2023年7月の記事一覧
短編小説『バーに来た男』
私はその男から5つ程離れた席でオールドパーを飲んでいた。本当は別の目的でバーに足を運んだのだが、そんなことはどうでも良いほど、その男を観察することに夢中になっていた。長い髪を一つに束ね、この暑い中しっかりとジャケットに袖を通していた。出た頬骨に落ち窪んだ眼窩、それにつけて高い鼻が目立つ。そして私が最も惹きつけられたのはその手だった。右手の人差し指と親指、左手の薬指が欠損している。限られた指先を器用
もっとみる私はその男から5つ程離れた席でオールドパーを飲んでいた。本当は別の目的でバーに足を運んだのだが、そんなことはどうでも良いほど、その男を観察することに夢中になっていた。長い髪を一つに束ね、この暑い中しっかりとジャケットに袖を通していた。出た頬骨に落ち窪んだ眼窩、それにつけて高い鼻が目立つ。そして私が最も惹きつけられたのはその手だった。右手の人差し指と親指、左手の薬指が欠損している。限られた指先を器用
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