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2022-23シーズンのMVPレースについて

NBAのMVPの最終候補が発表されました。ファイナリストの選ばれた3人は…

  • バックスのヤニス・アデトクンボ (ベストチームのベスト・プレーヤー)

  • ジョエル・エンビード (2年連続得点王)

  • ニコラ・ヨキッチ (平均ほぼトリプルダブル)

おなじみの顔ぶれですね。ヨキッチとエンビードはMVPがこのフォーマットになってから3年連続のファイナリスト選出になりました。

3/30に公開されたESPNの世論調査(きちんと100人のメディアメンバーに聞いて、得点の出し方もMVPと同じ計算をする)では、ジョエル・エンビード790点でニコラ・ヨキッチに2点差をつけて1位でした。ヨキッチに3位投票した誰かひとりでも2位投票にすれば、同点になる程の接戦です。しかも1位投票獲得数はヨキッチの方がエンビードよりも2票多くトップです。

その時のセンター対決はまさにこの状態でした。

3位にはヤニスが612点で入っていますが、実質エンビードとヨキッチの争いだと思って良いでしょう。ヤニスはバックスをリーグ1位の成績に導いて真のベスト・プレーヤーと言われていますが、彼のエフィシェンシーは彼のスタンダードから下がっているため、MVPは獲れないだろうと言われています。理由は後述します。

しかし、MVPトラッカーのマックス・クロースが集計した4/13日時点の実際の投票結果をみると、現在はエンビードがMVP最有力になっています。これが投票者とその1位投票内容です。

35人中の25人がエンビードに1位投票をしていて、ヨキッチとヤニスが5票ずつ1位投票を得ています。ポイント数にするとエンビードがすでに290点を得ていて、ヨキッチが2位で160点、ヤニスが135点。ここから逆算すると、今シーズンのMVPはもうエンビードで決まりでしょう。

この数週間でエンビードがあがってきた理由には、シーズン中盤でぶっちぎりでMVP最有力と呼ばれていたヨキッチが終盤に失速してしまい、それとは逆にエンビードが次第にMVPに相応しい活躍を見せて来た事が大きいように思えます。MVPはシーズン全体を通してのパフォーマンスに対する賞なのですが、やはり投票者の目に入るのはシーズン終盤の活躍だと言えます。

前置きが長くなってしまいましたが、これから毎年恒例のMVPを選ぶ上で重要な要素になる数字などを紹介していきます。これを抑えておけば、MVPレースもより楽しめると思います。

まずはMVPを決めるにあたって最も重要な「数字」を見ていきましょう。

アドバンス・メトリックス

● EPM

EPMは他の多くのアドバンススタッツと同じように100ポゼッションンベースで、どれだけ選手が試合に貢献したかを測るメトリックです。その中でもEPMは特にアナリティクス界隈で評判が高く、RPMをつくったスティーヴ・イラーディも「EPMはワンストップ・メトリックのゴールドスタンダードだ」と言っている程で、今最も信頼性がおけるアドバンス・メトリックスと言ってもいいでしょう。ESPNのアナリストの「ザ・マシーン」ことケヴィン・ペルトンや、アナリストのセス・パートナウが好んで使うメトリックスです。EPMの特徴としては、プレーヤー・トラッキングデータやラインアップのコンティニュイティーを利用し、RAPMからノイズを消してくれるため誤差が出にくいようです。

EPMは12月後半からシーズン終了までヨキッチがずっとトップでした。その前はステフとルカがトップにいた事があったと思います。

  1. ヨキッチ:+7.9

  2. エンビード: +7.3

  3. リラード: +7.1

  4. ジミー: +6.9

  5. カワイ: +6.5

  6. ルカ: +6.4

  7. ステフ: +6.4

  8. ヤニス: +6.4

  9. KD: +6.2

  10. レブロン: +5.9

● LEBRON

特徴としてオフェンスの役割、プレースタイルによる数値の修正、スリーやフリースローにも運の調整が入ります。もしベン・シモンズが最初の3試合でスリーが50%になった場合、予想数値に基づいてエフィシェンシーを下げて計算します。総合的にボックススコアのスタッツを最もうまく生かしたメソッドを使用していると言われており、特に短期的な評価に使えるそうです。新バージョンではトラッキング・データも取り入れているとのこと。

