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寝袋男
2024年11月16日 11:05
ホラー系インフルエンサーの間で話題のホラー映画を観終え、映画館を後にする。正直なところ味気なく、途中あまりのベタさに声をあげて笑いそうになるほどだった。ここのところ映画の引きが悪かった。自分が検死なんてことを生業にしているせいで、この手のコンテンツの演出に麻痺しているせいも大いにあった。麻痺するが故にもっと刺激のある恐怖が欲しかった。少し苛立った時の癖で鼻を摩るとポップコーンのバターの香りが指先か
2023年3月14日 14:36
これは10年ほど前、私が東京に出てきた頃の話だ。当時土地勘もないがお金もなく、兎に角安い物件を探して回っていた。物件探しも手広くやればお金も時間も掛かってしまう。終盤は面倒臭さも感じていて、結局神奈川寄りの、少し辺鄙な物件に決めてしまった。風呂もトイレもあるのに、家賃はかなり安い。曰く付きかを疑ったが、それを聴いて仕舞えばこの部屋には住めなくなってしまう。私は黙ってその部屋、203号室を借りるこ
2023年2月20日 01:09
蝙蝠が死んだ。 犯罪都市と名高い、いや名低い?それも変な言葉だ。兎に角、ネズミさえ病気になりそうなこの街で、たった一人「犯罪」というウイルス殲滅に躍起になっていた男が死んだ。野次馬の一人が、死んだ男の奇妙なマスクを恐る恐る剝がした。野次馬たちはそれぞれ、目をまん丸にしてその顔を覗き込んだり、悲鳴を上げたり、隣のやつとあーだこーだと議論を始めるやつ、ただ息を飲んで見守っているやつとか、反応は
2022年6月24日 00:49
A.気温はそれほど高くない日だったが、雨季特有のまとわりつくような湿気がどうも嫌な汗をかかせる。張り付いたシャツが気持ち悪い。こういう日は細かいことに苛立ってしまう。他人の笑い声、やたら引っ掛かる信号機、湿度で曇る眼鏡、のんびりした歩行者、ぶつかるバッグ。許容範囲を超えてしまいそうだ。表面張力の様に、ギリギリで持ち堪えているフラストレーション。そしてついにその時が来た。駅のホーム。
2022年5月14日 00:37
黒尽くめは宵闇に紛れる。夜の【散歩】にうってつけだ。「趣味は?」と訊かれれば【散歩】と答える。今日は何処に行こうかな。今夜は、"どう"しようかな。通称「42団地(シニダンチ)」。別に42棟あるって訳でも無いし、番地でも無い。名前の由来は諸説ある。八という字がつく村があったから。都市開発の際に42人の変死体が出てきたから。自殺の名所だからとか。変な噂が受け継がれるのも仕方がない