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短編小説一覧

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#恋愛小説

極短編小説『月が高いですね』

極短編小説『月が高いですね』

誰もいない暗がりを、高く上がった月を見て帰る。
陰鬱な疲労感と少し肌寒い解放感。そんな夜でも、満月なら少しだけ気分が良い。
コンビニで顔色の悪い店員から低アルコール飲料を一本買い求め、高台の公園に行く。ここがこの街で一番月に近い、様な気がする。
「こんばんは」
ベンチに腰掛ける先客に声を掛ける。
「ああ、こんばんは、また」
満月の夜、帰るのが惜しくてここへ来るといつもその男がいた。
男は小さい日本

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短編小説『待って』

短編小説『待って』

「待って」

彼女の口癖だ。本当に待ってほしいわけではない。
「待って」のあとには「なにそれ面白い」とか「なにそれ意味わかんない」が隠されていて、僕の発言が何か面白かったり、予想外だった時の反応だ。何を待たされているのか、最初分からず数分待ってから事情を尋ね、「なんだその固有言語感覚は」とツッコんだら「待って」と返されたのを覚えている。笑いながら肩をしたたか叩かれた。

「待って」

今度は別の意

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短編小説『水曜日のワッフル』

短編小説『水曜日のワッフル』

※良い朝食さんからのTwitterリプライ「ワッフル」よりー
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水曜日は、仕事終わりに空港のカフェに行く。
人もまばら。眠った様な飛行機と、イルミネーションの様な誘導灯。
熱々のブラックコーヒーと、クリームとチョコレートソースたっぷりのワッフルを頼むのが、俺の細やかな楽しみだ。

「こんばんは、今日もいつもの?」
「頼むよ」

ウェイトレスのリサはあまり気さくってタイプじゃない。

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短編小説『日をめくる物語』

短編小説『日をめくる物語』

※ゆきんさんからのTwitterリプライ「アドベントカレンダー」よりー
※今作は森見登美彦作品へのオマージュが含まれます
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皆さんはアドベントカレンダーというものをご存知だろうか?クリスマスまでの期間に日数を数えるためにビンゴの様に窓を毎日ひとつずつ開けていくカレンダーである。
その窓には写真やイラストに詩の一節、はたまた飴やチョコレートなどの菓子が入っていて、それを皆楽しみに毎日開

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