  1. ヨキッチ:7.48

  2. ヤニス:5.83

  3. エンビード:5.81

  4. AD:5.03

  5. ジミー:4.96

  6. JJJ:4.60

  7. レブロン:4.39

  8. ミッチェル:4.27

  9. テイタム:4.26

  10. ルカ:4.05

● BPM

選手のコート上での貢献度を測るメトリック。チームでのオフェンスの役とポジションも数字に反映させています。例えば、センターにとってのアシストはポイントガードのアシストよりも価値が高く計算されます。トータルでチームの選手たちのBPMスコアの合計がNet Ratingと合致するようになっているので、良いチームでプレーする選手の数字がブーストされる傾向にあります。基準は100ポゼッションで、トラッキングデータは使用してないので、より複雑なLEBRONやEPMよりも得られる情報は少なさそうです。

ちなみにBPMの基準は以下のようになります:

-2.0はベンチ選手(代替可能な選手)
0が平均で、普通のスターターや手堅い6マン
+2.0が良い選手
+4.0がオールスターに入るかもしれない
+6.0がオールNBA選出レベル
+8.0がMVPレベル(ダークやシャックのピーク)
+10.0が歴史に残るレベル(ジョーダンやレブロンのピーク)

  1. ヨキッチ:13.0

  2. エンビード:9.2

  3. ルカ:9.0

  4. ジミー:8.7

  5. ヤニス:8.5

  6. ステフ:7.6

  7. SGA:7.3

  8. ハリバートン:7.2

  9. KD:7.1

  10. リラード:7.1

● PER

2007年に紹介された最も古いアドバンス・スタッツのひとつ。平均得点はプレー時間を考慮にいれませんが、PERはプレー時間のパフォーマンスにペースの修正を入れ、ミスしたショットやTOやファウルも組み込んだメトリックスです。オフェンスに重きがおかれ、ビックに高い数字が出る傾向があります。

PERの平均点は15.00で、良い選手ほどプラスになり、悪い選手ほどマイナスになります。ちなみに、2015-16シーズンに満票でMVPだったステフ・カリーが31.56でした。

  1. ヨキッチ:31.5

  2. エンビード:31.4

  3. ヤニス:29.0

  4. ルカ:28.7

  5. AD:27.8

  6. ジミー:27.6

  7. SGA:27.2

  8. リラード:26.7

  9. KD:25.9

  10. ステフ:24.1

3/1時点ではヨキッチは32.28で、エンビードは30.54でした。エンビードが最後の5週間で猛追しているのがよくわかります。

● オン/オフ

チームにどれだけ貢献しているかを測る指標になります。特に勝っているチーム。しかし、これは一緒にプレーしている選手たちにも左右されるので、勝っているチームでプレーしている選手が有利になります。アーロン・ゴードンが2位というのもそれを示唆しています。(*最低50試合出場)

MVP候補のNBAデータでのOn/Offは…

  • ヨキッチ 12.5/-10.4 Net:22.9 (1位)

  • エンビード 8.8/-1.5 Net:10.3 (11位)

  • ヤニス 7.2/-1.4 Net:8.6 (23位)

(Cleaning the Glassによるon/offのデータ。NBAのデータとは少し違っています)

エンビードやヤニスのようなポイントゲッターではないヨキッチの数字が高いところを見ると、彼がヨキッチはセンターサイズのPGとしてまわりを活かしているのがよくわかります。

このように主要アドバンス・スタッツではヨキッチの「支配」が続いています。同時に、この事実をひっくり返す何か他の要因がエンビードにはある事を示唆しています。

MVPの数字に関しては、アドバンス・メトリックを見てわかる通り、ヨキッチがリーグのトップになっています。そのためか、今年のMVP議論にはちょっと変わったアングルの評価が出てきています。それはディフェンスです。エンビード推しの人の多くは、エンビードの方がヨキッチよりもディフェンスが優れているという点を主張をしているのではないでしょうか。

MVP候補のディフェンスを語るのは珍しく、ステフやハーデンがMVPを受賞した時にディフェンスの問題はまったく話題になりませんでした。ヨキッチとエンビードが同じように争っていた昨シーズンのMVPレースでもディフェンスの数字は問題になりませんでした。ただ、センターというトラディショナルなポジションでディフェンスに比重を置くのは理解できます。なぜこの議論が今年から出てきたのかはわかりませんが、実際はどうなのでしょうか。

アドバンス・メトリックスの数字では、ヨキッチのディフェンスは悪くありません。スタンダードなディフェンシブ・リバウンド率とスチール%もエンビードよりヨキッチの方が上です。ディフェンシブ・スキームの選択肢もエンビードとヨキッチはあまり変わらず、ふたりともスウィッチしたり、アップトゥータッチやブリッツなどの「アップ」系のディフェンスは苦手です。エンビードが明らかにヨキッチに優っているのはPnRディフェンスとリム・プロテクションです。というよりもヨキッチのリム・プロテクションはセンターとしても酷いレベルでスターターとしては68.6%とリーグ最低レベルになっています。しかし、エンビードのこの数字もエリートなものではなく、センターのスターターとしては17位の64.8%で、ユスフ・ナーキッチ、クリント・カペラ、ウィンデル・カーターよりも低くなっています。このリム・プロテクションの数字はMVPを決定づけるような「攻守に於いて」凄い数字ではないので、それなら、エンビードは「リーグ8位のチーム・ディフェンスの要」だと言うべきだと思います。

