ親の金でコールガールを呼ぶ無職」
「もういいやそれで」
「だとしたら勝ち組だね、ほらハイタッチだ」
彼女はケラケラと笑った。

彼女が美味しかったカラダを服に仕舞う。
「帰る?」
「そりゃあね、延長するの?」
「いや」
「達者でな、無職」
彼女は中指を立てて出ていった。

「サンドウィッチとミルクをお願いします」
「あー、えーっと、サンドウィッチとビール?」
「すみません、サンドウィッチとミルクです」
「ああ、サンドウィッチとミルクね、うん、ああ、OK OK、すぐ行く!」

注文してから部屋にボーイが来たのは40分後だった。
明らかにほろ酔いのボーイはサンドウィッチとビールを運んできた。
「これあげるよ」
ミルクは諦めて、ビールの瓶をボーイに手渡す。
寝ぼけた様な赤ら顔が途端に綻びる。
「ほんとに?おたく良い人だね」
するすると部屋に入ってきてソファでビールを飲み出した。まぁ退屈だったしいいか。
僕はサンドウィッチを一口齧る。パンはパサパサだったけどハムは悪くなかった。
「こんな仕事してるととんでもない嫌な客がよく来るんだ。コーヒーショップに勤めてた時はそこが地獄だと思ってたけど、とんでもない。こここそ地獄だよ。田舎になんか戻らなきゃよかった。」
「そんな悪いモーテルには思えないけど」
ミルクは届かなかったし遅かったけど、
ベッドもバスルームも綺麗だった。
「お客からすればね。でも働いてるとなんで俺がこんな目にとか思えてくるんだ。だからおたくみたいなまともな客が来ると神様みたいに拝んじまう」
ボーイが手を合わせる。
なんだかしっかりしなきゃいけない気がして背筋を正した。

気付くとボーイは目を瞑っていた。
一通り喋って、健やかに眠っている。
彼の手から瓶を取り上げてテーブルに置く。

外に出ると懐かしい匂いがした。

僕は、懐にしまっていた毒の小瓶をゴミ箱に投げ入れた。

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