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短編小説一覧

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#推理小説

短編推理小説『手紙を誰が食べたのか?』

短編推理小説『手紙を誰が食べたのか?』

新社会人になる私は、実家を出るため、自室で荷物の整理をしていた。いい加減着古したセーターやスカートをまとめ、机や引き出しに取り掛かった。整理の邪魔をするように、思い出の品が次から次へと姿を現す。集合写真、友達と授業中やりとりした手紙、アルバム、部活動の文集。当時私は文学研究部という、あまりにもモサい部活に属していた。クラスでは目立たない男女が、ただ部室で本を読んで感想を述べ合ったり、いや、殆ど読書

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短編推理小説『ファミレスにて』

短編推理小説『ファミレスにて』

「いいか?人間には2種類いるんだ」

大楠(おおぐす)らしい、いつも通りの勿体ぶった言いまわしだ。俺は求人誌をめくりながら「続きをどうぞ」と頷く。

「待たせる側と待たされる側だ。俺はお前に待たされた上、今は20分前に注文したピザを首をながーくしながら待ってるんだ」
そこまで言い切ると、冷めたコーヒーをやけ酒のように一気に飲み干す。

時刻は0時を過ぎ、客もまばらな店内。到底忙しいとは思えない中、

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短編小説『雨の日は頭が痛い』

短編小説『雨の日は頭が痛い』

雨音の間をすり抜けてインターホンが真也の耳に届く。相変わらず嫌に大きいその音は、頭痛に犯されるこめかみを刺し、つい顔をしかめる。
モニターを見ると彼女、井上麻紀が映し出されている。

「ごめんね、ビショビショだ。傘を忘れちゃってさ、たまたま近くだしなと思って…。タイミング悪かった?」
真也はタオルを手渡しながら答える。
「いや、全然大丈夫だよ。どの傘でも借りて行ってよ」
傘立てにはビニール傘が5本

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短編小説『探偵は膨らんで推理する~湯けむり編~』

短編小説『探偵は膨らんで推理する~湯けむり編~』

プロローグ

「この人、探偵だけど。」
全員の視線が僕に刺さる。
言った当人はしれーっとした様子で雑誌のクロスワードパズルに視線を落としている。彼女の声は無表情だ。否、声も、かも。
しかし僕は知っている。彼女がそのポーカーフェイスの下で三日月の様に微笑みを湛えて居ることを。



明日からここに泊ります。」
僕が閑古鳥すら実家に帰った様に静かで長閑な我が探偵事務所にて、昼下がりのひと時及び微睡み

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短編小説『探偵は膨らんで推理する』

短編小説『探偵は膨らんで推理する』

警部はそのよく肥えた男の死体を見下ろす
この死体のお陰で、わざわざこの田舎町まで駆り出される羽目になったのだ。昨晩まで降り続いた雨が止み、窓から差し込む陽の光が死体に降り注ぐ。まるで天使のお迎えだ。
「こりゃあデカい、あちこち見るのも一苦労ですね先生」
「大儀じゃ…」
死体と対照的に小柄な老医師は、加齢のせいかはたまたアルコールのせいか、震える手で死体を検分していく。
「失礼します」
若く青い巡査

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短編小説『雨宿り』

短編小説『雨宿り』

六月。激しい雨。走る音が二つ。鈴の音。雷。

私が公園の東屋に駆け込むと、その後を追う様に一人の男が駆け込んできた。ぼさぼさの髪にアロハシャツ、薄く色付いた眼鏡。他人に警戒心を孕ませるに不足ないその外見と裏腹に、男は人当たりの良さそうな声色で話しかけてきた。

「いやー、降ってきちゃいましたね。一日晴れの予報だと思ったんだけど、夏場はやっぱり分かりませんね。おろしたてのアロハが台無しだ。」

私は

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短編小説『高所恐怖症』

短編小説『高所恐怖症』

少女は脚立の上で震えながら、僕を見つめていた。
「多くの人が勘違いしているんだが、」
声のする方を見ると教授だった。
教授は少女を脚立から大事そうに抱え上げて地面に下ろす。
「こういった日常生活で使う程度の高さのものでも恐怖を感じるのが、高所恐怖症だ。」
少女は未だに落ち着かない様子で震えている。
「続きは部屋で話そう。」

少女はふかふかのソファーの端でその小さい体を沈めて、未だ落ち着かなげに膝

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短編小説『雨の日は頭が痛くて』

短編小説『雨の日は頭が痛くて』

※ふたばさんからのTwitterリプライ「雨」よりー

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雨の音に耳を澄ましていると、インターホンが鳴った。
モニターを見ると彼女が映し出されている。

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「ごめんね、傘を忘れちゃってさ、たまたま近くだしなと思って…。タイミング悪かった?」
真也はタオルを手渡しながら答える。
「いや、全然大丈夫だよ。どの傘でも借りて行ってよ」
傘立てには4本傘が入っている。麻紀は濡れていない傘を

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