ちなみにナゲッツのチーム・ディフェンスはリーグ15位です。良くも悪くもない順位なので、どちらに考えてもよさそうですが、リム・プロテクションがリーグ最下位近くのセンターがいるチームのディフェンスとしては悪くはなさそうです。これをどう取るかはそれぞれの判断次第だと思います。

ひとつ言えるのは、MVPを考える上で、みんながヨキッチとエンビードのふたりの間に差をつける決定的要因を探していると言う事です。それだけヨキッチとエンビードのレースは拮抗していたと言う事でしょう。

ヨキッチにMVP1位投票した人の中には、普段からアドバンス・スタッツを重視しているESPNのケヴィン・ペルトンやThe Ringerのマイケル・ピナがいます。

なぜヤニスはMVPになれないのか。

ヤニスが現在リーグのベスト・プレーヤーだと言う人も多いのですが、今年のMVPレースでは勝てない言われています。理由はヤニスのスタンダード(以前のような数字)に達していないのと、オフェンスの効率が落ちている事があげられています。

アドバンス・メトリックスで見てきたように、ヤニスはヨキッチやエンビードのようにトップに入れていないメトリックスがあります。

簡単に言うと、オフェンスのエフィシェンシーがこの数年のスタンダードよりも落ちてしまっています。チームのセカンド・ベストプレーヤーのミドルトンが33試合しか出場できなかったため、ヤニスの負担が増加したのが大きな理由だと思われます。ヤニスのユーセッジは38.4%とNBAで最高になりましたが、TS%が60.5%と2018-19シーズン以来最低を記録してしまっています。通常ユーセッジ%が1%アップするとTSは0.5%ダウンすると言われており、ヤニスの場合はそのレンジよりもエフィシェンシーが1%さがっています。そのため得点はキャリアハイになってもスコアラーとしての価値は下がった状態になっています。

ではMVP最有力候補のジョエル・エンビードはどうか?

ユーセッジ36.8%とリーグ3位なので、TS%がリーグの14位の65.5%に落ちています。

エンビードよりも効率が良いオフェンスをした選手には、ステフ(Usage 31%/TS% 65.6%)、KD(Usage 30.6%/TS% 67.7%)、SGA(Usage 32.8%/TS% 62.6%)や、サボニス(Usage 34.9%/TS% 66.8%)やジェイソン・テイタムらがいます。ちなみにヨキッチのユーセッジは27.1%でカリル・クズマやルーキーのパオロ・バンケロよりも低い25位で、TS%は70.1%です。この70.1%はリーグの歴史の中でも5位に入る数字で、しかも100ポゼッションで30得点以上している中でのこのスコアは驚異的です。それだけヨキッチのオフェンスは効率的だと言えます。

アナリストのセス・パートナウがこの3人のTOについて面白い事を言っていたので紹介します。

ヨキッチのプレーメイキング・ユーセッジは22.0と、ヤニスの14.6とエンビードの8.5とかなり高くなっていますが、ヨキッチはふたりよりもTOをしません。数字としては100チャンスで4.4で、エンビードの4.5とヤニスの5.0よりも低くなっています。ヨキッチとエンビードの違いは0.1ですが、下の表を見るとかなりの違いになっているようです。

プレー時間/出場試合数/チームの勝利数

MVPを決める要素は数字だけではありません。どれだけチームの勝利に貢献したかという意味ではプレー時間や出場試合数も投票に反映しているようです。 最終候補のプレー時間を比較すると…

