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バックスのヘッドコーチ交代:エイドリアン・グリフィンからドック・リヴァースへ

優勝候補チームのシーズン中でのヘッドコーチ解雇は珍しいため、我がNBAレポーターもこれを取り上げない訳にはいきません。そんおチームの勝率がでリーグ2位タイであれば尚更です!しかもルーキー・ヘッドコーチで43試合目の出来事です。この異例づくしの解雇の裏でバックスにいったい何が起きていたのでしょうか。

その前にこの解雇がどれだけ珍しいかの数字を調べてみたのでご覧ください。

・過去の解雇時のチームの勝率トップ3

  • 1位は2015-16シーズンのキャヴァリアーズ/デヴィット・ブラット:30勝11敗

  • 2位は1979-80シーズンにレイカーズ/ジャック・マッキニー:10勝4敗

  • 3位は1981-82シーズンのレイカーズ/ポール・ウェストヘッド:7勝4敗

そして今シーズンのバックスのグリフィン解雇は30勝13敗で、勝率的には歴代3位に入ります。

ちなみにですが、上記リストのキャヴスレイカーズはHC交代後に優勝しています。今回のバックスはどうなるでしょうか。

・ヘッドコーチ就任最初のシーズンでの試合数
43試合での解雇は歴代18位。
今世紀に入ってからは6人目の事です。

・キャリア初のヘッドコーチでの試合数
43試合での解雇は歴代16位
直近だと、2019-20シーズンにキャヴスのヘッドコーチを辞任したジョン・ビーラインで54試合でNBAを去っています。

寄り道はこれくらいにして、さっそく本題に入りましょう。

バックスに何があったのか

就任したばかりのヘッドコーチを解雇するには大きな理由があるはずです。なにしろ4年契約で契約金は保証されていますし、チームのエースのヤニス・アデトクンボもグリフィンをインタビューして、グリフィンがヘッドコーチなる事を了承していたので、誰もが少なくとも彼のポジションは後2~3年は安泰なのではないかと思っていたのではないでしょうか。

しかし、グリフィンはシーズン折り返しても選手たちの信用を得られていなかったそうです。その予兆はトレーニングキャンプでも見る事ができました。

アシスタントコーチのストッツが突然辞任

シーズン開幕5日前に、リードアシスタントのテリー・ストッツが突然辞任しました。ストッツは元ブレイザーズでデミアン・リラードをコーチしていたヘッドコーチで、NBAヘッドコーチは初めてのグリフィンをサポートするためにフロントが雇ったコーチ経験豊富な方です。そのストッツにグリフィンが練習中にみんなの前で怒鳴った事件があり、ストッツはその2日後に辞任しました。詳しくは当時の私のツィートを見てください。

この時、グリフィンが怒ったのは、自分の立場をストッツから弱く見せられていると感じていたそうです。

また、グリフィンとストッツとフィロソフィーやスキームで意見が一致しなかったそうです。これらの件から、ストッツはグリフィンからリスペクトを感じていなかったので辞めたのではないかと言われていました。グリフィンはデイムとも仲が良く、HCの経験が長いストッツから背中を刺されると思って距離を置いていたのでしょうか。

これがグリフィンの最初の危険信号だったと言われています。

シーズン中の出来事

シーズンが開幕すると、グリフィンHCのやり方に疑問を持つ選手たちが出て来て、いろいろと問題が表面化して来ました。選手たちはグリフィンの攻守のスキームに疑問を持ち、チームのポテンシャルを引き出せないと感じていたそうです。グリフィンは自分のビジョンを選手にうまくコミュニケーションとれず、それを見ていたフロントも当然彼の能力に疑問を持つようになったそうです。

シーズン中にそれらが良く現れていた試合があったようで、要所要所を時系列にまとめてみました。以下、全国メディアのESPNThe Athletic、バックス情報には強いクリス・ヘインズがいるB/RThe Ringerローカルのミルウォーキー・ジャーナルセンティネルからの記事をまとめたものになります。

10月29日:ホークス戦 (試合結果/127-110で黒星)

レギュラーシーズンの2試合目となるホークス戦で17点差をつけられて負けた後、ヤニスは苛立って、ロッカールームの壁一面のホワイトボードにチームのスペースとアクションなどのスキームを描いて、どうしていけばいいかアシスタントコーチのジョッシュ・オッペンハイマーに興奮しながら伝えていたそうです。興奮のあまり、シャワーから出てきたボビー・ポーティスや兄のタナシスを捕まえて議論に参加させていたとの事。

