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短編小説一覧

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#SF小説

短編SF小説『Dad needs art.』

短編SF小説『Dad needs art.』

暗闇。瞼を開く。開いたはずが暗闇のまま。階段下の物置を思い出す。本当に瞼を開けているのか、或いは万に一と聞いていたタイムトリップ下における障害を負って視力を失ったのか。視覚、聴覚、記憶を失った者もごく少数だがいると聞く。契約書の端にあったその旨の短文。嫌な汗が滲む。ポッドの動作音は聞こえる。朝食は覚えている。「目が覚めたら引きなさい」と教えられていた手元のレバーを感触と方向を確かめながら引く。闇の

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短編SF小説『美しい貌』

短編SF小説『美しい貌』

都市部から少し外れたベッドタウン。狭い狭い私の城、302号室。リノベーションによって現代的な様相にはなっているが、その実は内部の老朽化に喘ぐ古いアパートメント。その中の更に狭いバスルームの、洗面台の前。コームセットや頭痛薬が入る収納付きの鏡に、一人の女が映っている。平坦で平凡な顔立ち。これが私だ。

型落ちのパネルフォンを取り出して鏡に無線接続する。メニューをスクロールしているうちに様々なエフェク

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短編SF小説『学習』

短編SF小説『学習』

美人が出没すると噂のバーにSが行くと、女性が一人カクテルを傾けていた。Sは好きな銘柄のスコッチを注文して、その女性の席から一つ空けたスツールに腰掛けた。横目で見る限り相当な美人だ。間違いない。グラスが届き一口舐めてから女性に声を掛ける。すると思いの外ノリが良く、話が弾んでSは調子づいてきた。調子づくと男と言うのは大抵の場合、知識をひけらかし始めるものだ。Sも御多分に漏れず、近頃の人工知能に関する自

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短編小説『シリアルキラーキラーテレパシー』

短編小説『シリアルキラーキラーテレパシー』

※良い朝食さんからのTwitterリプライ「シリアル」よりー
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『シリアルの語源は、豊穣の女神セレス、だって。てっきり大量生産だからかと思ってた!また賢くなっちゃった』
愛犬のデルトロがシリアルの箱を見ながら、広角を上げる。ドヤ顔に見える。
あたしは返事しないでシリアルをシャクシャクと歯ですり潰す。
『シリアルキラーってのはなんだかかわいいと思ってたけど、そうか、語源が違うのかー!

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短編小説『此処から見える景色』

短編小説『此処から見える景色』

※じむじむさんからのTwitterリプライ「シンギュラリティ」よりー

老人は心底重たそうに口を開く。
「俺たちが若い頃、人工知能が人間を支配するってのは、単なる空想に過ぎなかった…。」

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当時人類は、より人体に近い義手義足の開発から義体開発に着手を始め、それと同時に人工知能を持ったクルーの量産をしていた。
この時代に流行っていたスマートホン。これもある種、人間の擬似脳と化していて

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短編小説『日をめくる物語』

短編小説『日をめくる物語』

※ゆきんさんからのTwitterリプライ「アドベントカレンダー」よりー
※今作は森見登美彦作品へのオマージュが含まれます
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皆さんはアドベントカレンダーというものをご存知だろうか?クリスマスまでの期間に日数を数えるためにビンゴの様に窓を毎日ひとつずつ開けていくカレンダーである。
その窓には写真やイラストに詩の一節、はたまた飴やチョコレートなどの菓子が入っていて、それを皆楽しみに毎日開

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