● プレー時間/出場試合数

  • ヨキッチ:2323分/69試合

  • エンビード:2284分/66試合

  • ヤニス:2024分/58試合

ヨキッチとエンビードには3試合の差はありますが、実質39分しか変わらないので、このカテゴリーは五分と見ていいでしょう。

ちなみに過去のMVP受賞者の出場試合数は…

  • 2021-22:ヨキッチ 74試合

  • 2020-21:ヨキッチ 72試合

  • 2019-20:ヤニス 63試合

  • 2018-19:ヤニス 73試合

  • 2017-18:ハーデン 72試合

  • 2016-17:ウェストブルック 81試合

こうして見ると、60試合以上は出場していないとMVP受賞は厳しそうです。

● チームの勝利数

  • ヤニスのバックス 58勝

  • テイタムのセルティクス 57勝

  • エンビードのシクサーズ 54勝

  • ヨキッチのナゲッツ 53勝

  • モラントのグリズリーズ 51勝

  • ミッチェルのキャヴァリアーズ 51勝

  • フォックスとサボニスのキングス 48勝

  • ブランソンのニックス 47勝

  • KDのサンズ 45勝

  • KDのネッツ 45勝

過去のMVP受賞者のチームの勝利数はどうなっているかというと…

  • 2021-22:ヨキッチ 48勝

  • 2020-21:ヨキッチ 47勝

  • 2019-20:ヤニス 56勝

  • 2018-19:ヤニス 60勝

  • 2017-18:ハーデン 65勝

  • 2016-17:ウェストブルック 47勝

チームの勝利は47勝がいまのところボーダーラインでしょうか。チームがそこまで勝てていないKD、ルカ、SGAなどはオールNBAには入れても、MVP候補からは自動的に外れてしまいます。

投票者の中には、MVP候補の5人(MVP投票は1位〜5位までの選手の名前を提出)の中にSGAを入れている人がいるようですが、そういう人に限ってMVPになる条件のひとつにチームの勝利数をあげていたりします(きっとそれはビル・シモンズやライアン・ルッセロだけではありません)。もしMVPの評価基準に勝利への貢献が入るなら、プレーオフに進出できなかったルカやSGAには5位投票ですら票が入らないはずです。SGAを入れる気持ちはわかりますが、もうちょっと良く考えてから投票して欲しいなと思います。

ナレティブ(ストーリー性)

いちばん投票結果を左右する要素だと思われます。ラッセル・ウェストブルックが2016-17シーズンにMVPを受賞した時のいちばんの目玉は平均トリプル・ダブル達成でしたが、それから2年連続でトリブル・ダブルを記録してもMVPになれませんでした。しかもその年のどれもプレーオフに進出し、それぞれ47勝、48勝、49勝しています。ラスが2016-17シーズンのMVPに選ばれたのは、その記録ではなく、KDが抜けた後のチームをひとりで導いたというストーリー性があったからです。その翌年にはポール・ジョージを獲得しているので、あれだけ騒がれたトリプル・ダブルの効果がなくなってしまったように見えます。

今年のナレティブはどのようなものが考えられるのでしょうか?

前述したウェストブルックのように、主要プレーヤーをケガなどで欠いてもチームを勝利に導いたというストーリーがナレティブの王道のような気がします。それにいちばん当てはまるMVP有力候補はヤニスだと思います。

ヤニスはNo.2のクリス・ミドルトンを49試合も欠いている中、チームをリーグトップの成績に導きました。まさにベストチームのベストプレーヤーです。しかし、ヤニスには頼れるディフェンダーのジュルー・ホリデーとブルック・ロペスがいるので、それほどインパクトはありません。

ジョエル・エンビードはどうかと言うと、No.2で自分のオフェンスをセットアップしてくれるジェームズ・ハーデンを24試合欠いてシクサーズがイースト上位をキープするのを助けています。もし最初にハーデンが14試合欠場した時にシクサーズが1位や2位になっていれば、このナレティブが決め手になったかもしれませんが、残念ながらハーデンが復帰するまでシクサーズの勝率は5割でした。

ヨキッチは昨シーズンとはうって変わって、ジャマル・マレーやMPJらの主力はそれほど欠場数が多くなく(マレーは17試合の欠場、MPJは20試合の欠場)、このナレティブには当てはまりません。このチームメイトのクオリティー議論に関しては、ヨキッチはヤニスやエンビードとは違い、オールスター級のチームメイトがいないでウェストでチームを1位に導いたという反論も見かけます。

他に注目すべきナレティブとしては、レブロンもマイケル・ジョーダンも達成した事がない3年連続MVPにヨキッチが輝くのが本当に相応しいのかどうかの議論があり、特に大手メディア(特にESPN)で良く見られていました。それはNBAとABA合併以降3年連続でMVPを獲得した選手はラリー・バードしかいないので、これを達成するからには、ヨキッチは史上最高選手のひとりに相応しい選手であるべきだという主張です。今シーズンのヨキッチのプレーの比較をエンビードらの現役ライバルたちではなく、過去の選手たちの偉業と比較するのはどうかとも思いますが、このナレティブもエンビードのMVPをかなり後押ししていると思われます。