すでにヤニスと噛み合っていないのがわかります。

11月1日:ラプターズ戦 (試合結果/130-111で黒星)

グリフィンはバックスにラプターズでディフェンシブ・コーディネーターをやっていた時と同じディフェンスを導入していました。それはセンターのブルック・ロペスにブリッツさせたり、ペリメーターで小さな選手を追いかけ回すようなもので、ディフェンスが常にトップ10以内に入っていたブデンホルザーのディフェンスを改良すると言うよりも、まったく違うディフェンスのコンセプトのように見えました。

確かにブデンホルザー時代の弱点だったディフレクションが昨年の27位から7位にあがりましたが、リムプロテクターでショットブロッカーのロペスがペイントにいないので、リバウンドが弱くなったりと、ディフェンスはなんとリーグ28位まで急降下。ディフェンスが売りで雇われたグリフィンにとっては最初から大きな痛手です。ロッカールームの中ではグリフィンのディフェンス、特に昨年DPOY2位だったロペスの使い方に疑問が募って行ったそうです。

ラプターズに負けた後、ヤニスを含むベテラン選手たちがグリフィンに、彼のディフェンスのスキームはチームのロスターには合わないと直談判したそうです。その後、グリフィンはPnRでドロップカバレッジに戻し、リム近くにロペスを置くようにしたとの事です。

しかし、ロペスとヤニスのディフェンスの強みを活かしきれず、ヤニスとボビー・ポーティスは依然としてペリメーターでスウィッチしたり、コートの真ん中でマンツーマンで守ったりしていました。そのため、ディフェンシブ・リバウンドは取れず、かつてのようなリムプロテクションがなくなったままでした。現在ディフェンスはリーグ19位(*1/26時点)。これまでのバックス・ディフェンスのバックボーンを完全に失っているように見えます。

11月22日:セルティクス戦(119-116で黒星)

ヤニスが交代させられてグリフィンとスコアラーテーブルで言い合い、自分で試合に戻ってしまいました。最後はヤニスが「私は何をすべきなんだ?」と言っているように見えます。この時点でグリフィンはヤニスの信用を失っていたのではないでしょうか。

12月7日:インシーズン・トーナメントのペイサーズ戦 (128-119で黒星)

インシーズン・トーナメントの準決勝でペイサーズに負けた後、ヤニスと他の選手がオフェンスのまとまりのなさについて発言しました。ヤニスは「私たちの才能レベルは素晴らしいが、私たちはもっとまとまりを持って組織化しなければいけない。時として、私たちはまったくまとまってないと感じる。オフェンスで何をしようとしているのかわからないし、時々ディフェンスでも私たちは戻らない」と話しています。

また、ボビー・ポーティスが試合後にロッカールームで試合終盤のオフェンスのマネジメントがないとグリフィンを批判。

この頃からバックスはグリフィンのリーダーシップに懐疑的になっていったそうです。

グリフィンは試合後にヤニス、リラード、ミドルトン、ロペスの4人を集めて、何がうまく行っていて、何がうまく行っていないか、どうするのがベストなのかを議論するミーティングを開いたそうです。グリフィンはそのミーティングで、リラードにもっと正しい読みをして、ボールを早く手放すように言ったり、ヤニスにはドライブする時やトランジションの時にチームメイトたちがペリメーターでオープンになっているのを見逃していると指摘し、いつもディフェンスに激しさがないと批判したそうです。

そのミーティングは数時間にも及び、みんながコーチングやチームメイトたちの事をオープンに話し合う事ができたため、ヘインズ曰く「生産性は高かった」そうです。

このミーティングのおかげなのか、バックスはその後7連勝を含む10試合で9勝と調子を取り戻しました。

しかし、1/1にペイサーズに再び負けてしまいます。今年に入ってからはディフェンスが118.4でリーグ23位と改善が見られません。選手達はグリフィンの攻守でのスキームと戦術に疑問を持ち続けていたそうです。

1月6日:ロケッツ戦 (112-108で黒星)

ヤニスは試合内容に不満で、「ディフェンス的にはプランがなくてはいけない、戦術はなんだ、私たちはオープンスリーをたくさん与えるのか?私たちはペイントに入らせるのか?相手がポストに入ったら、私たちはワン・オン・ワンで自分の相手にステイするのか?戦術はなんだ?」と話していました。

