「ハケンアニメ!」を見てきたけど
個人的に予告編を見た時に「微妙そうだな…」と思ってしまい何となく見に行くのを躊躇っていたのですが、数少ない見てきた人たちの評判がめちゃくちゃに良いので気になって見に行ってしまいました。
なんか「アニメの現場を描く!」っていうのがもうSHIROBAKOという傑作がやっているからもう良いんじゃない?というのと、もう昔のように視聴率とか円盤の売上枚数で覇権アニメ!ってなるような時代じゃない気もするし覇権アニメという言葉自体が若干死語だし邦画のノリがちょっと苦手だしみたいな様々なネガティブ要素が渦巻いてしまって中々見に行けなかったのですが、見てみたらもう…これをどうして批判することがあろうか?という感情になってしまいました。
なんと言ってもかっこいいんですよね。物語としては新人監督のアニメとベテラン監督のアニメどちらが覇権を取るか!?という感じですけど、そんな部分は実は全然どうでも良くて…。別に覇権を取りたいからアニメを作っているわけじゃなくて、とにかく宣伝しまくってお金を儲けたいというわけじゃなくて、本当の本当はただ一人のあなたに届いて欲しい…という願いのために普通の幸せを捨てて寝る間を惜しんでアニメを作っていることを描いているのが!!かっこよかったです。
アニメって言ってしまえば全部嘘でできているわけですよね。画面は全て絵だし、話も現実でそんなことありえないだろみたいなのばかりだし、絵空事という言葉がありますけど、まさにアニメは絵空事で作り上げられた虚構の世界で、結局辛い現実は何一つ変えられないんだ、というのが幼い頃の主人公の考えでした。
そんな中で主人公に突き刺さったのは「特別な子じゃなくて、どこにでもいる普通の子が主人公になる」アニメでした。言ってしまえば、こういうのも嘘みたいな話ではあるんですよね。結局そんなに都合よく主人公になれたりしないし、現実はそこまで上手くいかないわけです。でも、アニメがどんなに嘘でできていても、それを作っている人たちの想いとか願いみたいなものは本物だったから主人公に刺さったんですよね。つまり、自分のような存在のことを想ってアニメを作ってくれた人もいたんだということが、主人公にとって救いになったわけです。
ただ、それはもう大人になってからのことでした。もしも幼い頃にこんなアニメに出会っていたら、世界はもっと輝いて見えたんじゃないか? そんな想いで主人公は仕事を辞めてアニメを作るために戦うことになります。ここで「普通の人が主役になれる」アニメと主人公が重なるのも上手い構成になっていて、別に生まれながらにして天才な人たちばかりがアニメを作り上げているわけじゃなくて、主人公のように一度公務員になってからアニメを作ったって良いじゃないかということなんですよね。この「普通の人でも魔法を使える」というのがアニメというメディアのまさにマジックな部分だと思うので、この構成はアツかったです。
主人公にとってアニメを作ることは「バトンを繋ぐこと」なんですよね。幼い頃にバトンを受け取った人もいれば、主人公のように大人になってから遅れてバトンを受け取った人もいるけど、誰もが一度はアニメという虚構に救われたことがあるから、主人公をはじめとするアニメを作っている人たちは戦うことをやめないんですよね。劇中ずっと戦闘シーンみたいな感じでした。もちろん「夢追い人」である監督たちに代わって現実問題(概ねお金の問題)とか世の中と戦っているプロデューサーの2人もかっこいい。結局お金が無いと作れないし、誰かが頭を下げないといけないわけで、アニメというキラキラした世界と現実のドロドロした世界を跨いで仕事をしている姿がかっこいいですよね。まさしく、アニメという夢物語の虚構はこうした人たちの戦いによって生み出されていることを本当に実直に描いている映画だった…。
冒頭の僕のように見るのを忌避している人が多いのか分かりませんが劇場はわりとガラガラな感じでした。この感じだとすぐ上映回が減ってしまうかもしれないので見るなら今のうちな映画です。お金を払って見に行く価値はあると思います。僕は泣きました(SHIROBAKOでも神回として有名なあれほどではないですけどそうした感じの演出があって(命が吹き込まれるやつです)なんかあの演出ズルいですよね…絶対泣いてしまう)本当に多くの人に届いてほしい映画です。