そうなるとヨキッチは自然とMVPの1位投票から外れます。

また、ヨキッチへの「投票疲れ」があると言う人たちも多くいます。2年連続してヨキッチに投票した人も、特定のスターを選ぶ事に飽きてしまい、新しい名前を選びがちになるようです。投票者も人間なので、2回連続受賞者の数字がちょっとでも落ちたり、チームの勝利数が落ちたりすれば、他の活躍している選手に目が行くのは仕方ない事のようにも思えます。しかし、長年MVP投票者であるGQのハワード・ベックは、投票疲れは誤った通念で、3年連続でMVPを取るのは単にむずかしいだけだと言っています。

ナレティブをまとめると…

  • 今シーズンの候補の中には、シーズン通してひとりでチームを勝利に導いた選手がいるとは言えない。

  • ヨキッチは3年連続でMVPに輝くような史上最高レベルの選手ではない。

  • ヨキッチはエンビードだけではなく、過去の偉大なプレーヤーたちとも比較されている。

  • ヨキッチへの投票疲れ(?)がある。

個人的には「3年連続MVPに相応しくない」や「過去の選手との比較」の議論に関しては、ヨキッチの「レギュラーシーズンの活躍」よりも、「3年連続という偉業を達成させるに相応しい選手かどうか」の問題にすり変わっていると思うので、MVPを考える上であまり参考にしない方が良いと思っています。

ナレティブ的にはエンビード優勢というよりも、エンビードで決まりです。エンビードは2年連続得点王で、アドバンス・スタッツの数字もリーグ・トップレベルです。シーズン終盤の活躍の印象強さ&PRの猛プッシュもあり、MVPが決まったのだと思います。

逆に、ヨキッチはこれ以上何ができるのかと言うような数字を出していましたが、実際の投票は得られませんでした。アドバンス・スタッツでリーグトップで、トラディショナル・スタッツではほぼトリプル・ダブル(24.5得点、11.8R、9.8A)を記録し、チームをウェストの1位とリーグ4位に導いてもMVPが取れませんでした(予想)。普通であればMVPになってもおかしくありません。それを考えると、やはり、3年連続の壁を乗り越えるためには、他の選手の活躍への注目と投票疲れを打破するためにも、かなりの数字を残すか大きな話題性がなければいけないようです。それが、マジック、ジョーダン、レブロン、ステフ、ヤニスたちが3年連続でMVPに輝けなかった最大の理由ではないでしょうか。ひょっとすると、もう3年連続でMVPを勝ち取れる選手は出てこないかもしれません。

荒れたMVP議論

また、今年のMVPレースでは議論が荒れに荒れてしまった事も特徴のひとつです。きっかけはケンドリック・パーキンスとJJ・レディックのMVPレースの議論の中で、パーキンスがMVP投票者の多くは白人で、白人選手に対してはMVPになる条件があまくなり、平均得点がトップ10に入っていなのにも関わらずヨキッチ、ダーク、ナッシュの白人がMVPになったと主張した事です。これに対し、レディックはパーキンスが投票者は人種差別主義者だと揶揄したと非難。しかし、パーキンスはそれは「事実だ!」と何度も大声で反論。カオスです。観てください、左下のスティーヴン・A・スミスの顔(笑)。ESPNは翌日、パーキンスの示したデータは事実ではなく、平均得点がトップ10に入らずにMVPになった黒人もいたと番組で謝罪しました。

ESPNのライバルのTNTで解説者を務めるチャールズ・バークレーも、それは愚かで数字稼ぎのための「ESPN病」だと苦言を呈しています。

MVPレースが激戦のためか、ESPN病にかかってしまったのか、コメンテーターの間では自分の意見を正当化するために他の人が選んだ選手を貶めるような発言が多く見かけられました。そのためか、当のヨキッチ本人も「もう十分だ。考えられない。3年目…それについてはあまり考えていない。ひとつの試合に集中してプレーしていく。それだけだ。結果がなんであれ、それが結果だ。誰がMVPになってもそれにふさわしい」と話したりしていました。

こういった事が起こってしまう理由のひとつに、MVPの定義が人それぞれ違う事があげられます。更に、それぞれの投票者の定義に一貫性がなく、シーズン毎に変わってしまっているのです(この記事に出ている数人だけかもしれませんが)。これはシーズン毎に違う評価基準で選手の活躍を測る事を意味しています。投票者がこのような状態では彼らに責任感も生まれませんし、日和見的過ぎてMVP目指してプレーしている選手がかわいそうです。基準は人それぞれなので、平均得点最多選手を選んでも、ベストチームのベスト・プレーヤーにしても何でもいいと思いますが、少なくとも毎年同じ基準値と信念を持ってMVPを決めて欲しいものです。


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