ヤニスはまた「私たちはもっと良くならなければいけない。私たちはもっと良いプレーをしなければいけない。私たちはもっと良いディフェンスをしなければいけない。私たちはもっとお互いを信じなければいいけない。私たちはもっと良くコーチされなければいけない。すべてのことで、みんなが良くならなければいけない。それはイクイップメント・マネージャーからはじまり、彼は私たちの服をもっと良く洗わなければいけない。ベンチはもっと良くならないといけない。チームのリーダーたちはもっと声を出さなければいけない。私たちはもっとショットを決めなければいけない。私たちはもっと良いディフェンスをしなければいけない。私たちはもっと良い戦術を持たなければいけない。私たちは良くならなければいけない…私たちにはそのためにあと4ヶ月ある。どうなるか見てみよう」と話し、遠回しにコーチたちを非難していました。

フロントオフィスも当然選手たちのグリフィンへの不満やスキームが機能していない事などは知っていて、このころからGMのジョン・ホーストとアシスタントGMのミルト・ニュートンがサイドラインからチームの練習を観察し出したそうです。普通フロントはオフィスのような遠くから練習を見守るようですが、ここまで近くに見に来て選手たちやコーチたちを驚かせたそうです。

1月14日:キングス戦 (OTで142-143とかろうじて白星)

キングス戦ではグリフィンが3点リードしている時に2回ファウルをするように指示。また、インバウンドプレーではフリースローが上手い選手へボールを渡すプレーをコールしなかったようです。グリフィンのミスが続きましたが、試合はなんとかリラードがデイムタイムを発動し、ロゴからのスリーで逆転勝利。それでもグリフィンの判断には多くの疑問が残り、すぐにヘッドコーチとして成長できるような感触よりも、彼への不安が勝ってしまうような内容でした。

1月17日:キャブス戦 (135-95で黒星)

ヤニスは右肩打撲で欠場。キャヴスも若いスターのダリアス・ガーランドとエヴァン・モブリーをケガで欠いているにも関わらず、40点差で大敗しています。これがグリフィン解雇の決め手になったようです。

このキャヴス戦の後のピストンズ戦で、ヤニスがグリフィンのプレーコールを変えたという話もあります。他にも怪我から復帰したミドルトンのプレー時間を把握していなかったり、ブルズ戦でファウルを取るべき時に取らないように指示をしたりしていたという話も出ています。

そして、その2試合後にバックスはグリフィンを解雇しました。

ここまでがバックスのグリフィン解雇の時系列になります。この映像でロペスのボディーランゲージを見ても、その深刻さが伝わってきます。

選手達はチームのロスターがジュルー・ホリデーがデミアン・リラードなどに変わったため、HCがはじめてのグリフィンに忍耐強く接するつもりだったそうです。しかし、選手たちはプライベートで役割、タッチ数、ケミストリーに不満を言い、常に攻守のスキームに疑問を持ち、グリフィンがチームを優勝へ導けると信じる事ができなかったそうで、これに球団も同意したカタチになります。

球団も最初にグリフィンを雇った時は成長の痛みを覚悟していたようですが、デミアン・リラードをトレードして状況が一変していました。ヤニスとリラードが優勝を狙えるのは、33歳というリラードの年齢を考えればあと3年でしょう。そのため、ヘッドコーチに最低限必要とされるロッカールームのマネジメントができなかったり、自分のビジョンにスター選手たちを納得させる事ができなかったのであれば、解雇は仕方ないのかもしれません。

そもそもグリフィンを雇用したのは、ヤニスが元選手の経験もしているグリフィンを押しをしたと言われていますが、マーク・スタインによると、それはどちらかと言うと、ヤニスはHC候補だったニック・ナースの元でプレーしたくなかったからグリフィンを選んだ感じだったそうです。

ドック・リヴァース

バックスがグリフィンの後任にベテランHCのドック・リヴァースを選びました。

The Athleticのシャムズによると、リヴァースは非公式にグリフィンのコンサルをしていたと言われていて、ベガスでのペイサーズとのインシーズン・トーナメント前にグリフィンと直接話をしていたと言われています。

ESPNのラモナ・シェルバーンは、リヴァースは数ヶ月グリフィンにアドバイスをしていて非公式のメンターだったと言っています。

ふたりのレポートには若干の言葉のズレがありますが、いずれにしてもリヴァースはグリフィンの相談に乗っていたと言う事でしょう。

B/Sのクリス・ヘインズによると、バックスの新ヘッドコーチ候補の中にはドック・リヴァース、ジェフ・ヴァンガンディー、ネイト・マクミランが入っていたそうです。また、The Athleticのシャムズによると、ウォリアーズのアシスタントのケニー・アトキンソンも入っていたそうです。ただ、シーズン中にヘッドコーチを解雇した場合は、アシスタントコーチがインテリム・ヘッドコーチを務めるのが一般的で、他チームのアシスタントコーチを引き抜いてヘッドコーチにするのは異例です(2021年にウルブズがラプターズのアシスタンコーチのクリス・フィンチをHCに雇って驚かれました)。アトキンソンの件は夏のヘッドコーチ探しで最終候補に残っただけで、バックスのただの希望だったと思われます。

