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短編小説一覧

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#ホラー小説

短編怪奇小説『屋台の主』

短編怪奇小説『屋台の主』

ホラー系インフルエンサーの間で話題のホラー映画を観終え、映画館を後にする。正直なところ味気なく、途中あまりのベタさに声をあげて笑いそうになるほどだった。ここのところ映画の引きが悪かった。自分が検死なんてことを生業にしているせいで、この手のコンテンツの演出に麻痺しているせいも大いにあった。麻痺するが故にもっと刺激のある恐怖が欲しかった。少し苛立った時の癖で鼻を摩るとポップコーンのバターの香りが指先か

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短編ホラー小説『異音』

短編ホラー小説『異音』

これは10年ほど前、私が東京に出てきた頃の話だ。
当時土地勘もないがお金もなく、兎に角安い物件を探して回っていた。物件探しも手広くやればお金も時間も掛かってしまう。終盤は面倒臭さも感じていて、結局神奈川寄りの、少し辺鄙な物件に決めてしまった。風呂もトイレもあるのに、家賃はかなり安い。曰く付きかを疑ったが、それを聴いて仕舞えばこの部屋には住めなくなってしまう。私は黙ってその部屋、203号室を借りるこ

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短編小説『雨宿り』

短編小説『雨宿り』

六月。激しい雨。走る音が二つ。鈴の音。雷。

私が公園の東屋に駆け込むと、その後を追う様に一人の男が駆け込んできた。ぼさぼさの髪にアロハシャツ、薄く色付いた眼鏡。他人に警戒心を孕ませるに不足ないその外見と裏腹に、男は人当たりの良さそうな声色で話しかけてきた。

「いやー、降ってきちゃいましたね。一日晴れの予報だと思ったんだけど、夏場はやっぱり分かりませんね。おろしたてのアロハが台無しだ。」

私は

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