AD契約延長ブレークダウン
アンソニー・デイヴィスがレイカーズと$186.6Mの契約延長にサインしたのには驚きました。もし2024年の夏にETOを行使してFAになれば、この契約延長でのサラリーよりも$70M以上の大きなサラリーを得る事ができるためです。しかも、契約延長が可能になってすぐに契約延長合意しています。おそらくかなり前からFAにならずに契約延長をすると決めていたのでしょう。
今回はこのADの契約延長について解説していきます。
ADの契約延長の詳細
ADの契約延長は3年になり、各シーズンのサラリーは次のようになります。*2025-26シーズンのサラリーキャップはESPNのボビー・マークスが使っていた$164.5Mで計算。
契約延長1年目(2025-26):$57.6M
契約延長2年目(2026-27):$62.2M
契約延長3年目(2027-28):$66.8M(プレーヤー・オプション)
合計:$186.6M
新CBAの契約延長の改定で、契約延長の初年度のサラリーは契約最後の年から140%までの数字にできるようになりました。そうなるとADの契約延長は$64.8Mからはじまるはずですが、その年の10年目以上の選手のマックスサラリーは35%である$57.6Mを超える事はできません。そのため、ADの契約延長の初年度のサラリーは$57.6Mになっています。(*Spotracでは2025-26シーズンのサラリーキャップは$156.2Mと予想されているので、実際の数字はもっと下がる可能性もあります)
また、なぜ3年しかないと言うと、契約延長は残りの契約+契約延長でマックス5年の制限があるためです。ADにはまだ2023-24シーズン($40.6M)と2024-25シーズン($43.2M)の2年が残っています。
ETO(アーリー・ターミネーション・オプション)について
ADの契約はちょっと変わっていて、現在の契約の最後の年はプレーヤー・オプションではなくETOになっています。
ETOはその名の通り、選手にETOの年に契約を破棄できる権利を与えたものです。選手が現在の契約から抜け出せるという意味ではプレーヤー・オプションと同じですが、契約延長をすると違いが出てきます。
プレーヤー・オプションの場合:プレーヤー・オプションを持つ選手が契約延長をする場合、オプションを行使できません。仮にADの2024-25シーズンがETOではなくプレーヤー・オプションだった場合、契約延長は2024-25シーズンの契約をオプトアウトしてからになります。契約延長したサラリーはオプションがある年のサラリーより高くならなければいけないという制限があります。
ETOの場合:ETOを持つ選手が契約延長をする場合、ETOを行使しないといけません。そのため、ETOの年の契約を確定させて、その後の年からの延長になります。ADの場合、2024-25シーズンの$43.2Mを確定して、次の025-26シーズンから契約延長がはじまります。
実際にADがプレーヤー・オプションからの契約延長した場合と、ETOで契約延長した場合の違いを計算してみます。
● プレーヤー・オプションの場合:
2023-24シーズン:$40.6M
2024-25シーズン:$52.3M←契約延長開始
2025-26シーズン:$56.5M
2026-27シーズン:$60.7M
2027-28シーズン:$64.9M
合計:$275.2M
● 今回のADの契約延長:
2023-24シーズン:$40.6M
2024-25シーズン:$43.2M(ETO)
2025-26シーズン:$57.6M←契約延長開始
2026-27シーズン:$62.2M
2027-28シーズン:$66.8M
合計:$270.4M
契約延長が終わった時点で比べると、プレーヤー・オプションだった時の方が$5M多くもらえる事になります。
また、プレーヤー・オプションであれば、契約金のバリューがキャップの上昇率に比べて相対的に低くなっていくので、それを少しでも早く適正な価値に戻す事ができます。例えば、ADの2024-25シーズンのサラリーは$43.2Mですが、これはキャップの29で、マックス級の選手が得られる$35%からはかけ離れています。もしプレーヤー・オプションであれば、2024-25シーズンを$43.2Mからではなく$52.3Mから契約延長をはじめられ、最終的には$5M得をします。
ただ、ETOには有利な点もあります。それはトレードボーナスです。ETOがある選手をトレードした場合、残りの契約金額のパーセンテージがトレードボーナスになりますが、オプションの場合は、オプションの年のサラリーは残り契約金額として計算されません。もしこの夏にレイカーズがADをトレードしたら、トレードボーナスは$12.5Mになり、もしADがETOではなくプレーヤー・オプションを持っていた場合のトレードボーナスは$6Mになります。
契約延長時がコロナ化でBRIが減っていたとしても、キャップが上昇すると予想されていたので、なぜADがプレーヤー・オプションではなくETOを選んだのかはわかりませんが、おそらくこのトレードボーナスをつけて自分を少しでも守る事だったと思われます。
ETOを行使した場合のADのサラリー予想
ADが来年の夏にFAになり、レイカーズとマックス再契約した時のサラリーを計算してみます。
2024-25シーズン:$52.3M
2025-26シーズン:$56.5M
2026-27シーズン:$60.7M
2027-28シーズン:$64.9M
2028-29シーズン:$69.1M
合計:5年$303.7M
これは今年のジェイレン・ブラウンの史上最高契約延長サラリーに匹敵するもので、それに2023-24シーズンの$40.6Mを加えると、ADの確定サラリーは合計で$344.3Mになります。
これを今回の契約延長と比較してみると、その差はなんと$73.8Mにもなります。
なぜADは契約延長を選んだのか?