グリフィン解雇の前にリヴァースやネイト・マクミランは友人たちにシーズン途中でのバックスのコーチになる事についてどう思うか聞いていたとも言われ、バックスはグリフィン解雇前に後任が実際にヘッドコーチになれるかどうか聞いていたようです。

上記でキャブス戦が決定的だったと書いていますが、この事やホーストが数週間前から練習を間近で見ていた事から、バックスはその前からグリフィン解雇を視野に入れて動いていたように見えます。リヴァースはグリフィンとチームの問題も良く理解しているため、グリフィンの後任としては最適です。

また、巷ではすでにバックスはプレーオフのイースト準決勝で負けるのが決まったとか、プレーオフシリーズで3-1から逆転されるとかのジョークが出ていますが、選手たちのリスペクトを得られて壊れたロッカールームをまとめられるベテランコーチはリヴァース以外にいないのではないでしょうか。もう間違ったコーチを雇うという失敗はできないバックスにとっても、優勝経験があり、セルティクス時代からの19シーズンでプレーオフを逃したのはたった3回というレギュラーシーズンでは確かな実績を持つリヴァースは頼り甲斐があります。

リヴァースは就任記者会見でさっそチームのアイデンティティー確立が目標だと明かしました。「スローガンが『Fear The Dear(鹿を恐れろ』なら、鹿を恐ろしくしないといけない…私たちは私たちが何者なのか、誰なのか見つけなければならない」

シーズン途中でのヘッドコーチ交代の最大の問題のひとつにプレーの専門用語を統一する事があげられます。例えば、PnRのボールハンドラーをスクリーナーから離してサイドラインに寄せるディフェンスは一般的には「アイス」と呼ばれていますが、スパーズのポップはそれを「ブルー」と呼んだりしています。リヴァースは少しでも選手たちの負担を減らすため、リヴァースはすでにバックスが使っている単語の方に慣れる選択をしたようです。リヴァースもイェガーもプレーの名前がわからなかった時は、それを何と呼んでいるのかすでにいるコーチたちや選手たちに聞いているとの事。

オフェンスではヤニスとデイムのPnRの数を増やす事が期待されます。グリフィン時代は1試合につき平気14回と物足りないものがありましたが、リヴァースは昨年シクサーズでやっていたエンビードとハーデンのPnR回数と同じレベルの20回以上まで増やす事ができるのでしょうか。またオフェンスも単調で、選手やボールが第2や第3選択肢まで動けるようになる事が望まれます。また、選手たちが不満を持っていたディフェンスのスキームもどうして行くかに注目です。

気になるリヴァースのサラリーですが、3.5シーズンで$40M級の契約のようです。この金額はNBAコーチのサラリーのトップクラスで、スパーズのグレッグ・ポポヴィッチの$16M、ヒートのエリック・スポールストラの$15M(来シーズンから)、ピストンズのモンティー・ウィリアムズの$13Mに次ぐ金額になります。

しかもバックスは現在夏に解雇したマイク・ブデンホルザーの$8Mとグリフィンの$4Mを払っています。この3人のサラリーを合わせると$17M~$18Mになり、HCにかなりの金額をコミットしている事になります。ブデンホルザーの契約が終わった後もグリフィンとリヴァースで$18Mになるはずで、楽にはなりません。しかも、リヴァースが連れてきたデイヴ・イェガーらのアシスタントのサラリーも安くないはずなので、かなりの出費になっているのは間違いありません。フロントやスタッフにはサラリーキャップがないのでいくら使っても構わないのですが、バックスはスモールマーケットのチームなので見ているこちらが不安になってしまいます。それだけバックスはこのチームにオールインして優勝に懸けていると言っていいでしょう。

リヴァースの元、バックスはかつてのディフェンスを取り戻し、セルティクスやシクサーズらがいるイーストで勝ち上がって優勝争いにからんでいけるのでしょうか。まずはどのようなアイデンティティーを短期間でつくりあげるのかに注目です。

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