結局、ADはこの可能性に賭けずに、今回の契約延長にサインしました。こればかりは本人に聞かないとわからない事ですが、考えられる理由があるとすればケガです。ADはケガがちで、レイカーズに移籍してからは2021年のアキレス腱炎症をはじめ、ふくらはぎやグロインの肉離れ、左MCL捻挫、右足首、足などのケガをしていて、レイカーズに移籍してからの出場試合数は、62試合(レギュラーシーズンは71試合に短縮)、36試合、40試合、56試合となっています。これで来シーズンもっと大きなケガをしてしまったら、前述したような5年マックス契約はできなくなるかもしれません。
特に彼はペリカンズ時代にチームメイトだったデマーカス・カゥズンズが試合中にアキレス腱損傷したのも間近で見ていますし、それからカゥズンズが1年契約しか得られていないのも見ています。人生何があるかわかりません。可能性のある$303Mよりも、今確実に手に入れられる$186Mを選んだのでしょう。
レイカーズから見た契約延長
この契約延長はレイカーズにとってはリーズナブルです。この契約が終わる頃にはADは35歳になっていますが、サラリーはサラリーキャップのおよそ31~32%になっているので(サラリーキャップ年間10%の上昇率の場合)、許容範囲内だと思います。もしADが来シーズン大活躍してオールNBA入りすれば、前述したような$300Mクラスのマックス契約は免れなかったでしょう。
ADはケガやスリー%の低さから評価がそれほど高くありませんが、昨シーズンのADのパフォーマンスは素晴しく、アドバンス・スタッツのEPMではリーグ12位、PERではリーグ5位、RAPTORではリーグ5位になっていて、NBAトップ15に入ってもおかしくない数字です。レイカーズにとって、ADの契約延長の年間平均サラリーが過去最高の$60M以上であったとしても、それが3年間に限定された上に$70Mも節約できたことはある意味幸運だったと思います。
ADの手取りについて
XでAndrew PetcashさんがADの手取りについて投稿していたのがおもしろかったので紹介します。ここではADの契約延長の1年平均サラリーの$62Mで計算しています。
● サラリーが$62Mの時にかかってくる税金
連邦所得税:$22.9M
NBAエスクロー:$6M
州税:$4.1M
エージェントフィー:$1.8M
ジョック税:$1.8M
社会保障税/メディケア(健康保険):$1.4M
手取り:$24M
おおよそ6割が税金などで引かれてますね。
フロリダ、テキサス、テネシーには州税がないので、もしヒートやマジック、マーヴェリックス、スパーズ、ロケッツ、グリズリーズの選手たちがADと同じ契約をすれば、手取りは$20M近く増えるようです。かなりの違いですね。
*ジョック税:Chat GTPによると、ジョック税とはプロアスリートが試合を行う地域の税金を指す言葉だそうです。アスリートのサラリーや賞金などが試合が行われる都市や州によって課税される仕組みであり、彼らが移動して試合をするたびに異なる税金が適用されます。これはプロスポーツ選手が所属するチームの本拠地以外で試合をする際に、その地域の税制に応じて税金が差し引かれる仕組みです。